妄言読書日記
ブログ版
※ネタバレしています
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【重松清 角川文庫】
久しぶりに読書の重みを体感したような感じです。 ありふれた不幸な話しではあるけれど、シュウジの生きた姿はそんな言葉を受け付けないものがありました。 強いわけでもないけれど、卑怯でもなくただ真っ直ぐな子だったな、と思います。
疾走というのは、風を切る爽快感ではなく、全速力で走る息苦しさと、その先に一瞬だけ訪れるランナーズハイを思い起こさせるタイトルです。 この小説で特徴的なのは、地の文の三人称が「おまえ」と綴られていることですが、私はほとんど最後まで語り部が誰なのか気づけませんでした。 いや、本当はもっと早い段階で気づけていたはずだとは思うのですが、それが誰かということに気づいてしまうと、どうにか幸せになってもらいたいと思っているシュウジの物語の結末までも見える気がして、あえて追求せずに読み進めていました。 「おまえ」という語り口は時折、まるで自分のことを語られているような気持ちにさせられます。
上巻ではただひたすらに兄の罪に始まる不幸に、巻き込まれ流されていたシュウジが、下巻では初めて自分から行動を起こし、その結果、人を殺してしまう。 どこまでもやり切れなく、人を殺してしまったシュウジが幸せな生活に戻ることもできずに物語は終わってしまいます。 けれど、この話しは罪や罰の物語ではなく、ひとりの少年の彷徨の物語だったように思いました。
【重松清 角川文庫】
お薦めされたので読んでおります。 まだ下巻もあるので詳細な感想は先送りにしますが、これはなかなか・・・。
先日読んだ『重力ピエロ』と扱うエピソードが同じなのにも関わらず、対照的とも言える内容。 書く人が変われば、こうも変わりますか。
それにしても、重松清の言葉には無駄がない。
【乙一 講談社】
最近文庫化しましたが、こちらは単行本の方です。 久しぶりに乙一小説読みましたが、うわぁというか、いや〜な気分になりますね。 そういえば、こういった短編集は初めて読みます。 やっぱ、暗黒小説家だわー。
しかし、天才かどうかは未だにうーんと思います。 インドアな青年がお部屋の中にこもって書いた小説という印象。 別にそれが悪いというんじゃないですが。
「カザリとヨーコ」 これ映画化しませんでしたっけ。 いや、この本自体が映画化してたっけ。 まあ、どうでもいいですが。 ヨーコのようなとてつもなく、いやぁな感じのするキャラ書かせると上手いよねぇ。 読んでるほうはほんと嫌な気分になるだけど。
「血液を探せ!」 こういうブラックでライトな方が好きです。 でも、いささかライト過ぎる文章という気もしましたが。
「陽だまりの詩」 ちょっとここらでいい話しを入れとこか、という感じの切ない系です。 こういうのを書いてるのを見ると、そんなに悪い人でもないのかなぁと読者は勝手に思ってしまうものです。
「SO−far そ・ふぁー」 世にも奇妙な物語にありそうな話しです。 この短編集の中では好きなほうでした。
「冷たい森の白い家」 こういうどうしようもない話しを書かせると上手いよなぁ。 やりきれないを通り越してもうどうしようもない。
「Closet」 ちょっとミステリーのようでいてホラー映画みたいな不気味さがあり、好きです。
「神の言葉」 人を思い通りにできる能力があって、それでこういう展開を生み出す、というあたりが乙一のどうしようもなく根暗な部分と言う気がします。 まあ、作者の人柄なんてどうでもよいことではありますし、それが唯一無二の話しを生み出すんだからいいのですが。 私はわりとこういう身勝手な発想好きですが。
「ZOO」 内容云々というより、読んでいてちょっと今、巷をにぎわしている秋田の殺人事件の犯人のことを思い出しましたよ。
「SEVEN ROOMS」 先日『SAW2』を観たのですが、それを思い出しましたね。 ソウも動機なんていらないのに、と。 うんざりするほど残酷なのに、血もばらばらにされる人体も全くリアルではなく、何もかも平板なのがかえって嫌な感じを与える。
「落ちる飛行機の中で」 これくらいのテンポの話しが一番落ち着く。
全編これ乙一、という作品集でした。 悪意も死体も殺人もばらばらになる人体も腐る人体の一部も全て淡々としてる。
2006年07月15日(土) |
『重力ピエロ』(小) |
【伊坂幸太郎 新潮社文庫】
伊坂ベストと言えるんじゃないかと思われる、ファンの間でも人気の本書。 ようやく文庫になったので読めました。 なるほど人気なのもよくわかる。
主人公の泉水には、父親違いの弟がいて、その弟は母がレイプされてできた子どもという、設定だけ聞くとどうしようもなくヘビーで、正直読みたくない話しですが、本文中に「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべき」という言葉が繰り返されるように、小説の持つ雰囲気自体は、けっしてその設定ほどには重くない。 その辺が伊坂の上手さだなぁと思います。
それにしても、今まで読んだほかの作品よりは、やはり重みはある話しではありました。 泉水と弟の春、そして父と母の設定が嫌味なく、温かくてよかった。
他作品にも出ている、あの人この人の登場も楽しく読みつつ、伊藤さんはちょい唐突さを感じないでも・・・まあ、好きですが。
兄弟大好きな私にとっても非常に楽しめる一冊でありました。
2006年07月06日(木) |
『スイス時計の謎』(小) |
【有栖川有栖 講談社文庫】
国名シリーズ短編集です。 いつもの有栖川短編だなーと思いつつ読んでいたら、思わぬ収穫があって久しぶりに楽しかった。 では一つ一つ。
