妄言読書日記
ブログ版
※ネタバレしています
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【谷崎潤一郎 中央公論】
異なる作風の短編二編収録。 まあ、しかし、谷崎の小説は何を読んでも、谷崎だなぁという感想しか持ち得ないところが凄い。
「お艶殺し」 典型的な江戸市井物、という他ないくらいに、典型的な文体で、典型的にことが運ぶ。 (そうは言っても、江戸市井物ってイメージだけで実際に読んだことはない) そして、谷崎的悪女と、谷崎的駄目男が出てきて、タイトル通りのオチがつく。 惚れた女を最後に殺すあたり、谷崎にしては珍しいように思う。 その辺が、若かさの現れなのかしら。
「金色の死」 文学とは、芸術とは、と作中の二人が散々語っているのだけれども、語る言葉そのものよりも、岡村がその肉体で表現したものが目指した芸術であったように、二人の対立が谷崎の文学とは芸術とは、の考えの現れなのかなぁと。 私は、文学とは芸術とはなんてどうでもいいのだが、軽薄というか短絡的とすら思える岡村の表現方法はそれはそれで一つの形なのかと思う。 肯定的にはなれんが。
確かに三島が好きそうな話しだな。
2006年01月29日(日) |
『死のサハラを脱出せよ 上』(小) |
【クライブ・カッスラー 訳:中山善之 新潮文庫】
昨年公開の映画『サハラ 死の砂漠を脱出せよ』の原作本にして、ダーク・ピットシリーズ11作目。
上巻を読むだけで、大分映画と違うことがわかります。 映画よりもスケールが大きく、もう少しプロットも入り組んでいる様子。 映画の脚本はかなり大胆に削りつつ、作りつつしたんだなぁと改めて、映画の脚本に感心してしまう。
大西洋での急速な赤潮発生の原因を探るべくニジェール川を上るダーク一行(と言ってもアルとルディだけ)と、原因不明の疫病を調査するWHOのメンバー、その双方を邪魔するマリで独裁を振るうカジム。 この辺りを中心に話しは進んでいます。
映画ではいかにも学者肌で、戦闘では心もとないルディでしたが、原作ではなかなかのタフガイぶりを発揮して、ダーク、アルコンビに引けを取らない善戦ぶりを発揮。 映画版の頑張るルディが結構好きだったのですが、こちらも好きです。 サンデッカー提督は、映画では二人に振り回され気味の苦労人に見えましたが、なかなかどうして、食えない短気なおっさんです。 むしろ、二人が振り回されてるんじゃないか、というくらい。 NUMAのみなさん、かっこいいです。
上巻では、逃亡しつつ汚染源を探るダークとアルが砂漠に乗り込んでいくあたりまで。 砂漠では意外な人と出会ったり。
いやしかし、やっぱりアルが大好きなのです。 ダークとアルがとっ捕まって、クルージングの中に脱水寸前になりつつ閉じ込められている時に、一言二言、恨み言をいってもいいようなものなのに、軽口叩くというのは、本当にダークに対して全幅の信頼を寄せているんだなぁと。 信頼という言葉じゃまだ甘い気もします。
ところで、中山氏の訳が時々おもしろいです。 ダークがたまにおっさんくさいセリフを言ったり、妙に若々しかったり。 思わず笑ったのが、 カリオペ号で、奇襲をかけるときに、ダークが言ったセリフ(P187)
「みんな、いよいよ出番だ。やっつけちゃおうぜ!」
やっつけちゃおうぜ? 可愛いじゃなか、ダーク。40のおっさんだとはとても思えんよ。
2006年01月26日(木) |
『蒼天航路35・36』(漫) |
【漫画:王欣太 原案:李ハ仁 講談社モーニングKC】
完結です。
色々な三国志を読んできて、毎回読み終わった時にはほうっと息をつきたくなるような満足感があります。
三国志、好きなんだなぁと改めて実感しました。 改めて語るような事柄もないし、感傷的な感想も違うと思うので、ろくに感想を述べていないままに終わろうと思います。
いや、もう、ほんとたまらないよ。
2006年01月14日(土) |
『博士の愛した数式』(小) |
あけましておめでとうございます。 新年一発目が14日って、どれだけ本を読んでいないのだ。しょんぼりしてしまいます。 今年もよろしくお願いします。
【小川洋子 新潮社文庫】
題名を書くとき、“数式”を“密室”と書きそうになりました。 森博嗣の小説ですかい。
文庫になったのでようやく読みました。 小川洋子は二冊目ですが、ウエットだなぁという印象は変わらず。 今作は温かいのは確かなのですが、なんだか私、この人の小説を読むと滅入るんですよ。
素晴らしい一冊には違いないし、世間の評判も正しいと思います。 ただ、私はこの人のこのしっとり感が滅入って仕方ないので、やっぱり苦手。 じめじめではなく、さらりとはしているのですが、それがかえって掴みどころのない読み心地を味わわされます。 なんだか滅入るのは、例えば、「私」が一度、博士の下をくびになった時に、お金を奪われるというエピソード。 ただのスリや泥棒ではなく、見知らぬ女に一言「金」と言われて奪われていくというのが、なんとも暗澹とした発想。
三人のかなしいほど、静かな夜が印象的でした。
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