妄言読書日記
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※ネタバレしています
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2006年03月31日(金) |
『陽気なギャングが地球を回す』(小) |
【伊坂幸太郎 祥伝社文庫】
5月に映画公開するらしい、本作。 『オーデュポンの祈り』、『ラッシュ・ライフ』と、小説的なトリックが満載の話しだったので、映画化はどうかな、と思いつつ読んでみたのですが、過去二作とは違って、けっこう真っ当というか、普通のと言うとつまらないみたいな言い方ですが、とにかく、普通の起承転結のある小説になっていました。 これなら、映画化も可能でしょう。
過去二作の騙し絵のような読み心地とは違って、今回は本当に普通の小説でしたので、いささか拍子抜けしたというのも否めません。 でも、タイトル通りのかるーく読める娯楽小説で楽しめました。
それに、キャラクター達はいつも通りの伊坂節という感じ。 伊坂キャラは、インテリっぽくて、ひねくれた比喩が好きで、受け入れがたい人にはなんだかムカっとくるキャラ作り(および地の文もそんな感じ)をしているから、嫌いな人は嫌いなんでしょうが、伊坂キャラの利口なくせに行動はどこかお馬鹿さんなところがかわいいと思うんですが。 オーデュポンの伊藤さんが、思いつきでコンビニ強盗しようとしてみたり、本作の雪子が、相談できなくて物凄く遠回りな探りを仲間に入れていたり。 そもそも、銀行強盗するきっかけもけっこういい加減と言えばいい加減。
そんなわけで、銀行強盗4人組のやり取りも、可愛かったです。 響野と成瀬とか、成瀬と久遠とか、響野と慎一くんとかとか、可愛い。
ところで、解説がいまいちでした。 解説が本編色に染まっちゃってる場合が結構見受けられるのですが、今回もその例だったと思う。 わざと伊坂っぽさを演出しているのだろうけれど、見た目ほどあの伊坂節は簡単ではないと思う。
映画の方は、いまのところキャストを見ても全くピンとこないのが正直な所ですが、せっかくの映画化ですからおもしろいものになっていればいいなぁと、観るか観ないかは別として思っています。
どうでもいいことですが、伊坂氏は犬派ですよね。きっと。よく出てくる。
2006年03月30日(木) |
『三国志群雄伝 火鳳燎原3』(漫) |
【陳某 メディアファクトリー】
私、書いたと思っていたのですが、一巻の感想をどうやら書いていなかったようです。 台湾の作家による三国志。 蒼天航路も終わってしまったことですし、次なる楽しみはこれにしようかと。
多分、司馬懿が主人公なんですが、武勇よりも、陰謀や権謀術数の方がメインっぽい。 それで三巻ですが、
りょ、りょ、呂布が軍師ーっ!?
いやぁ、びっくりしたびっくりした。 誰が誰なのかわからないのが、この三国志の特徴ですが、君が呂布か。 いやはや、ほんと三国志はいろんな切り口があるね。
今回も三兄弟がいなくて寂しい。好きだったんだけどなぁ。 曹操もうまだ出てこない。 燎原火って、超雲なのかなぁ?と思うんですが、でも、司馬懿のところにいるし、うーん・・・?オリジナル、という考え方もあるけれど、呂布があれだったんだから、その線は薄そう。
2006年03月28日(火) |
『おおきく振りかぶって6』『BRONZE14』(漫) |
おお振り買いに行ったら、BRONZE出てて、本屋で卒倒しそうになったよ。 この二冊の感想が並ぶ辺りが、私らしいなぁ。
【ひぐちアサ 講談社アフタヌーンコミックス】
もう6巻なんですねぇ。 ずっと試合の巻ですが、高校野球を観戦している時の気分ではらはらどきどきしながら読んでいました。 いやー、試合の途中にその試合の感想なんていえないのと同じなので、展開については特にいまはコメントしません。
表紙下に、幻(?)の阿部くん弟が!初! そうかー、弟の応援に行ってしまうんだね、阿部ママは。 そして、栄口くんは本当にいい子。 最近、泉くん株が上がってます。かわいいなぁ。
++++++++ 【尾崎南 集英社マーガレットコミックス】
まだ、14巻なんですねぇ・・・。 もう30冊くらい読んでいる気分。どんだけ濃厚なんだよ。 この物語に終わりはないと13巻で言っていたからないんだろうと思っていたけれど、案外早く次の巻が出てびっくりです。 最終巻で、作者が物語りはここで終わるけれど、登場人物たちの話しはこの後もずっと続いているんですよ、みたいなことを言う人は多いんですが、こんなにはっきりきっぱり完結することはないと言い切る人は他にいない。
まあ、これも業の一つだと思ってどこまでもお付き合いする所存ではありますが、次辺りは流血沙汰から離れて欲しい。 甘甘で!なんて無茶言いませんから。
しかしこういう話しは尾崎南のほぼ専売だと思って、他のBL系作家さんは真似しないようにくれぐれも、と言いたい。 影響受けるなとは言わないが、表面的なものだけ模倣しても意味の無い漫画ですよ、これ。
それにしても、試練はもういいだろう、と言いたいよ。いい加減。 幸せってなんですか!
