妄言読書日記
ブログ版
※ネタバレしています
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2006年08月24日(木) 『エデン』(小)

【五條瑛 文藝春秋社】

近未来の、政治・思想犯専用の特別矯正施設に入れられた、ストリートギャングの亞宮くんを主人公にした、連作形式の小説。

今回、久しぶりに主人公の視点を固定していたためか、まとまりのよい一作となっていました。
登場人物が多いのはいいのですが、やはり視点がいろいろと移動するのは、五條氏得意ではないようです。

舞台の設定もおもしろく。

おもしろかったのですが、なんでか全体的にあっさりした読後感があるのですよねぇ。
北所長とか、もう少しアクの強いキャラでもよかった気がするし、宇津木さんとかもいいポジションにいたのにな。
思想犯の皆様方がもう少しキャラ立ちしてたらよかったのかも。
亞宮くんとか、蔡とかよかったのだけどなー。

でも面白かったです。
この話しあたり、漫画化したらいいかも。


2006年08月22日(火) 『犬マユゲでいこう ア・ティエンポ/ウルヘンテ』(漫)

【石塚2祐子 集英社Vジャンプコミックス】

2巻が出てから、7年の歳月を経てようやく(しかも二冊同時)発売となりました、犬マユ。
根強いファンやマニア待望の、ゲームコラムが主な内容の当漫画でございますが、私自身がファンなわけではないので、ピンと来ないものもあります。
とりあえず、布教の意味も含めて感想を二冊まとめて。

私としては編集部内部ネタにはなんの興味もないので、純粋にゲームコラムとして機能している回が好きです。
石塚先生ほど、ゲームを遊んでいる人もなかなかいない。
ゲーマーは数多いますけれど、独自の面白みを発見することにかけては素晴らしいセンスを発揮する。
そのいい例が『かまいたちの夜』の回だと思います。
この回読んで、当時、かまいたちの夜、買いに走りましたもの。

やってるとどうしても飽きてきて嫌になるゲームですが(私の場合)、ゲームを楽しむにも想像力って大事であり、唯々諾々と製作者の思惑通りにプレイしていては駄目なのかもしれない、と思わせられます。

犬マユ読むと、必ず、そのゲーム是非やってみたい!という気分にさせられます。
なかなか優秀なゲームコラムだと思います。
ただし、取り扱うゲームが古いのですが。でも新しいゲームの情報はあふれているので、これはこれでありがたいし、ファミコン時代からのゲーマーにはたまらないことでしょう。

今回の二冊では、さすがに7年の間に連載された全ての回が収録されていないようなのが残念。
二、三年に一回は発行できるようにしてもらえるとよいですねぇ。


2006年08月21日(月) 『仔羊の巣』(小)

【坂木司 創元推理文庫】

ひきこもり探偵、第二作目でございます。
前作のときも散々、甘い甘いと言いましたが、今回もやっぱり甘いよ、と。
前作では結構、鳥井の内面にまで踏み込んでいたので、今回はもっと先に行くのかと思いきや、今回はその辺の話しは入ってこず、甘さが目立つ結果に。

解説で有栖川有栖氏が、鳥井には好感を持てない、という点において、特異である、というような旨を述べていますが、おそらく、女性読者はそうでもないのではないかなーと思います。
男性にとって、いきなりめんとむかって「おまえ」呼ばわりするようなやつと言うのはそれだけで虫が好かないものであるのかもしれません。
いや、もちろん女性だっていきなり「おまえ」は嫌なものですが、そういう対応をされることは男性よりもあるのではないでしょうか。
だから、じゃあ、私は鳥井はいいのか、と言えば、まあ、好きじゃないですけどもね。
それは鳥井の言葉が棘だらけだからではないです。
私は鳥井の言葉では傷つかないなぁ。きっと。
好きじゃないけど、友達にいたら愉快そうです。お料理上手だし。

「野生のチェシャ・キャット」

坂木くんの同僚の話ですが、正直、本人に聞けよ、と思います。
その辺は解説の有栖川有栖氏も言及していましたが。

「銀河鉄道を待ちながら」

なぜその推理が成り立つ!と思いつつ、なぜそんな行動に出るんだ利明と思いつつ、甘いなぁ・・・。
いろいろもろもろ。

「カキの中のサンタクロース」

どっからどう見ても、というか、客観的第三者の目から見れば、坂木と鳥井が恋人同士に見えるのは道理であり、見えないという方が少数だろうと思うんですが。
いくら鳥井がひきこもりといえ。
この話しでは、二人の間にあるのは恋愛感情ではない、あくまで特殊な友情なんだということが記されますが、逆に言えば、この二人が恋人同士ではいけない理由ってのは一体なんなんだと。
愛情じゃいけないのかい、坂木君、と思う。

三作目、果たしてどういう結末を迎えるのか。
甘い甘いと言いつつ、待とうと思います。文庫化するの。


2006年08月20日(日) 『警視庁刑事 私の仕事と人生』(他)

