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2013年07月23日(火) |
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砂 |
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いつか。 数か月後か、数年後か。
あなたは私との恋の話を、誰かにするだろう。 「10歳離れてた」 「遠距離だったんだ」 「まだ学生でさ」 「Fカップでインポートの下着つけてた」 「魚の食べ方は上手だったけど、魚自体はそんなに好きじゃなかったな」 「少し乱暴に扱われる方が好きだったね」 「時々なんでもないのに泣いてたよ」 そんな風に話すんだろうなぁって思う。
あなたのことだから、 「いい子だったよ。ステキな恋だった」 そう言ってくれるんじゃないかな。 私に昔の女の子の話をした時、そうだったように。
その時の私は、短いセンテンスのただのエピソードだ。 語られるのは私ではなく、私の属性。
お互い様なんだろうけど、そこはやっぱり寂しいと思う。
言の葉は折り重なったまま、時の川面に浮かび、ゆらゆらと漂う。 沈んでしまった記憶は川底で洗われ、いつか削られ砂になる。 砂になった記憶は時折、漂う言の葉の隙間から射す光を受け、石英や雲母みたいにキラキラ輝くだろう。
だから、私は。 あなたの記憶に沈む私は。 あなたの人生に光が溢れるようにと願ってやまない。
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2013年07月09日(火) |
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始発を待ってる。 |
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始発を待ってる。 駅前のロータリーのガードレールに腰かけて、始発を待ってる。 明け方の、青とも紫とも形容しがたい空を見上げる。 星と月と太陽が、微妙な距離で牽制し合うこの彩度の、空の色が好きだ。
三者で牽制なんて、まるでアタシとママとパパみたいだ。 嘘。 そんな時代は数年前に終わった。 アタシの受験も就活も終えた今、アタシたち親子に緊張感なんてない。
パパは定年になって新聞を読むのを止めた。 ニュースはテレビで見ればいいし、最近はスマホだってある。 夕食の時、ママにそんなことを言ってた。 夕食と言えば、最近食卓にイタリアンが頻繁に並ぶようになった。 パパがイタリアン好きだったなんて、知らなかった。
始発はまだだ。 黒と青のグラデーション。その均衡が徐々に崩れ、街の輪郭が姿を現す。 新聞を運ぶトラック、ファミリーマートのトラック、営業所に戻るタクシー。 街が徐々にボリュームを上げる。
朝の空を眺めていると、世界を発見したような気分になる。
元カレが言ってたセリフ。違う、別の先輩だった。あれ?良く覚えてない。 大袈裟なんだよ、って思ったけど、本当はそういう気持ち、判らなくもない。 アタシもたまに発見する。 ママがamazonでスゴイ高いオリーブオイルを注文したこととか。 些細なことなんだけど、些細なアタシの世界では、それは地球が回ってることを発見したのに等しい出来事なのだ。
始発はもうすぐだ。 さっきから、片手にストローの刺さったアイスコーヒーのプラカップを持った男の子が視界に入る。 この近所にはスタバどころか、ドトールさえない。 きっと郊外のコンビ二かなにかで買ったんだろう。 ということは、車なんだろう。 車で始発は待たないから、きっとナンパかなんかだろう。
男の子はチラチラとコチラを見ている。 土曜の朝のローターリーだもん。カラオケ帰りの女の子なんて珍しくないよ。 やっぱスーツで朝帰りって目立つ?それとも髪、酷いことになってる? トートバックから鏡を取り出し、自分の顔を覗く。
駅のシャッターが開いた。 もうすぐ電車が動く。
男の子が携帯に何か言ってる。 「…あと何分くらい?…」 待ち合わせか。じゃ本当に髪型が酷い事になってるのかもしれない。
時々、アタシは世界を発見する。 それはアタシが世界の外にいるからだ。
難しい概念の話じゃない。
時々、寂しくなるだけだよ。
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