【坂木司 創元推理文庫】
表紙もタイトルもかわいいです。
坂木氏のデビュー作で、私はこの方の本を初めて読むのですが、感想は、
甘い!
甘い、何もかも甘い!甘いよ小沢さん!と言いたいくらいに甘い!
ところがこの甘さが、短所ではあっても致命的な欠陥にはなりえないという、不思議なバランスの所有者のようです。 何が甘いかというと、まず「名探偵はひきこもり」とう帯がついているから、たいていのひとは推理小説として読み始めるのですが、推理小説としては事件が甘い。殺人事件(もしくは刑事事件)だけが事件じゃないので、まあ、こういう日常のちょっと不思議な出来事を取り扱うのはよいです。 だけれど、ひきこもりの鳥井の推理も甘い!その情報でその結論を引き出すのはあまりに、浅慮と言わずにおれない。 伏線の張り方もあまりに稚拙。
とにかく小説を書く技術的な面で甘さを感じて、けっこう苦笑してました。 だけど技術はね、身についてくるものですから。本人に学ぶ気があれば。 大事なのは、この作者がとても真摯な姿勢で物語を綴ろうとしている、という点。 では、短編集なので一つ一つ感想を。
「夏の終わりの三重奏」
巣田さんの登場した時のクレームのつけかたが、あまりに理路整然かつ、的確すぎて、苦笑。そんなヒステリーの起こし方ありますかい、と思ったのですが、その後、あのセリフには理由があるというのが明かされるんですが、あの推理をするために言わせたセリフ、というのが見え見えで、もう少し上手くと思ったものです。 坂木くんの涙もろさにびっくりしつつ、鳥井との関係にもどうしたもんかと、なんだか色々と戸惑い気味のファーストコンタクトでした。
「秋の足音」
どんだけ狭い街なんだ、と言いたくなる坂木くんと塚田くんの再会ですが、こういう甘いところが、苦笑しつつも、なんとなく作者の人のよさという気がして憎めない。 坂木くんがいい子であるのは疑いようもないけれど、同じ名を持つ作者も絶対悪人じゃないだろうと思うと、いいよいいよ、そのまんまの甘さでいてと最終的に寛容な気持ちにさせられる。 甘さには厳しい私がこんなに寛大になるのも珍しい。 鳥井が坂木に 「存在しているだけで充分だ」 と言うのですが、これ以上の言葉は人と人との間でないよなぁと思う。
「冬の贈り物」
なんだかんだと言っても、鳥井は無礼だと思うよ。やっぱり。 塚田くんも性格の悪さをばりばりと発揮し始め、基本的にいい人しか出てこない印象の本書のなかで、一人性格の悪さを披露しているような気がする。 まあ、性格が悪いだけで悪い人ではないんですが。で、君は、安藤くんのことどうするんだい、という点が気になったりする。 成金=ブランドというのはイメージであって、推理の根拠にはならないと思うんだよ、鳥井君、といいたいんですが、みんながそれで納得してるならいいよいいよ。坂木くんの夢を壊しても可哀相だし。
「春の子供」
坂木くんの本気が垣間見えちゃった回。 なんつーか、二人仲良く末永くお幸せに、と言うしかない。 坂木と鳥井の関係をなんというのだろうね。 お互い相手に、自分の大事なものを預けてしまっているけれど、それを依存と言ってしまうのはなんだか冷たい感じがします。 こういうのもありなんじゃないかなぁと思いますが、そこかしこにこんな二人がいたらいささか薄気味悪い。 相変わらず、鳥井の強引な推理が冴え渡ってますが。
「初夏のひよこ」
魚屋の奥さんが必ずしも料理上手なわけじゃないだろ、と思うのだが、そういう作者の甘い認識、嫌いじゃないよ。 世知辛い世の中で、辛口だったりひねくれてたり厭世的だったりする小説も多いけれど、中にはこんな甘い設定で、人の善意を信じてて、人と人との関わり方できっとよくなっていく、ってそんなことを真っ向から考えて書いてる人ってのがいても良いと思うし貴重にも思う。 先にも書いたけれど、技術は学べるけれど、こういった真っ直ぐな心根は持っている人じゃないと書けないんじゃないかなぁ。
