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五十嵐 薫
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2011年09月14日(水)
彩月

今日はサイの命日だ。
時々、もう一度会いたいと思う。
いつも、上の空の目をして遠くを見つめてた。
いつか、遠くに行く子なんだと思ってた。
意外に早くやって来たお別れに、唖然とした。

時々思う。
繊細すぎる子が生き残るってのは、なかなか大変だ。

サイはキレイな子だった。
黒く豊かな髪、いつも少し潤んだ瞳、そして磁器のような白い肌。
彼女は生まれてくる姿を間違えた。
鶴に産まれれば良かったと思う。
姿を消してしまっても、シベリアかどこかで幸せに暮らしてるんだと信じることができた。

サイと夜歩いたことがある。
確か、石巻だった。
海につながる、川沿いの道だった。
波の音が聞こえてた。
サイは、雲間に浮かんだ月を眺めながら
「キレイ。今、ここで、死にたいな。」
と呟いた。

中秋の名月に、二日ばかり遅れた。
君に何を手向けよう?

天気予報は晴れ。
今夜も、月はキレイだ。
君がいなくても、きっとキレイだ。



2011年09月13日(火)
9.12 2

閉じた瞼に影を感じ、目を開ける。
覗き込む女の笑顔に微笑み返し、もう一度瞼を閉じる。

「起きて。」

女の声に、もう一度目を開ける。
女の顔はなく、空と砂丘が作る青と赤のコントラストが目を射す。

首を持ち上げ、レンジローバーのダッシュボードに肘を付く。
車を降り午後の逆光の中に立つ、女の後姿を見つめる。
風に持ち上がるベールを押さえながら女が眺めるのは、砂丘だ。
斜めに射す午後の太陽にキラキラと輝く、砂漠だ。

「ね、見て。ラクダ。」

女の視線の先には砂丘の向こうに消えていく、野生化したラクダの群れだった。
水場を求めて旅しているのだろう。

「日本のアニメに出てくるシーンみたい。」
「ナウシカ、だっけ?」
「あれはまだ見てない。」

振り返った女は唇を尖らす。
「今度一緒にビデオ見ようねって、あなた言わなかった?」

青い空、白い雲、赤い砂。
遠くに揺れるのは蜃気楼なのか、陽炎なのか。
荒野に点在する岩石は、まるで古代のオブジェだ。

「砂漠っていつ来てもいいね。」
「ああ。」

内地から吹く風は穏やかだ。
きっと夜も晴れるだろう。

「きっと今夜の月もキレイだよね。」
「ああ。」

女は振り返り僕の顔を見ながら言った。

「平和でいいね。」



2011年09月12日(月)
9.12

閉じた瞼に影を感じ、目を開ける。
覗き込む女の笑顔に微笑み返し、もう一度瞼を閉じる。

「起きて。」

女の声に、もう一度目を開ける。
女の顔はなく、空と積乱雲が作る青と白のコントラストが目を射す。

首を持ち上げ、堤防のコンクリートに肘を付く。
午後の逆光の中に立つ、女の後姿を見つめる。
風に持ち上がるストローハットを押さえながら女が眺めるのは、海だ。
斜めに射す午後の太陽にキラキラと輝く、浦賀水道だ。

「ね、見て。帆船。」

女の視線の先には白い帆をはためかした、クラシカルな船があった。
大桟橋に向かっているのだろう。

「ジブリの映画に出てくる船みたい。」
「コクリコ坂、だっけ?」
「あれはまだ見てない。」

振り返った女は唇を尖らす。
「一緒に見に行くって言ったじゃん。」

青い空、白い雲、紺碧の海。
対岸に見えるのは金谷なのか、木更津なのか。
行き交う船の様々な色彩と形は、まるでレゴか積み木のようだ。

「海っていつ来てもいいね。」
「ああ。」

海から吹く風は穏やかだ。
きっと夜も晴れるだろう。

「きっと今夜の月もキレイだよね。」
「ああ。」

女は振り返り僕の顔を見ながら言った。

「平和でいいね。」


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