妄言読書日記
ブログ版
※ネタバレしています
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2007年09月28日(金) |
『ハゲタカ 上』(小) |
【真山仁 講談社文庫】
以前にちょびっと書きましたが、NHKドラマの「ハゲタカ」がおもしろかったので、原作本を読んでみました。 私は、物理と化学なみに、政治経済が苦手なのですけれど、よもや金融小説を読むことになるとは。
初めて読むジャンルですが、粗筋はだいたい知っているので詠みやすくはあります。 とは言ってもドラマとはけっこう違う部分もありますけれど。
上巻を読んだ印象は、なんだかツールとしての小説だなぁという感じ。 企業買収や、再生といった業界をわかりやすく説明するための手段としての小説。 学研のマンガみたいなもん。
どうしてそう思うのかと言えば、文章に気を使ってないというか、吟味が足りないというか。 もっと表現の幅を広げてくれ、と。 下手なわけではないのですが、おっと思う表現がないんだよなぁ。 使い古された手法とか、なんか言葉が古いとか。
そういう部分がひじょうに気になる。
まあでも、ドラマから入った私は、鷲津さんが冒頭でジャズピアニストしてて爆笑したり、アランとリンと鷲津さんが、擬似家族かっつーほど仲良しでびっくりしたり、リンと鷲津さんができてて意外だったりといろいろと楽しんではいます。
ドラマと違う部分で上巻で一番ショックが大きかったのは、芝野の同期、沼田がスキャンダルで辞職したということですね。 なにしろドラマでは、辞職する芝野に「辞めないのも勇気だよ」と言っていた人ですから、全く逆。 うーん、びっくりだなぁ。 沼田さん好きなのにー。
芝野が辞めて、再生事業にうつる課程は、ドラマよりもわかりやすかったです。 下巻はどうなってるのか。 鷲津さんと芝野はいったいどういう因縁があったのか、気になっております。
2007年09月27日(木) |
『百年の誤読』(他) |
【岡野宏文・豊崎由美 ぴあ株式会社】
ここ百年のベストセラー本を、年代ごとにつっこんでいこうという本です。 うん、笑ったな。 ツッコミは大事だよなぁ、と改めて実感。 盛大に罵詈雑言浴びせているのもあれば、普通に賞賛している作品もある。 褒めてるのはもちろんだけれど、不思議とつっこまれまくっている本も読みたくなる。 武者小路とか読みたくなったもん。 でも、根本的にYoshiへの罵詈雑言と、武者小路へのツッコミは違う。 Yoshiはその名を目にするのも腹立たしいですね。いまだに。 この辺への怒りをぶちまけるとキリがないので、やめますが。
実はいまだに三浦綾子を読んだことがないのですが、普通に酷評されてて(氷点)、いささか切ない気分になりました。 一応、地元を代表する作家だし。 同じく、ジュンちゃんは相変わらずつっこまれまくってますが、あまり切なくならないな。しょうがないよ。失楽園だもん。 あのツッコミみたら読んでないけど読みたくなった。
それにしても、2000年〜2004年の間のベストセラーは、一冊もまともに褒められてないのが、なんとも虚しい。 2004年が、2007年にまで広がってもおそらくあまり変わらないだろうな。
2007年09月21日(金) |
『グラスホッパー』(小) |
【伊坂幸太郎 角川文庫】
伊坂はこんなに売れっ子なのに、毎回毎回新しいこと新しいことに挑戦しようとしている姿勢が素晴らしい。 きっと、適度に文章が上手くないのが逆にいいのかも。 売れている状況とは全く無関係に、書こう書こうとしているように見える。 私が勝手にそう感じているだけなのかもしれませんけれど。