今後も、坂木と鳥井は人間的に成長していくと思うので、それを楽しみにしております。
【舞城王太郎 講談社文庫】
タイトルとか表紙とか、帯の「あなたの熊の場所はどこですか」なんてのから、割と可愛らしい話しかと思う人多数いそう。 そして、舞城作品を何作か読んでいる私でも、かわいいのかと思ってしまった。 いつもどおりでございます。ご安心(?)を。 三篇の短編が収録されています。
「熊の場所」
熊の場所というのが何を指しているのか、が肝。 『煙か土か食い物』の時のような、そのタイトルの意味に深く納得。 タイトルにミステリ的な仕掛けがある、ということではなく、物語としてのキーワードなのです。 それにしても、猫殺し、というのはどうして他の悪事よりも、陰惨で口に出すのも厭わしく感じるものなのでしょう。 私のときも、猫を殺したという噂のあるクラスメイトがいたなぁ。 この話しのまーくんとは似ても似付きませんが。 舞城は、平気で残酷なものを書くように見えるけれど、登場人物たちはそれなりの因果応報を受けている。
「バッド男」
なんだか、どうにも悲しい気持ちになったな。
「ピコーン!」
タイトルとか文章とかから受ける印象と、実際に書かれていることの齟齬が本当に大きいよなぁ。 エピソードは荒唐無稽なんだけれど、「わたし」の心の動きは丹念で誠実だと思う。 一見してそれが分かりにくいのが、プラスなのかマイナスなのかはよくわかりませんが。
2006年03月18日(土) |
『ぬしさまへ』(小) |
【畠中恵 新潮文庫】
『しゃばけ』に続く、若旦那と妖怪シリーズ(という呼び方?)。 今回は短編だったせいか、はたまた慣れてきたせいか、前作より面白く読めました。 正直、『しゃばけ』は可もなく不可もなくな感じでしたので。 今作を読む限り、これなら今後もこのシリーズ読んでいってもいいかな、と思わせるくらいには面白かったです。
いやはや、なんだか偉そうな感想ですが。
「ぬしさまへ」
仁吉が恋文もらった?という話し。 表題作なのですが、これは実はいまいちでした。
「栄吉の菓子」
なかなかからくりは面白いとは思ったのですが、にしても、ちょっと納得しがたい真相でした。 栄吉と爺さんの交流はよいと思うんですがねー。
「空のビードロ」
終盤になるまで、若旦那に兄がいたことを思い出せなくて、ずっとこの人誰だろうと思っていました…。私としたことが! そして、やっぱり、別に妖怪はことさら出てこなくてもなんとかなるんじゃないかという思いを強める話しでもあり…。
「四布の布団」
別に死体が転がり出てこなくてもいいんじゃないかなーと思った。 まあ、でもここは難しいところですな。 泣く布団のネタだけでは弱いし。
「仁吉の思い人」
仁吉も案外一途なのねぇ、にやにや、という感じで仁吉の株が急上昇した話し。 やっぱり、妖怪が絡むのだから、これくらいの大胆なスパンをもった話しがあってもよいわけで。
「虹を見し事」
妖怪が絡むんだから、これくらい不可思議でいいわけで。 今までのいまいち、面白みを感じなかった原因ははっきりしていて、妖怪がいっぱいでてくるけれど、それが特別生かされていないという一事に尽きる。 妖怪部分が、凄腕の忍でもなんとか繋がらないこともないような活躍。 だから、この話しのようにどうにも不可思議なことと絡めてくれるとぐっと尾面白くなる。 一番いい話しだったと思います。
2006年03月17日(金) |
『銀河英雄伝説外伝 ユリアンのイゼルローン日記上下』(小) |
【田中芳樹 徳間デュアル文庫】
これ以降の外伝は未読であります。 なぜ未読かといえば、もったいない!という、もったいないお化けも避けて通るような理由もあるにはあるのですが、本編読んだ後にはなんだか外伝を読む気力が沸いて来なかったんですねぇ・・・。 あと、徳間が、徳間が外伝をちゃんと文庫化しないから悪い!!
