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2006年10月30日(月)
新聞屋さんとわたくし











いずこよりまかり出た
どこぞからかぎつけてくるのやら
引越しの翌朝までには
かならず彼らはやってくる

けーすわん。がちゃ。
『新聞はもうご契約されましたか?』
いいえ。とらないつもりなんですー。
『月に3000円ほどですから』
高いですー。うち、一日の食費が500円で、
そのお金で6日間は生存できますからー。
『う。でも、そこをなんとか、高級食器セットつけますから』
まにあってますー。
それより5日間わたくしを養ってほしい。

けーすつー。がっちゃ。
『うちの新聞をとっていただけないかとお願いに』
あ、新聞屋さんですね。間に合ってます。ごめんなさい。
『ちなみにいま、どちらをお取りですかー?』
どこも。それよりドアノブをがっちりつかんどる
その手を放してくれません?
『いまですと、特別に巨人戦のチケットが』
いいから。その手を放しなさいって。
『わかりました。お客様には洗剤をもうお好きなだけ…』
はーなーせって!!

けーすすりー。こんこん。もうドアも開けない。
『こんにちはー』
はーい。
『えー。こんにちは…』
どちら様でなんの御用でしょうー?
『えー。朝碑ともうします』
朝碑さんですか。どちらの?
『あー。えっと。新聞なんですが』
いりまへん。あしからず。


わたくしはじぶんで言うのも変ですが
それなりに温厚だと思っておりました
それが、はーなーせ!!と
勧誘といえど初対面のひとに対して
激昂してしまうとは
はなはだお恥ずかしい次第です

というわけで
数々の失礼をしてしまった
新聞屋さんたちへ

社会人として
いつか欲しくなったら
こちらからお電話差し上げます













2006年10月23日(月)
こんな日々









わたしたちの日々を
一枚の絵に仕立て
絵描きさん満足そうに
帰っていった

あのひとは後ろ向きで
離れたところに描かれてしまい
わたしは顔を青く塗りつぶされて
からだ半分のところで切れている

この真ん中にあるのは銀の指輪?
いいえ、こぼれ落ちたパチンコ玉














2006年10月16日(月)
眠らないで(2)








眠れないのでいつも
寝返りばかりうっている

眠れないのでいらいら
ON/OFFスイッチが欲しくなる

眠れないのでいっそ
何時間寝てないかを自慢したくなったり

眠れないのはなんだか
我慢ばかりで楽しくない

眠れないのでそのうちに
ヒツジも疲れてこちらをにらむし

眠れないだけそれだけで
無駄な時間のようでよろしくない

眠れないのはなんでだか
考えこんじゃったりもして余計に

眠れないうちにいつのまにか
眠るのが不自然な気さえしてきたり

眠れないのでそれなら、と
本でも読みたくなったり

眠れないのでもういいや、と
映画なんかも観たくなるが

眠らなければならないので
やっぱり黙って目をとじるしかない













2006年10月09日(月)
みんな、帰ったあとの









まだ話し声があちらこちら
のこっている部屋の
すみっこに目をやっていて
忘れて帰られてしまった
赤い髪ゴムを見つけ

テレビで話し声たちを散らし
カーテンをしめたあと

カチャカチャとお皿を
洗いはじめる
私の部屋はすこしずつ
毎日の様な顔に
戻りはじめる












2006年10月02日(月)
王様、キャバクラに行く










王様ははじめての海外視察におでかけ
野生の国のネオンの街へ
はじめてキャバクラというところに行きました
今夜はアーチの前で馬も降りて
どきどきびくびく歩きます

しゃっちょー。きょうはなにをお探しっすかー。
おにーっさん。かわいーコいまっす。まぢで。

家来たちは常連なので
十歩と前進させずに現われる客引きさんとも
平然と交渉します

『んー。いまのは怪しいですね。』
あ、そうなの?
『ここなんてよさそうですよ。しかも70分4000円。ここにしましょ』
あ、はい。
王様がだれかに「はい」と答えるのも
ずいぶん久しぶりのこと

お店にはいるとワイシャツネクタイのおにいさまたちが
丁寧にシステムの説明をしてくれました。
王様はいつこのひとたちがこわくなるのかと
どきどきびくびく
「はい」、「はい」ともうなんの威厳もありません

さてさて
女の子たちの登場です
みんな結婚式のようなドレスを着ています
うきゃ
王様は必死にゆるむ頬をひきしめます
それでついついタコのような口になってしまいます

『ゆりかです。ヨロシクおねがいしますー☆』
うむ。よろしゅうー
『お仕事はなにをされてるんですかー?』
IT関係社長
『えー!すごーい!!』
(さすがプロです)

『こういうとこはタバコは女の子がつけてくれますから
 自分ではつけないでくださいね』
家来が教えてくれていたので
悠然と火をつけてもらおうとしますが
いかんせん、くわえたタバコがふるえます

しかも一本消すごとに灰皿をかえてくれるので
なんだか吸いたいなと思っても手が伸ばせません
これ、娘。代えんともそのままでよいぞい。
『やさしいんですね〜☆」
(このへんがプロです)

王様は果敢に、無いアタマをフル回転させて
はなしを盛り上げ
女の子と仲良くなろうとします
相手によっては間がもたないときもあったり
お酒のいきおいもあって
肩を抱こうとしましたが、家来たちが止めます
え?これもダメなの?

『上客ならオッケーかもしれませんが
 たぶん今日のところは追い出されかねません』

異国の王様なので
この国のお金はあまりもってません
『ねぇ、私も一杯いただいていいですかぁ?☆』
けれど女の子たちにお酒を飲ませるわけにはいきません
素面のキミが好きだなー
とっさのひと言に
その空間の全次元が固まります
家来たちは見て見ぬ振りをしました

異次元のような70分が過ぎて
お店をでたあと王様はふと家来たちに言いました。
『いやあ。いい勉強になった。それにしても
 わしのところにばかりめんこい娘が来ちゃって
 なんだか、すまなかったな』
そりゃ、あんたが常連になりそうな
カモだと店側に思われたから、とは
とても家来たちは言えませんでした

王様は結局(それほどは)楽しめませんでしたが
自分の国にあったらいいなと思いました
そして、お金さえたくさんあれば
王様になれるのにな、と肩を落とし

女の子たちにもらった名刺を一枚ずつ
かなしそうに見つめるのでした