初日 最新 目次 MAIL HOME「馴れていく」


ごっちゃ箱
双葉ふたば
MAIL
HOME「馴れていく」

My追加

2010年07月26日(月)
花と水と留守電








何百艘が浮かんでいたのか
水面が花で
埋め尽くされるなかを
小舟の群れが往く
仰向けの
静かな人たちを乗せて
小舟の群れがゆっくり
夜の川を
海のある方へ
深い闇だけ拡がる方へ
そのなかの一艘に君が
座り込んでるのが見えたのに
呼んで、呼んでも
返事もまるで無いのだし
追い掛けようとして
足が
動かなかったのだから

ボクは目を覚ましてうつぶせのまま、わんわん泣き出してしまった。
もう32歳だってのに顔じゅうが鼻水まみれになった。
まくらカバーもご同様にびっしょびしょ。そのまま君に電話をかけた。
勝手なのは分かるんだ。
でもこういうとき、声を少しでも聞けるまでは解決したとは言えないのさ。
気持ちが切り替わらないし。いまだったらこの前のこと、許してやるから。
なんではやく
電話ください。















2010年07月19日(月)
休符をひとつ







人間というのは音ですので
じぶんを閉じ込めておくだけで、じぶん
じぶんと
うるさくなってかないません。
午後5時30分の
渋谷の道という道には
反響する靴音幾千億万びーと。
こんなふうに鳴りすぎると
集まり過ぎたじぶんたちが
かえって
目を閉じるみたいに
静かになってしまいます。
静かさというのは、ええ。
やさしさですので。
だから誰も
気付かない顔をしながら
ほんの数秒
靴音から吐息まで
消えてしまっていることは
ご存知ですか。
誰ひとり
いなくなっている瞬間なんてのも
あるのです。
存在とは、無い場合のほうがきっと
気持ちの良いものなのでしょうか。
骨のような透明さで
交錯しあうエスカレーターの
その
作動音だけを残して。













2010年07月12日(月)
みんな眠る








うっすらひらいた
唇から
夜とよだれを垂れ流しては
みんなして
眠っている
わけなのですが

ほうりだした手足の先に
未だ赤んぼうらしさを
結わえたままのくせ
うまれつきの
生真面目さもあくたれ具合も
柔軟且つ
だらしなく捏ねあげ積みあげ
遂には撥ね散らせた造形美へ
いいかげん
完成させてしまおうと
みんなして
眠りに励んでいるわけですけど

そんな好き勝手
し放題
眠りをやらかしてるそのあいだ
月や叢雲
幽霊たちが
どれほど気を配りあい
囁きあい
この静かさを保とうとしているか
ご存知か














2010年07月05日(月)
むずかしい言葉でしゃべりたい








むずかしい言葉でしゃべりたい
難しくしゃべるのが仕事なひとたちみたいに
専門用語とかをもっと知りたい
本棚を背にして足を組んで
手はおなかのうえに組むポーズでしょう
むずかしい言葉でしゃべりたい

難しくしゃべるとそれだけで
正しいみたいに聞こえるでしょうし
引用なんかもパッとできれば
それが理由みたいに言えるでしょうよ
もっと勉強しなきゃあ、きみ、ふふふのふ
むずかしい言葉でしゃべりたい

難しい言葉でしゃべったなら
みんな尊敬の目で見てくれるでしょう
聞きなれない言葉がでてくるだけで
耳は自然と向くものでしょう
当然女の子にもモテちゃうでしょうし
むずかしい言葉でしゃべりたい

難しい言葉でしゃべれさえしたらば
お金だって貸してもらえるでしょうし
自分探しにも成功するでしょうし
痔だって治るかもしれませんし
福引で温泉旅行も当たります
むずかしい言葉でしゃべりたい

恣意的な差異の体系構造に於けーる、よりメタ高次メタ高慢な
相対価値を内包した言語しにふぃあーんでもってかんばっせーしょん
したい
わかりませんとは言いたくない、わからなかったとしても
わからないことをわからせぬよう見抜かれぬよう
難しい言葉でしゃべりたい

わざとそんなふうにしゃべってますか?と
時折見抜かれてしまうような事案には
むずかしい言葉よりもっと難しい言葉で対処したい
だから難しい言葉よりむずかしい言葉を考えていたらば
かえってカンタンな言葉になってしまったけれど
簡単で突き抜けたような言葉になったけれど