そんなわけで、銀英伝(私的)10周年記念として、本編を読み返す傍ら、外伝も読み始めた今日この頃です。
本作はとても、外伝らしい外伝で、ユリアンがイゼルローンに越してきてからの日記という体裁になっています。 ユリアンの世界はヤン提督を中心に回っている、という話しであります。 ユリアンのみならず、イゼルローンの面々は多少の差はあれ、そうなのですが。
ユリアンとヤンのほんわかエピソードがてんこ盛りなのですが、平和で幸せそうであればあるほど、どうにもきゅうと胸締め付けられる思いになるのは、本編を知っているからなんでしょうねぇ。 はぁー。
嘆いていても仕方がないのでもう少し内容の感想を述べますか。 ユリアンとヤンはともかくとして、ユリアンとフレデリカの交流とか、キャゼルヌ家との付き合いとかもとても、温かくて可愛くて好きです。 ユリアンとヤンを引き合わせたキャゼルヌ先輩はつくづく慧眼だよなぁと思う。
あとはね、やっぱり捕虜交換の時の、キルヒアイスとヤンですか。 なんだかよくわからないのですが、このツーショットはたまらないものがあるんですよねぇ。どういう種類のたまらないなんだか自分でもいまいち把握できていないんですが。 これで、ラインハルトとヤンだったら、それはそれで印象的なんでしょうけれど、キルヒアイスとヤンというのがなんだかとても、心憎い演出だと思うんですが。 それにしても、何時の間にやらハルトさまとキルヒアイスの年齢を超えていたことに愕然するとともに、いかにこの二人が異常に若いかと言うことを実感しますよ。 あーあ、これを読んでいた当時は、若いと言うこと自体がぴんときてなかったのになぁ。あーあ。 30歳を頑なに拒む提督の気持ちがわかる気がする。 まだまだですけどね、まだまだ!
4月4日がヤンの誕生日ということがわかりました。 提督は4月生まれだなぁという感じがするものな。 いや、私が4月生まれだからというわけではないのですが、なんとなく。 私の友人の半数近くが4月生まれと言っても過言ではないくらいに、4月生まれに囲まれているせいなのでしょうが、ヤンのマイペースでひねくれ者で、なんとなく人から浮いてる感じが4月なんですよねぇ。
他にもいろいろあるけど、えーと、「ユリアン、ユリアン」という二度呼びは反則だと思います、提督! 可愛いんだーばかーっ
胸がいっぱいになってきたのでこの辺で終わります。 言わずもがなですが、ヤン大贔屓です。
2006年03月16日(木) |
『極道一直線5』『HUNTER×HUNTER23』(漫) |
【三上龍哉 小学館ビックコミックス】
4で組長の夢オチで最終巻か!?と思われたのですが、きっちり5巻出ました。 組長には青いお友達がいるようで。 それにしても、最初の話の冒頭、物凄い既知感というか、読んだことある、見たことあるよ!と焦りました。 いつものコピー術でした。
コピー術と言えば、今回収録のメデゥーサの回以降しばらくの展開は、多分、極道一直線で初めてではなかろうか、という感じで笑いました。 まだやるか!まだひっぱるか!!と。
今回、いつもの呪いのアイテムシリーズとか、防弾シリーズとか、異星人シリーズとかなかったですね。 ネタがしつこいわりに、意外と引き際あっさりなところも好き。 引いたと思わせといて、きっとみんな忘れた頃に細かいネタ出してくるんだろうな。 で、6巻は本当に柔道一直線の前編収録なんですか。私あれは、もとから前編が存在していないんだと思っていたんですけれど? まあ、全ては組長の妄想オチだからいいんですが。
+++++++++++ 【冨樫義弘 集英社ジャンプコミックス】
表紙が地味過ぎて見つけられないよ。 私、H×Hけっこう好きなのですが、絵が凄いことになってて残念だなぁ。 今回の巻おもしろかったと思う。 軍儀のあたりが。どうなるのかなー、彼女。 冒頭の彼岸島みたいなモザイクのかけかたはなんだったんだろうか。 いっつもグロだろうとはっきりくっきり描いてたじゃないか。 あ、時間がな・・・。