三人の殺し屋と、普通の青年の4つの視点から語られます。 解説で4人の一人称って書いてますけど、これ、三人称ですから。 伊坂にしては珍しい、全部三人称で書かれている話し。 このおかげで、4人の行動や思考が高みから俯瞰されているような印象を受ける。いつもよりも突き放したような印象を受けるのもそのせいかも。
以下はネタバレを含みます。
軽い文体に比して、重いテーマや残酷なエピソードを真っ向から扱う伊坂ですが、今回は軽いトーンを少し抑えていたように思います。 他の作品に比べて死んでいくキャラクターも多いし。 三人出てくる殺し屋のうち二人までが死んでしまう。槿にしたってあのあとどうなったのか。 『アヒルと鴨〜』で書いたものをさらに一歩踏み込んだ、というような印象を受けました。
伊坂作品の、主人公サイドにいる女性っていっつも似たような女性な上にあまり書くのは上手くないんだけれど、不思議と嫌いではない。 鈴木の殺された妻も、変なキャラクターなのだけれど、憎めない。すみれにしてもそう。
「僕は、君のために結構頑張ってるんじゃないかな」と最後の方で、鈴木が思うシーンは、なんだか切ない。 君のために頑張るというのは、生きている相手に言うのは重荷のように感じるのだけれど、死んでしまっている妻に対して思うのはなんだかとても切ないことのように思う。
2007年09月15日(土) |
『ゲルマニウムの夜』(小) |
【花村萬月 文藝春秋】
フランシス・ベーコンの表紙もびっくりだけど、口絵にいきなり萬月の写真というのも相当びっくりだ。 萬月は己も、作品の一部だと認識してるんだろうか…。
遠い昔に『ぢんぢんぢん』を読んで、その主人公にむかっぱらを立てて以来読んでなかった萬月作品ですが、この小説の主人公も相当身勝手です。 身勝手で暴力的なのに、なぜかいろんな人に慕われ愛される主人公。 不条理です。 萬月のそういうところが、嫌いなんだ!と思いつつ読みましたけど、面白かったですよ。 豚だの虫だの、生理的にいやぁなシーンもありますが。 いちいち、生理的にいやぁな感じを意図するシーンを入れてくるよなぁ。
主人公とモスカ神父のシーンがよかったですけども、よかったけども…やっぱりこの主人公が嫌いなんだー!!
芥川賞とってるだけあって隙がないので、嫌いだという以外は、特に文句はつけようがないところが、また腹立つんだよなぁ。 上手いんだよなぁ。結局のところ。
2007年09月11日(火) |
『みんな元気。』(小) |
【舞城王太郎 新潮文庫】
文庫化するに際してどうして、二冊になっちゃったんだろうなぁ。 三編しか入ってないじゃないかー。 短編集です。 そろそろまた長編読みたいです。
舞城は、タイトルと内容が繋がる瞬間が必ずあって、その瞬間が好きです。 「みんな元気。」もそう。 説明は難しいのですが、おもしろかったです。 完全にフィーリングでしか読めないんですよねぇ。 書いてることはけっこう真っ当なんですが、手法が弾けてるから。 「矢を止める五羽の梔鳥」はさすがに、よくわかりませんでしたけど。
2007年09月09日(日) |
『文学賞メッタ斬り!』(他) |
【大森望・豊崎由美 PARCO出版】
いまさら感はあるのですが、いまさら読んでみました。 ちょうど、金原ひとみ&綿矢りさが受賞した年に出た本なので、2004年発行。
直木賞を植木(10代のころですよ!)だと思ってたり、直木賞を取ったら次は芥川賞ですねっていう、笑い話のどこが笑いどころなのかわからないくらいに、文学賞に無興味な私ですが、これを読んでその姿勢に特に間違いはなかったんだな、と安心します。 やっぱり、芥川とか直木って、たいしたもんで取ってないよね!?
