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2004年02月24日(火)
それはとてもあたり前のこと










あたり前のことは
あたり前のことすぎて
つい疑ってしまう

間違いのないことは
間違いがなさすぎて
つい間違えてみたくなる












2004年02月15日(日)
家の裏の骨












家の裏から鳴き声が聞こえる
か細い赤ん坊のような声だったので
見に行くと

家と壁の間の
狭い草のなかに
猫がうずくまってこっちを見ていた
仔猫が3匹ころがって

すごい発見をしたのが嬉しくて
次の日も僕は
小学校から帰ると
裏にまわって
資材置場の屋根の上に座り
仔猫を眺めた
親猫はずっと僕を見つめていた

鳴き声は夜も続いていたが
その次の日は静かだった

見に行くとあの可愛い
仔猫はもう骨になっていた
頭の形がはっきりと分かった

人間に目をつけられたので
親猫が食い殺したのだろうと
しばらくして分かったけれど

ながい間、骨のことは
僕は誰にも黙っていた


















2004年02月10日(火)
ふたりとひとりとわたしと小田急線











発車間際になって
背の低い松葉杖の男が乗ってくる
隅にもたれていたから
場所をあける

新宿から下北沢へ着く頃
電車はぎゅうぎゅう
押されながら抱き合うカップルなんかもいる
男のほうは外国人だ
抱き合って動かないでいる

松葉杖の男はぶつぶつ
呟いている
「〜はこうだ。そうだ64だ。64と62だ」
呟きながらおならをする
何回も平然としている

けれどこの騒音のなかじゃ
わたしにしか聞こえなかっただろう

例え聞こえていたとしても
小田急線は一日の疲れを
夜の空まで運ぼうとスピードをあげるし
カップルは抱き合うのを
やめないんだ














2004年02月01日(日)
家にいた












そういえば
家に帰って誰かいるということはなかったのだ
かぎっ子だったし
小さいときは寝るときにはお話をと
せがんだり寂しかった記憶もあるけど
いつしか慣れた
「おかえり」も自分で言った

そしてそういえば
両親が旅行に行ったりして
はじめて家に一週間くらい
ひとりで留守番をしたときは
とてもワクワクして
なにか普段はできないようなことをしようと思った

テレビの音をすごく大きくして
お風呂に(テレビの音だけ聞きながら)入ったりとか
とりあえず夜更かしをしてみたりとか
結局たいしたことはできなかったけれど

そして家に誰もいなくて目が覚めた朝は
もう両親は仕事にでかけた、という朝とは全然違って
例えば天気のいい日なら
青い空がとても青くてひんやりしていたものだった

だけどそういえば
両親よりも自分のほうが遅く帰る年頃になると
今度は家族とほとんど口をきくことも
顔を合わせることもなくなっていた
「おかえり」はもう意味をもたなかったし

やがてみんながみんな
いっしょに暮らさなくなって
いつしかそんなときに
早くひとりになりたいものだと
誰かつぶやくようになったけれど
僕は知っていたんだ

口もきかずに部屋にこもる
顔も合わせない毎日でも
家に誰かいるというのと
自分しかいないというのは全然違っていて

例えば天気がいい日なら
青い空がとても青くて
ひんやりしすぎているのだということを