きながーに待ってますよ。
2006年03月14日(火) |
『文藝春秋4月号』(小) |
【文藝春秋】
今まで雑誌の感想などいちいちここで書いていませんでしたが、今回ばかりはどうしても ど う し て も 書きたいので書きます。 この機会を逃したら書く機会もなさそうだし。 文藝春秋と書きましたが、書きたいのは今回載っている高村薫短編『カワイイ、アナタ』についてです。 他のページ、読んでませんが、文藝春秋、表紙どおり渋いです。 特集が「皇太子と雅子妃苦悩の決断」です。 なかなかおいそれと感想など言えるものではありません。
そんなわけで、高村薫短編の感想です。 何しろ高村女史なので、これが何時の日か本になるだろうなんて思っていたら、痛い目に合うことは目に見えているので、読みたい人はこの期に購入して読んだほうがよろしいかと思われますよ。
さて、この短編、某氏が某氏へ宛てた書簡という形式となっています。 高村ファンなら、どう考えたってどっからどう見たって、合田雄一郎から加納祐介に宛てた手紙以外の何物にも見えませんが、話しの中では誰から誰へというのは明確にされていません。 ただね・・・
「日々雑事に埋もれて心身が鈍麻しているかもしれない小生から、同じく多忙すぎて人間をやめているのだろう貴兄に」
と冒頭始まっていますが、こんな二人が、いかに高村キャラとはいえ、合田・加納コンビ以外に存在するってありえない。 こんな全力で後ろ向きな手紙を書いちゃう人が合田さん以外にいてたまるか、という気持ち。 そんなわけで、ファンなら勝手に午前2時とか3時に、ウイスキーのグラス片手に、几帳面な楷書で手紙をしたためる合田雄一郎を想像しつつ読まないわけにはいかないわけです。 読んでいる時はもちろん、義兄気分で。
で、肝心の中身なのですが、これがまたこれ以上ないというほどの合田節。 手紙って何かわかってるのか、雄一郎、とおにいちゃんに代わって問いたいくらい。 冒頭くらい、近況の報告とか、相手の近況をたずねてみるとか、そういう気配りなし。 もう、いきなりに、
「今日はあまり笑えない夜話を一つ書き送る」
とくる。 あまりに唐突だから、むしろ毎日毎日、この人は夜話を書き送っているのか、合田千夜一夜が加納家に溜まってるのか、と疑いたいくらいの簡潔さ。 おそらく、合田千夜一夜はどれ一つとして笑える話しはないのだろうけれど。 そして、また、その笑えない話と言うのも、直接には自分の話ではなく、どちらかと言えばまったく自分の話しではない、“小生”の先輩の取りとめのないような曖昧模糊とした胡乱な話しが綴られているわけです。 いったい、便箋何枚にしたためられていたのかわかりませんが、受け取った側が困惑するより他ない。
「はて、貴兄の感想や如何」
と最後に問われても、非常に困る。 この辺もまた、合田的無理難題という感じがいたします。 とりあえず、返事を書く場合は「カワイイ、アナタへ」でいいんじゃないでしょうか。そうするべきです(断定)。 そして、その後は手紙の書き方からもう一度レクチャーしてあげた方がいいように思われます。 そんな見知らぬおっさんの妄想交じりの話を延々と綴られても困るんだよ、自分のことを書きなさい、と。
そういうことは他所へ置いておいて、読んでいる間に思ってたのは、こういう中年以上のおじさんが若い女の子に抱く一種の妄想とかファンタジーって、受ける側にとっては物凄い驚きがあるよなぁと。 面と向かっているのにまるで別のものを相手が見ている違和感。 なにゆえに、高村薫が今、この話を書いたのかが気になるところ。
あとは、
「さあ、夜半の交番に初老のサラリーマンがふらりと現れ、椅子に坐り込んだ様子を想像してほしい。」
という一文がかわいいです。 久しぶりの、読み手を軽い混乱に陥れる高村文を読んだなーという気持ち。