ROUND4の選評を斬る、というかツッコミが大いに笑えました。 そんなおもしろいこと言ってたのか。 今度から気にしてみよう。
私が唯一気にかけてるメフィスト賞も、それなりに評価が高くてよかったです。 最近、なんか出てきましたっけ? にしても、舞城王太郎プッシュぶりが、凄かった。もういいよ、王太郎の話は!とちょっと思った。 もちろん、私だって王太郎は好きですが。 あと、綿矢りさも大プッシュだったな。 読んでないんだよな〜。
文芸好きの飲み屋談義って感じで楽しかったです。
2007年09月06日(木) |
『慈母の星 北斗の拳ユリア外伝』(漫) |
【漫画:笠井晶水 原案:武論尊・原哲夫 小学館ビッグコミックスペシャル】
店頭でこの本を見つけて、ややしばらく、これはどっからどう見ても、笠井あゆみだよね?そうだよね?と自問自答を繰り返してました。 微妙にペンネームが違いますが、あきらかに笠井あゆみの絵だし。でも、一応と思い、中身をこそっと覗いてみたら、やっぱり笠井あゆみだったので読んでみました。 やはり、普段、『麗人』の表紙描いている人と同一だとバレると何かとまずいのでしょうか。
北斗の拳は、子どもの頃にアニメで見てましたが、映像のインパクトに魅せられていただけで、内容そのものは全く覚えていないんですよねぇ…。 いずれ、読みたいもんです。 そんなわけなので、麗しい笠井イラストを楽しむだけに読んでいたのですが、内容もまあまあ面白かったんではないかなーと思います。 笠井ファン暦もけっこう長いですが、漫画はいまいちなんですよ…笠井さんは。 そろそろ画集出ませんかね。
生粋の北斗ファンが読んでどう思うのかは私には皆目見当もつきません。 なぜ、笠井さんが北斗の漫画を描くことになったんだろうか。凄いチョイスだ。私はいいと思うけど。
2007年09月05日(水) |
『旅をした人 星野道夫の生と死』(他) |
【池澤夏樹 スイッチパブリッシング】
昨年末辺りから、星野道夫に興味があるのですが、そんな時に見つけたこの本を読んでみました。 池澤夏樹にもなんとなく惹かれるものはあったのですが、結局今まで読まずに来てしまっていたので二重に丁度よかった。
誰かを悼む追悼のための本というのは、基本的に私は避けてしまいます。 誰かというのは人でも動物でも同じで、誰かを悼む気持ちというのは圧倒的に正しくて、ただただその哀しみの前にうなだれるばかりになってしまうのが、非常に重い。 だから避けるのですが、この本はその一行目を読んだ時に、これならば読めるとすぐに思いました。
この本は主に、星野道夫が亡くなった後に行った講演や対談の収録を中心としています。 講演の収録なので同じ話しが何度も出てきて、その意味については池澤夏樹自身も触れています。 でもそれを私がここで抜き書きしても、真意は伝わりにくいように思うので書きません。 池澤夏樹が友人の死をどのように受け入れていったのか、ということが克明に記されているわけではありませんが、何度も行われる講演や対談、追悼文の中にその過程は見えてきます。
よい本でした。
2007年09月03日(月) |
『チルドレン』(小) |
【伊坂幸太郎 講談社文庫】
連作短編集。 でも、ほとんど長編と言っても差し支えないかもしれない。 伊坂のお馴染みアイテム、銀行強盗の話しからスタートしてます。 時代が行ったり来たりするのも、視点が色々と変わるのもいつもの手法。 色々な人物を通して語られる、陣内という人物が最初、響野(陽気なギャングの)っぽいなぁと思ったりもしたのですが、本人の意図とは関係ないところでキーになっているあたりの使い方が上手いなぁと。
「チルドレンII」の結末は、陳腐な印象もないこともないけれど、その単純さに軽やかな感動があって好きです。 「イン」の最後、陣内が「見つけた」と言った瞬間に、正体がわからないように殴ったというその方法がわかって、思わず笑ってしまいました。 伊坂の作品は思わぬところで急に、話しが繋がる楽しさがあります。
こんなに好感と信頼を持って読める作家もあまりいない。
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