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2005年10月31日(月)
サービス業さま








「お痩せになりました?」
この病院では、医師が来る前に
看護師が軽く問診を行う

「ええ。すこし」
「あら、どうなさったんですか?」

「えーとー、貧困で…」
「え?」

人間は意外なコトバを聞くと
ついまたそれを聞き返すものだけど
それはいいだろう

「分かりました。医師がまいりますのでお待ちください。」
彼女は落ち着いた口調でそう言うと
診療室の奥の廊下へ消え
一変した大声でこう言った
「貧困で5kgほど痩せたんですってー!」

誰に言ってるんですか??
お医者さんにですか??
他の看護師さんにですか??
この科にいるすべてのひとにですか??

「えーほんとにー」という声が聞こえる
はい。ほんとうですとも

あれ、お医者さんって
サービス業だったような











2005年10月24日(月)
こころとからだ(2)







それぞれのからだによって
丈夫と病気がちがあるように
ひとによってこころにも
強い弱いがあると思うのだ

からだが弱いというひとに
大抵ひとは遠慮をするが
こころが弱いというひとには
はたしてどうだろうか

僕よりこころが強いひとは
どうやってそれを証明するだろう
僕よりこころが弱いひとは
どうやってそれを隠すんだろう

けれどこころが弱いひと、
というのを
ぼくは周囲のひとの
誰にも当てはめられないんだ

誰もが強いといえば
とてもつよく
弱いといえば
とてもよわい

ぼくの周りに
こころの弱いひとがいたのなら
きっといつの間にか
いなくなってしまったことだろう

ぼくやあのひとが
いろんな場所からそうしたように
だまって
いなくなってしまったんだろう








2005年10月17日(月)
怪物(2)







こどもは残酷だ
いや、おとなだって思ってるだけで
口に出さないだけかもしれないけど

みんなよく
わー伝染るぞー逃げろーって
私のボコボコに荒れた皮膚を
からかっていたものだった
仲のよいはずだったコまで

お風呂にはいって
少しはきれいになった肌を見ながら
そんな遠いむかしのことを思い出す

あぁー根にもっちゃってるんだなぁ
ふぅーっと息をついて
お湯に両手を
ゆらゆらさせる











2005年10月10日(月)
だって








言い訳をするなと言われると
言い訳のつもりはないんだけど、それは…と
前振りしてから言い訳をしようとしている

「だって」は言い訳
言い訳はよしなさいって
子どもの頃にあんなに言われたのにな

「だって」を言うなと言われると
かえって「だって」「だって」しかでてこなかった

いまでもそれは変わってない
言い訳するのが上手になっただけで
いつも言い訳を考えたりしてるから
自分にまで通用するようになっただけ

だっては言い訳
だっては言い訳

でも言い訳をしなくても済むひとなんて
いないじゃないですか
そうでしょう?

キミだってボクだって
誰だって









2005年10月03日(月)
あかるいほうへ









部屋の中に小さな
ショウジョウバエらしいのが
飛んでいるので

あまり速くはないものの
小さい彼らは
こちらの目からは捉えにくい

部屋の明かりを全て消し
ひとつの窓のカーテンだけを開けて
待った

あかるいほうへ
あかるいほうへ

こちらの思惑よりもずっとはやく
そやつは窓ガラスを往々としだし
そこをガムテープの切れ端で

つぶされてしまった