2006年03月09日(木) |
『サイレン』『PROMIS無極』(映) |
そんなつもりはなかったのに、勢いで二本立てになってしまいました。
【監督:堤幸彦 日本】
知っている人は知っている、ホラーゲームの映画化です。 ゲームは好きなのですが、ホラーゲームはやらないので私は未プレイでございますが、きっとゲームとはいささか違う(いささかどころじゃなく違うかも)のでしょう。
開始直前の予告が、『トリック』だったため、冒頭に出てきた阿部ちゃんが、上田次郎以外の何者にも見えなく、夜美島もなんだか、トリックの舞台のように見えてどうも駄目でした。 監督も堤だし。 毎度お馴染みの堤演出、で少々飽きもしてきました。 無闇に不気味な島民、意味ありげで無い、不気味なオブジェ、目に痛い演出等々。 不気味なのにギャグ、な路線はいいのですが、こうきっちりとホラーにしないといけない、という状況にはあまり強くない監督なのだなぁと実感。
オチは、ああなるほどなぁとは思うのですが、どうにもそこまでいたる道筋が○○オチだからとは言え、不条理すぎる。 赤い衣の女の子は何? まあ、それにしたって、映画でやるようなオチではない。
そして、実はずっと彼岸島にも見えていたというのはここだけの秘密。 エンディングに彼岸花が出てきてやったー!と思ってしまったよ。
+++++++++ 【監督:チェン・カイコー 中国】
サイレンがあまりにもやもやするから、その勢いでこちらも鑑賞。 この監督の映画は初めて観るのかな。
牛より早い奴隷に大爆笑、その後もツッコミの手を緩める暇もなく、ラストまで突っ走らされました。 いやー、やっぱりこれくらいやってくれないと、映画観たー!という気持ちにならないよね。 あ、別にツッコミたくて映画を観ているわけではありません。決して。
なんかねー、私に特殊フィルターが付いているせいもあるのですが、一人の美女を巡る三人の男の話だと思って観に行ったのに、なんだか、みんな、どっちかと言えば大将軍にご執心だったよ。 毎度毎度、真田広之の色気垂れ流しを誰か止めてください。 ステキです。 華鎧に蜂も寄ってきちゃうくらいの、フェロモン(ちょっと違う) 大将軍はフローラルな香がするに違いないよ!
ラストもさ、将軍を助けるために、奴隷(チャン・ドンゴン)は真実を告げたみたいな流れだと思うの。 真実を告げて傾城の愛を勝ち取りたいというよりも。
主従と傾城の三人はともかくとして、北の公爵。 彼がラストで明かした話しには、盛大につっこんだ。 あれ、お前だったのかー!というか、あれしきで疑心暗鬼になるって、どれだけ純情だったの! ミッチー・・・じゃなかった、公爵が可哀相な子でどうにも応援せずにはいられませんでした。 大将軍に黒衣着せるのが夢だったとか言い出すし。何それ、本気で憧れてたんだね。多分、ちゃんと戦ったら、公爵の方が強いと思うんだけど。 傾城のことが好きなんだとばっかり思ってたのに、饅頭の恨み(違う)だったなんて、びっくりすぎる。 大将軍も黒衣着てあげれば良かったのに。
とにかく突き抜けたおばか映画で大変、たのしゅうございました。
2006年03月06日(月) |
『あくまびんニココーラ』(小) |
【大海赫 ブッキング】
復刊第・・・何段か忘れましたが、またも復刊。 ついに悪魔の話し、と身構えましたが本当にちょっとしか出てこないし、そもそも、話しとしてもなんだかまとまりというか整合性がない。 だけれど、大海赫の話しと言うのが上手いとは到底言いがたい物語であるのは、今に始まったことではないのですが。 上手くないからこそ、長年絶版だったわけですし、また、上手くないけれどどうしても見逃せない要素があるから今の復刊がある、というようなことを改めて実感する一冊でした。
それにしたって、今までの中で一番まとまりのない話しだったと思う。 凄いラストがきたものだ。