【鍬本實敏 講談社文庫】

高村薫が、『マークスの山』を執筆する際に、色々と話しを伺ったという元警視庁刑事の鍬本さんがその生涯を語った本書。
高村女史がどんなものを元にあの作品を書いたのか、合田雄一郎というキャラクターがどういう風に出来上がったのか、というのがちょっとでもわかるかな、という興味で読み始めたのですが、冒頭1ページ読むだけで、この本そのものの面白さ、そして鍬本實敏という人の魅力に夢中になる一冊でした。

インタビューに答える形で綴られていて、鍬本さん本人の肉声を聞くような気分になります。
慕われる刑事の姿というのはこういうものか、と深く納得しつつ、語る一つ一つのエピソードが味わい深い。

こんな人が本当にいたんだなぁ。
非常に有意義な一冊でした。


2006年08月18日(金) 『沈黙の艦隊 1〜32』(漫)

【かわぐちかいじ 講談社モーニングコミックス】

もちろん、今日一日で全32巻を読みきったわけではないのですが、感想を分けるのも面倒なので、まとめて感想を述べようと思います。

かわぐち先生の漫画を読むのは初めてで、その上、ろくすっぽ話しも知らずに読み始めたのですが、タイトルや表紙から思っていた戦争物ではなかったです。
戦争物ではないけれど、戦争の話しではありました。

久々に漫画って凄いわねぇ、という感じがいたしました。
(なんだか感激しているのかいないのかはっきりしない、ゆるい感想)
多分、描かれたのが10年も前だから、時代が変わっちゃってて、作中の熱気と同調できない部分があったんですね。
確かに10年前ならば、ここに描かれたような、核の廃絶、世界政府なんてものへ、海江田たちと共に夢見ることもできたかもしれませんが、今現在の世情を省みるにそこまで希望を抱けないのが実情。
どちらかと言えば、読んでいて、登場人物たちが崇高で(海江田たちのみならず各国首脳陣も含む)あり、熱い信念や理想を説くたびに、悲しい気持ちになる。

いまだかつてないほど、登場人物たちを遠くに感じました。
感情移入できない、という意味ではなく、ただただその目指す世界はあまりに遠い、と。
終戦記念日に読んでしまったから余計に重い気分になったようです。

ちなみに一番印象的だったのが、16巻の海渡さん
「政治家に“私(わたくし)”などあり得ん!」
というセリフだったというのは、まず間違いなく元首相の言動を思い出して、なんとも苦い笑いが浮かんだからに違いありません。

こんなに真っ向から、しかも希望に満ちて力強く世界平和への道を示唆した作品は、初めてです。漫画だけではなく、小説や映画も含め。


2006年08月17日(木) 『パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズチェスト』(映)

【監督:ゴア・ヴァービンスキー 映画】

これから観ようと思う人は少ないかもしれませんが(公開して結構経つから)、前作のおさらいをしておくことをお薦めします。
前作観ましたが、もうきれいさっぱり忘れていて、なんだっけ?と言う感じ。
まさかこんなに前作から引き続いているとは思いもよらず。
しかも、今回は話が思いっきり続いている。
うーん、どうなんですか。それは。

前作もシナリオ的に秀逸だったとは言いがたい、アトラクションまんまのストーリー(アトラクションは知りませんが)でしたが、少なくとも画面に飽きることや退屈することはなかった。
その辺、今作、いらない部分が多かったように思います。
その上、時間も長い。
幽霊船のエピソードがやたら長く感じました。
もっとスピーディーな方が、らしい、感じがするんだろうに。

3作目はこの調子でいくと、ジャック・スパロウ船長の出番、更に激減という気が…。
ジャックのキャラでもってる映画なのに。
あー、きっと、今回スピード感やコミカルさが少なく感じたのは、ジャックとウィルとエリザベスの掛け合い、というのが非常に少なかったからかもしれません。主要な三人をばらばらに動かせばそりゃ、長くもなりますよ。

3作目は更に強くなったエリザベスを楽しみしときます。いやー、強かった。
前作も強かったけど今回も強かった。


2006年08月03日(木) 『月館の殺人 下』(漫)

【漫画:佐々木倫子 原作:綾辻行人 小学館IKKIコミックス】

ようやく出ました下巻です。
こんな真夏に真冬ですが。

ネタバレしますよ。

到着早々、出てくる出てくる、死体の数々。
おお、綾辻!という感じです。
佐々木倫子にこんなの描かせちゃいますか!と。
皆殺しの勢いで転がっている死体に、これは綾辻色の方に軍配が上がるのかしら…?と危ぶみながら読んでましたが、テツのみなさんのとぼけ具合の絶妙さはやっぱり佐々木倫子色です。
二手に分かれるときの「犯人の組とそうでない組にわかれましょう」とか。
思わず笑う。
本当は推理小説で一番、殺伐とした部分のはずの、この中に犯人が!というシーンでも、なんかもうおかしい。

推理物としても、綾辻ミステリなので理路整然という感じで、すっきり。
ただ、最後、日置を殺したのは空海というのが…もやっとしないこともないが、そこで「いや実は殺していないんだよ」という展開をしないのも、綾辻らしいか。

なかなかに楽しく読みました。
佐々木先生の次なる作品、楽しみにしてます。

ところで、綾辻のあとがきは、なぜ黒い紙に黒い字なんですか・・・。
光に反射させないと読めないよー。



蒼子 |MAILHomePage

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