初日 最新 目次 MAIL HOME「馴れていく」


ごっちゃ箱
双葉ふたば
MAIL
HOME「馴れていく」

My追加

2009年09月28日(月)
一秒間









たった一秒、ほんの
そんな瞬きの時間で僕らに
なにが出来るってのか

しょうこりもなく立ち上がるのか
どうしようもなく座りこむのか
希望の明かりなんぞ灯すのか
やはりひと息で吹き消すのか
一生の怪我を注意で躱すのか
躱しきれなかった昔の苦々しい記憶がよみがえるのか
慌て、そいつを打ち消すのか
たとえばほろ苦き思春期であるなら
好きだ、とそのひと言で
手に負えなくなりすぎた気持ちは伝わるだろうか
それとも、どうぞ私に関わらないでください、という意味で
もっとやんわりとした
さんざ聞き慣れた短い台詞を返されるのか

一秒間、なんてタイトルが脳裏をかすめたりするのか
いや、冷静になればこんなんボツだと捨て去るのか
そろそろこのへんでタイトルにもういちど目をやるのか
そろそろこのへんで次の頁をめくるのか
いっそのこと閉じてしまうのか
一段の階段を噛むようにあがってみるか
二拍の美しい旋律を奏でてみるのか
三十年、彼が悩み続けてきた事柄に
きみがただ乾いた正論を投げつける為
アタマをめぐらせた時間といえばせいぜい

4.2人の人間たちが生まれ
1.8人が去っていくのか
クリックひとつ、一生分の収入が取り引きされることもあれば
情報の海を100メガバイトほど垣間見るのか
けれども幾千、幾々々億通りかの瞬間をかさね
いつか僕らの生涯を果たすに値うるほどの
妙なる言葉に浸ることが許されるか
いくらじぶんを責めようと
一秒間、ともかくも
それっぽっちの時間なんかで
いったいなにが出来たっていうんだい

僕の携帯電話がズボンから落ちて
便器の水の中で沈黙するまで















2009年09月21日(月)
つまりはどちらの










―ひどいな、まいった。
きみはおぼえていないだろうけど。

唐突で何の事なのか、
呆けたままの私を放っぽって
よれたスーツ姿の男は照れ笑い、苦笑いしながら話を続ける。

―夢の中できみと語り合うのが愉しかっただけだったのに。
急にいなくなっちゃうんだものな。
きみの夢の中だったものだから、閉じ込められちゃって。おかげで
きみがまた同じ夢にもどってくるまで待たなくちゃならなかった。

そうなの。
云われてみればずっと昔、そんな事があったかもしれない。
そんな夢を見た事が。
でも朝には仕事に行かなくちゃいけない、と思い出したのだもの。
夢は突然に覚めるものだし。閉じ込められたとして
責められたって、私のせいじゃない。知らない。

―でもよかったよ。だいぶ時間はかかったけれど、これで帰れる。
じゃあ僕はもう行くよ。そろそろ夜が終わる。

今朝は、そんな男の後ろ姿の夢で目覚めた。
それからまだ頬杖のままぼうっとしている。幾千時間が経っても。
仕方がない。
私が知らない服を着たまま、この
知らない部屋の中から出ようとして出られないのだもの。

















2009年09月14日(月)
バスがくるまで








バスがもうじきやってくるまで
僕たちは停留所の横に立ってる
絵の具で作られたような画廊前の
坂道にだけながい雨が降っている

バスがやってこないそのあいだ
傘をさしたランドセルのビー玉が
坂道をころころころがっていく
窓が水槽になってひかってる

バスはまだやってこないけれど
反対側行きのならいくらでも到着する
僕たちが行くはずの方からやってきて
未来のことを置き去りにしたみたいに通り過ぎる

バスがまえにやってきたのは、もう
どのくらい以前のことだったのか
扉のベルが最後にカランと鳴ったのも
随分むかしのことみたいで

バスを待っているってことが
バスを待ってさえいれば
バスを待っているってことが
待ってさえいられるなら

手紙を何度も読み返しているうちに
手紙の文字が変わってしまうだとか
ほんの二、三文字ずつだけれど
きみのことばかり考えていたら

きみが見えなくなってしまったとか
バスがやってくるのを待つうちに
もう乗らなくてもいいふうになってしまったことだとか
でもそんなことって、あるだろう

バスはまだやってこないまま
最後の乗客を降ろして
車庫にはいってしまったけれど

僕たちは停留所の横に立ってる
きみが小さな石になってしまって
その上に傘をさしたままで
もしかしたら、はじめから

僕がひとりぼっちの樹だったこととか














2009年09月07日(月)
わたしがすき









わたしがすき
あのね
顔がすき
声が
話し方がすき
この髪型がすき
似合ってる
うっとり
趣味がいいの
髪飾りから
選び抜いた靴まで
やわらかな腿も
このしなやかな腕も指もすき
硝子の肌も
薄く浮きでた骨の形もすき
整えた爪のカタチもすてき
それにねアタマもいい
物識りで
気が利いてて
なのにちょっと抜けてるとこもすき
愛嬌があるじゃない
やさしいコにならやさしくできるのがすき
ほしいものには正直になれるところもすき
ちょっと強引でも
容赦しないところが
徹底してて
とってもいいとおもう
わたしがすき
すきなところなんて多すぎてね
ああ、かぞえているときりがないの
きりないうちに
おばあちゃまになったわけなんだけど
鏡があれば
嬉しくなるのよ
わたしがすき
だいすき