大海赫が物語の中で提示する夢やら希望やらはあまりに不気味な形をしていて、素直に受け止められない。
【貫井徳郎 新潮文庫】
『烙印』のリメイク、だそうですが、『烙印』を読んでいないのでなんとも比較しようがありませんので、本書のみの印象を。
『慟哭』とはうってかわって、ライトな印象を受ける語り口で、最初はこんな語り口もいけるのか、と思ったものですが、読み進めると、やっぱりどんどん重くなってくる。 生真面目な人が無理に軽妙さを演出しようとしているような、そんなストーリーと語り口の齟齬が終盤目立ってくる。
ネタバレを含みますよ。
『烙印』がハードボイルド的語り口であったことを反省しての、今回の主人公のへなちょこな性格付けなのでしょうが、へなちょこならへなちょこらしく最後の最後までそれを貫いてくれないと、やっぱりハードボイルドだったよね・・・という読後感になる。 最後に貴島をはずみとはいえ、殺してしまう必要があったのか、絢子が自殺する必要があったのか。 そもそも、後東が死ぬ必要はあったのか。 実は絢子は台湾人でもなく、マフィアの愛人でもなく、ましてや覚醒剤の運びもしておらず、ヤクザの親分の娘で、本当はとても身近にいたんだとうオチに話しを運ぶなら、こんな悲劇的ラストはいらなくて、むしろハッピーエンドでもよかったはず。 もっと言うと悲劇的と言うよりも、気障なラスト。 絢子が憎んでた父に献血したとかそういうエピソードも、なんだか鼻白む思いをせずにはいられない。
どうもこの小説はいまいちでした。 あ、お兄さんは素敵でした。
2006年03月04日(土) |
『銀河英雄伝説外伝 星を砕く者・上下』(小) |
【田中芳樹 徳間デュアル文庫】
再読は書かない方針ですが、まあ、外伝はどれを読んでいてどれを読んでいないのかいまいち記憶が定かではないので全部書きます。 でもさすがに、これは読んでる記憶ありました。
シリーズ全体のネタバレを含みますので、刊行されて早、云十年経つ人気シリーズのネタバレをいまさら心配するのも気を回しすぎのように思いますが、お気をつけください。 私が読んだ当時ネタバレされて、非常に落胆したので必要以上に気を回してしまいます。
現在、銀英伝再読中なのですが、2巻に続けてこれを読むと感慨もひとしおです。 特にラストシーン。 ラインハルトさまのばかーっ!とついつい言いたくなります。 本人が一番わかっていることであるだけに、責め切れませんがそれでもふと、言いたい気持ちになる。 いやー3巻以降がまた辛いんですよねー。ことあるごとにみんながみんな、「キルヒアイスがいたら・・・」って思うんですよねぇ・・・。
それはさておき、外伝。 タイトルで察せられる通りに、帝国サイドの物語。 帝国サイドは、ラインハルトさまが打倒皇帝に燃えている期間が一番好きであります。 もちろん横にキルヒアイスがいる時。 そんなわけで、双璧が陣営に加わる経緯が描かれるこの話しも楽しく読みました。 (逆に同盟サイドはヤンがある程度の地位についてからの方が好きです。でないと活躍できないからなー)
なかなか解説が面白いです。 これだけの小説になると、いろんな人がいろんな考察して、いろいろ論評してるんだろうなぁ。 私がはじめて銀英伝を読んだときは、単純に三国志が元になってるのかなーと勝手に思っていたし、解説で三国志の名が出てくることも多々あるのですが、数年前に三国志ブームが来て、三国志読みまくりした後に、もう一度銀英伝を読むと、アレ?違ったのかな、と思いなおしてしまいます。 三つ巴であること以外なんら共通する点は見出せないのです。 と言うよりも、帝国と共和制という対立の時点でもう、三国志とは全く別の視点であると言えるんじゃないかと。
10年ぶりの再読はいろいろ思うことが増えて楽しいですね。
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