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2006年08月20日(日) |
『暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏』(中央公論新社刊)←ポツダム宣言対日「通告」前に原爆投下は決定されていた |
◆暗闘―スターリン、トルーマンと日本降伏(中央公論社刊)
月刊「文芸春秋」の巻頭随筆は、かつて司馬遼太郎氏が書き、司馬氏の亡き後は阿川弘之氏が担当している。
阿川弘之氏に関しては、8月7日に書いたのでご参照いただきたい。
「米内光政」「山本五十六」「井上成美」の3部作を書いた作家である。
文芸春秋九月号の阿川氏の随筆は、『暗闘 スターリン、トルーマンと日本降伏』(中央公論新社刊)という本について書かれている。
要するにアメリカが広島と長崎への原爆投下を決定するまでの過程を史料に基づいて書いた本である。
この本の著者は長谷川毅というアメリカ人である。
リンク先のAmazonのエディターレビューを読めば分かるが、1941年東京生まれ、東大教養学部卒。
元来歴(れっき)とした日本人であったが、その後アメリカに留学し、1977年米国籍を取得している。
だから今はアメリカ人である。本書も原著は英語だそうだ。だが、それは、この本の本質的価値に影響を及ぼさない。
長谷川氏の専攻はロシア史なのだが、第2次大戦の終盤はアメリカとソ連の日本を巡る覇権争いである。
「暗躍」はロシア語と英語、両方の史料を自在に読みこなせる著者にして初めて書けた本である。
◆昨夜更新しなかったのは、腹が立ちすぎて、寝てしまったのである。
私は早速、「暗躍」を注文して読んでいたら、途中で気が遠くなった。
原則的に私は毎日、日記及びブログを更新しているが、昨夜更新しなかったのは、
この本に書かれている事に、本格的に腹が立って、腹が立ちすぎて、書く気力が失せてしまったからである。
そのままパソコンの前にぶっ倒れて朝まで眠ってしまった。こういう経験は初めてである。
◆あまりにも衝撃的。
従来、第二次大戦終戦前後に関して特に関心が無く、本を読んだこともないひとはそれほどでも無かろうが、多少でも興味があるなら、この本をお薦めする。
歴史書を書く、ということ。即ち歴史的事実を検証するという作業は大変に難しい。歴史研究の訓練を受けたプロでなければ無理だ。
例えば貴方が「明治維新が実際にあったことを証明しろ」といわれても、どうしたらよいか分からないでしょう?
つまり何処に行って、どの史料を読んだらよいかが分からなければならない。
史料を読みこなし、意味を完全に理解しなければならない。
そして、その史料が真実を述べていることを検証できる別の史料を探し、同じような作業をしなければならない。
この繰り返しである。気が遠くなるようなプロセスなのだ。
「暗躍」を書くにあたって、長谷川氏が読んだのは英語とロシア語の史料だが、
この本は、紛れもなく、歴史のプロが上で述べたような厳密な手続きを経て著した「研究書」であり、信頼性は高い。
内容に関して、あまり詳しく書くと、また気絶しそうなので、強烈に印象に残った部分を、思い出すままに綴る。
◆ポツダム宣言を受諾しようがしまいが、原爆を日本に投下することは決まっていた
アメリカは、ソ連よりも先に日本を無条件降伏に持ち込みたかった。
そのために原爆を用いることは、ポツダム宣言を日本に通告する前に決まっていた。これは大変な衝撃なのだ。
従来の常識ではポツダム宣言を提示された日本が、これを「黙殺する」と返答し、
そのとき「ignore」という英語を用いたことで、アメリカが原爆投下を最終的に決める遠因となったとされていたのである。
それは、私も2年前、2004年08月10日(火) 「国際連合」は「連合国」という意味なのです。ignoreの1語と原爆。に書いた。
また、同時通訳者の鳥飼 玖美子さんの著書歴史をかえた誤訳など、何人もの人が今まで「“ignore”原因説」を信じていた
(だからといって、原爆投下が許される行為になる訳ではないのは、いうまでもないが)。
繰り返すが、「暗躍」によって明らかにされた事実は、その歴史の常識を覆したのである。
“ignore”など、関係ない。
仮に日本が「即座にポツダム宣言を受諾する」とアメリカに返答したとしても、原爆は投下されたのである。
原爆投下地点の選定の過程の描写も読むのが苦しい。広島上空が視界不良だった場合の代替地は、小倉、新潟だった。
長崎は後からトルーマン大統領が追加した。
◆原爆投下の知らせを受けた瞬間のトルーマンの「ほとばしるような歓喜」
「文芸春秋」巻頭随筆の阿川氏と全く同じ箇所で、私も気分が悪くなったのである。
広島に原爆が投下されたその瞬間、爆心点の温度は華氏5400度(私の計算が間違っていなければ、摂氏約2980度)に達し、11万人が即死(蒸発)した。
その時、トルーマンはポツダム会談を終えて米海軍重巡洋艦「オーガスタ」にいた。オーガスタは大西洋上を西に向けて帰国する途中だった。
英国プリマス軍港を出航して四日目、ランチの最中、海軍士官が一枚のメモをトルーマン大統領に渡した。
それは、日本に対する原爆投下大成功の知らせだった。「暗躍」によれば、その瞬間、トルーマン大統領の反応は
「ほとばしるような歓喜であった。」
この箇所を読んで、昨夜、私は何を書く気にもならなくなったのである。落ちつくまでに24時間かかった訳だ。
◆だからといって、私は「日本を戦争をする国にしよう」と、思想を変えるほどバカではない。
私は、トルーマンは許せない。
しかし、この一時をもって、全ての米国人を憎む(鬼畜米英とかね)、などというほどの単細胞ではない。
戦争絶対反対。日本の集団的自衛権行使を可能にしてアメリカに協力しようという考えは愚かしい、との思いが強まった。
安倍晋三の思想は誤っている。安倍さん、この本を読んでいないでしょう?
私は、教養・良識を兼ね備えたアメリカ人も大勢いることを承知している。
この日記でたびたび取り上げた、エドウィン・O・ライシャワー博士を初め、私が尊敬するアメリカ人は沢山いる。
一般のアメリカ人には、どうしてこんなに親切なんだ。と驚かされるほどの人がいることも知っている。
だから、この本を紹介したのは日本人の反米感情をかき立てるためではない。
ただ、日本国は無条件にアメリカを信頼したり、アメリカに従順であるべきではない。
この本は、是非良識あるアメリカ人にも読んでいただきたい。
「戦争が如何に残酷か」というありきたりだが重要な事実をこれほど、生々しく、しかし、冷静に書いた本は少ない。
まだ、混乱していて、文章の締めくくりが上手くいかないが、今日は、ここまで。
2003年08月20日(水) 「自衛隊イラク派遣、年明け以降に=爆弾テロに強い衝撃−政府」年が明ければ安全になるの?