「あるYの悲劇」
クイーンのタイトルのもじりはもう嫌ってほど見てるので、正直もういいよ!と思ってしまうんですが(『月光ゲーム』のサブタイトルもYの悲劇ですし)、それがテーマのアンソロジーに収録したものだというので仕方ないですか。 クイーンも大分忘れちゃったからそのうち、XYZくらい読み直そうかな。 「山崎」ってそういう読み方もあるのかーと感心するやら、そんな〜と思うやら。
「女彫刻家の首」
うーん・・・まあ、良くも悪くも普通の推理小説。 ラストに犯人二人組みが事故で死ぬあたりの、ブラックさは有栖川という感じですけれど。 「裁いていいと、誰がてめぇに言ったんだ」 ってね。火村先生らしいね。
「シャイロックの密室」
ダイイングメッセージ、アリバイ崩し、密室、とバラエティ豊かに来ましたが、私は一体、推理小説のどういうところが好きなのかなーと今さら本書を読みながら考えていたんですよ。 まずどうしても、密室もアリバイ崩しもいまいち好きじゃないんです。 なんだかみみっちいではないですか。 うーん、ネタが出尽くしているせいか、最近のはトリックのためのロジックというよりは、ロジックを説明したいがためのトリックという感じがして、正直、「細かいよ!」と言いたくなる。 私はクローズドサークルが好きなのですけれど(孤島で殺人が!とかそういうのね)、あれは純粋に誰に可能で誰に不可能かを、論理的に考えていけば犯人にたどり着ける。 シンプル故に難しい、と思うんですよね。 それで、
「スイス時計の謎」
これが、もう、久しぶりに、ああ、これだ!と。 こういうのを読みたいのよーと。 こういうの書いてくれるから有栖川有栖好きですよ。 いやはや、最近、推理小説をこれからも読み続ける意味ってなんだろうね・・・とやや懐疑的になっていたので、ありがたい一作です。 まさに、作中のアリス状態。
解説で、推理小説の条件検討シーンがめんどうだという意見がある、という話しが載っていたのですが、だからこれも多くの推理小説に見られる、ロジックのためのトリックのせいだと思うのですよねぇ。 事務的な検討シーンとかありますし。 ちなみに私は、ラストの犯人が動機を喋るシーンがことのほか嫌いです。 美しくないよ!と。 そういう点では森ミステリが好きなんですけどねー。
2006年07月04日(火) |
『DEATH NOTE12』(漫) |
【原作:大場つぐみ 漫画:小畑健 集英社ジャンプコミックス】
最終巻ですねー。 白いですね。表紙。 見て分かることばっかり言ってすいません。 以下ネタバレですので、最終巻知らない人、これから読もうと思う人、やめといたらいいのではないでしょうか。
想像通りにばったばったと死ぬ巻ですが、想像よりも死なない巻でもありました。 ミサなんて絶対死ぬと・・・。 というか、私、全員死ぬと思ってましたから。 私は、月が勝って、みんな死んでさあこれからと言う時に、下らない不慮の事故とかそんなんで、月も死ぬんじゃないかな、と。 というか、それくらいやり切れない感じがこの漫画の話しにはあってるんじゃないかな、と思ってたんですけども。
まあ、でも、リュークに名前を書かれるというのはいいんですけど。 最近ずっとリュークが出番がなくて寂しかったし。
最後のシーンが、なんであんなチベット?万里?どこでもいいけど、妙に厳かで、うーん・・・と。 月の正義感ってのは、最初から陳腐で傲慢だったわけですから、最後は別にそんなきれいに締めなくってもと思ったりするんですけれど。 あれ、ミサですよね。いいんだよね。
まーこんなものかなあ、という感じでございました。 お疲れ様です。 映画後編どうなるのかなあ。
2006年07月03日(月) |
『瓦礫の矜持』(小) |
【五條瑛 中央公論新社】
黒羽さんが好きです。
というのはさておき。 さて置き、さあ、何から言ったものか。
とりあえず、私らしく帯からいくか。
「その時都市に暗黒が訪れた」は、そのまんまですが、多分、その帯からみんなが予想するのはもっと別のことだったと思う。
「警察組織存続の名の下に犠牲になった三人の男の対決、選んだ道は欺瞞、糾弾、そして復讐」
三人どころじゃなかっただろー!と。 三人以上いっぱいいたじゃん!ちょっと、誰がメインの三人なのかわからなくて混乱しましたよ。 えっと、神楽、黒羽、上倉ですかね。 でもここに神楽をいれると、組織存続云々は嘘になるよね。 だから、いい加減な帯をつけるな、と。 「組織に殉じるとは、正義とは何かを問う著者渾身の書き下ろし大型問題作」 とかそういう壮大な嘘を吐くな、と。
五條瑛が警察組織を書くということで楽しみにしてたのですが(粗筋から内部からは書かないんだろうというのはわかっていたけど)、出来栄えはうーんという感じ。 『スノウ・グッピー』で見せた詳細で具体的な内部事情が全くない。 警察組織は管轄外なのかもしれないけれど、それを書くならばやはり、もっと具体的な話が欲しかったなーと思う。 舞台となる街が架空であることも、五條らしからぬ感じです。 奥歯に物が挟まったような読み心地。
たくさんの人物の視点で書くのが好きなのは知っているのですけれど、最近の話しはどれも視点が多すぎて全体的に散漫な感じになっていると思う。 残念なことだなぁ。
たまにはノベルスで出してみたりとかできないんですかねー。 もっとライトな感じで(ライトノベルという意味じゃないよ)。そもそも、五條の作品は娯楽なのだから。
重ね重ね残念というより他ない。 黒羽さんは好きだったけど(しつこい)
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