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2010年02月13日(土) |
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0214 |
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低気圧の迫った空は、鉛のような質感だ。 雨混じりの冷たい空気に、さっきマフラーを巻きなおした。 手袋をした指先は、コートのポケットの中で冷たくなってる。
江ノ島は低い雲に霞み、時折吹く強い北風が水面に白い波を立てる。
時々、すごく昔のことを思い出して、胸が疼くことがある。 初めてのデートで、上手くエスコートできなかった女の子こと。 母親の大事にしてたマフラーに、タバコで穴を空けてしまったこと。 無くしてしまった指輪やピアス。 捨ててしまった手紙。 とうに別れた女の口癖。
君のこともそうだ。
一度だけ、一緒に江ノ島に行った。 十月の海岸で、君は水着になった。 唇はすぐ紫になったけど、君は珍しく上手に笑った。
「湘南ってとこに、行ってみたかったんです。」
ポテトを摘んだ指先を舐めながら、君は言った。 コーラとベーコンレタスバーガー。 まるで、高校生のデートみたいだと思った。
「楽しい。」
君は、窓の外を眺めながらそう言った。 海風でざらざらした窓の向こうには、江ノ島が見えた。
もっと、美味しいレストランに行けば良かった。 鎌倉プリンスに泊まったって良かった。 珊瑚礁で飲んでも良かった。 もっと、君の望むことをすれば良かった。
コートのポケットからスキットルを取り出す。 口に含んだラムはゆっくり食道を落ち、少しだけ身体を暖めてくれた。
スキットルを口から離し、そのまま傾ける。 海岸の砂に零したラムの行方は海だ。 君の眠る場所がよく判らないからさ、こうして一緒に過ごした場所で祝うことにするよ。
誕生日おめでとう。
もっと、君に優しくすれば良かった。 今更、そう思うんだ。
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