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2005年06月07日(火) |
「情報はその国の国力に比例する。従って日本は世界第一級の情報を持っている。」佐藤優元外務省 主任分析官 |
◆記事:「国家の罠」対談 佐藤優・外務省元主任分析官と御厨貴・東大教授より、抜粋。
◇平成の奇書「国家の罠」
国際学会をめぐる背任罪などで執行猶予付き有罪判決を受けた佐藤優・外務省元主任分析官(控訴、休職中)の著書「国家の罠(わな)外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社)が話題だ。
御厨貴(みくりやたかし)東京大教授(日本近代史)は毎日新聞の書評で「平成の奇書」と評した。二人が外交などについて語り合った。
御厨: 佐藤さんは自らの事件を「国策捜査」と位置付けたが、キータームになると思った。言いたいことは明快で、「冤罪(えんざい)」でも「検察ファッショ」でもなく、国家は一つの生き物でその生存を脅かす突出した動きがあると司法の手によって断罪されるということだ。もう一つ、司法にはある種むき出しの怖さ、つまり一度ここに持っていくと決めたら絶対にそこに落とし込んでいく怖さがあるということだ。
佐藤 情報の世界では琴線の隣には逆鱗(げきりん)があると言う。その触り方を間違えたのかもしれない。
(中略)
御厨 日韓で歴史共同研究が行われている。しかし、日本には歴史には真実があり話し合えば共有できる真実にたどりつくという楽観主義があるのに対し、他の国はそんなことは夢にも思っていないのだからうまくいくはずがない。
佐藤 (中略)ロシアは他国の歴史認識に文句を言ったら、対立を深めるだけだということをよく理解している。
(中略)
御厨 中国が靖国参拝中止を主張しているのは、日本国内が賛否二分しているのに乗じたゆさぶりだろう。小泉首相の性格から言って靖国参拝は絶対に変えない。それを前提にしたうえで政治的決断を考えるべきだろう。
佐藤 ゲームだということを理解すべきだ。ゲームの勝敗は土俵の作り方で決まる。
中国が台湾問題と同じくらいに恐れているのは、新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の民族主義とイスラム原理主義だ。あの地域に関する日本の研究や情報量は世界一級だ。それをもとに「国の西側の問題で頭が痛いのになぜ東の日本とも対立するのか」という交渉もできる。
御厨 佐藤さんは情報活動の専門家だが、日本にも情報将校のような人間は戦前からいた。軍隊をいかにコントロールするかで情報は必要だった。戦後は経済成長の一方で軍事力とまったく向き合わずにきたため、情報の使い方が分からなくなったのではないか。
佐藤 その通りで情報は必要に迫られてのものだ。ただ情報はその国の国力に比例する。従って日本は世界第一級の情報を持っている。問題は国家がそれをうまく集約し使えるかどうかだ。その思いも伝えたくて本を書いた。
◆コメント1:やはり、国家は「化け物」だ。ということ。
昨年、1月27日の日記で私は、学生時代に国際政治学の教授から聴いた、
「国家とは、おそろしいものです。強大な警察力と軍事力で身を固めて、目的のためなら、一般の人が想像もつかない手段を使うことさえ厭わない、化物だと思っておいたほうがよいでしょう。」
という言葉を鮮明に覚えている、という意味の事を書いたけれども、この佐藤優氏のエピソードを読むと、あの教授の言葉は本当だった。と改めて感じる。
それは、「記事」のはじめの御厨(みくりや)東大教授の言葉に集約されている。
「国家は一つの生き物でその生存を脅かす突出した動きがあると司法の手によって断罪されるということだ。もう一つ、司法にはある種むき出しの怖さ、つまり一度ここに持っていくと決めたら絶対にそこに落とし込んでいく怖さがあるということだ。」
今日、引用した記事は、毎日新聞の夕刊2面に載っている特集記事で、これだけきわどい記事を掲載できる、ということは、まだまだ、日本は民主的(佐藤優氏が経験したことは、超非民主的だが)だと思った。中国なんか比べものにならない。別の記事で、脇に逸れるから引用しないが、中国当局はインターネットのWebサイトも全て検閲して、認可制にする、という情報を、今日、日本のメディアが報じている。
佐藤優氏は、ロシア問題の情報分析専門官で、膨大な貴重なロシア関連情報を日本にもたらした、本物の情報のプロだが、詳しすぎたのが、仇になり、「国策捜査」(国が、時代の「けじめ」をつけるために、ある個人を「いけにえ」にすること、だそうだ)により、刑事被告人にされてしまったのである。その経過は、国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれてという本に書いてある。
読んでいると冷や汗が出る。佐藤氏はよくもまあ、この本を出す前に「抹殺」されなかったものだ。頭の良い人だから、勿論殺されない程度ぎりぎりのところで止めておいたのだろう。そして本を出版してしまったら、もう国家も彼を消せない。あまりにも因果関係が明らかになる。
佐藤氏は捕まって、検事から、「(君が)勝てる訳がないだろう?これは『国策捜査』なんだ」といわれたそうだ。
国策捜査なんて言う言葉は、勿論、建前上は民主主義国家において、あってはならないものだ。
つまり、「時の政権の意思により、司法が動いて、都合の悪い人物を、何でも良いから適当な罪名をくっつけて、有罪にしてしまい、社会的に葬り去る」ことだ。
言うまでもなく、近代国家の建前は三権分立。司法権は独立していなければならない。日本国憲法にも、
「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」(第76条第3項)
と明記されている。が、そんなのは、実際には、嘘っぱちだということだ。残念ながら。
◆コメント2:「外交はゲームだ」というプロの言葉
私がコメントしたいもう一つのテーマは、「国家の恐ろしさ」はさておき、この外交・情報のプロ中のプロの言葉だ。
御厨(みくりや)東大教授は、中国が、靖国問題を持ち出すのは、この件に関して日本国内の世論が二分しているのを良く分かっていて、それに揺さぶりをかけるために、敢えて挑発的な発言を繰り返しているのだ、という。そうでしょうね。
そして、佐藤氏がそれに同意して「これはゲームだということを理解するべきだ」と発言している点に注目したい。
つまりですね。
中国は日本と歴史認識が一致することがこの先も無い、ということが、良く分かっている。日本が全面的に謝罪することもないと言うことも分かっている。自分たちの要求が非合理的だと言うことも分かっている。
その上で、日本攻撃を繰り返している。日本が同じ土俵に立って、まともに反論しても、絶対に中国は「分かった」とは言わない。
日本がムキになって、暴言を多発して、アジア、ひいては国際社会で孤立すれば、中国がアジアのリーダーシップを握ることに役立つ。その手に乗ってはいけない。と、佐藤氏は、いっているのだ。
日本が持っている情報は世界第一級で、中国が台湾以上に恐れている、「新疆ウイグル自治区におけるウイグル人の民族主義とイスラム原理主義」に関しても、日本が、多分世界一詳しい。よその国の情報機関は、日本からその情報を入手したがっている。
中国は世界に弱みを知られたくない。
だから、それを「取引」(「駆け引き」というべきか。)に使うことが出来る。というわけだ。
なるほど。餅は餅屋だ。このレベルになると、これはもう、情報のプロにしか分からないことで、こういう話が、一般紙の夕刊に載ることは珍しい。
こちらの毎日新聞の原文を読んで、保存しておいた方がいいですよ。
今日は、私のコメント、本当は要らないです。とにかく、この記事を読むことを薦めます。
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