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2004年11月30日(火)
まぶしい道端









このアパートの好きなところは
浴室にも光がたくさんはいるところ

嫌いなところは
近くにタバコが売ってないところ

この街の好きなところは
空がひろくて見渡せるところ

嫌いなところは
道を行くひとがしょぼくれて見えるところ

あなたの住む街はおそらくあっち
昨日まで思ってた方角は

間違い














2004年11月21日(日)
しじみ






鍋の中でぱくりぱくり
しじみ達が絶命していく
それを上から
じっと見てると

しじみ達の魂が
ひゅーっと糸を引いて
換気扇に
吸いこまれていく

あぶら汚れを拭きながら
しじみ達がどんなふうに
夜空に昇るのかを
想像している

ガスコンロはバチバチと
激しく燃えさかっている










2004年11月11日(木)
「わいわいわい」(2)








勇気を出して歯医者に行ったのだから
とりあえずはこれで一安心と思っていた次の日

治療をした歯がまだ同じように痛むので再度電話
院長が電話にでてくれたが
「神経の根っこが…」とか「薬が即効性じゃない」とか
よく分からない
しかもその院長のおじさんが
これまた大変に態度が横柄だ

ネットで検索したら「歯科医界のアウシュビッツ」という
とんでもない単語まで見つけてしまった
これでは通う気が起きるはずがないじゃないの
というわけで別の歯医者さんに浮気することにした

浮気相手に本妻宅でおこった事情を説明すると
「いやあ。うちではこういうやり方はしないわよん」と
あっさり言われる
しかも浮気相手宅では患者ひとりひとりに
器具を袋で密封して「あけますね」と確認してから
封を切るという念の入れ様さ
しかも診療台の上にモニターがあって
自分の歯の状態を写真で見せながら説明してくれる
なにもそこまで望んでいたわけではないけれど

アウシュビッツで見た黄ばんだ診察台や
ボタンを押さないと水がでてこない古い設備に比べて
この2号宅での気配りには涙がでるじゃないの

そんな私の様子に
勝利を確信したのか2号さん(お医者様)は
「ちなみにその昨日行ったところ。どこですか?」と
ニヤリとするのだった

(しかし愛人とのお付き合いのほうが
 はるかにお金がかかるのというのが世の常であった)









2004年11月05日(金)
「わいわいわい」







「わいわいわいわいわいわいやろー
 わいわいわいわいわいわいー
 わいわいわいわいわいわいやろー
 朝までおどろー」




             小島麻由美 「わいわいわい」
               アルバム 「my name is blue」から




歯が痛む
ときにこの歌が口の中をかけめぐる
尻尾のはえた悪魔が
ふりふり奥歯の上でおどっているのだ

夜8時半にネットで
まだ診療してる歯医者を検索して電話をすると
「急いで9時までに来てください」とのこと
歯が痛いのをおして
自転車でぜーぜー受付に行くと
おばちゃんがにこやかに「お待ちください」と言った

しばらく受付の前で待ってたのだが
何も言われないので
ソファーに座って痛みをこらえること20分
私の忍耐にとどめをさすように携帯電話が鳴る
「9時にお越しになるとのことだったんですが
 いらっしゃらないんですか…?」

「もう来てるのですが」
それだけ言うのが
そのときの私には
精一杯なのだった