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2004年10月08日(金) |
欧州の管弦楽団で活躍する日本人音楽家は、どんな政治家・外交官よりも、日本に貢献している(シュミット元ドイツ首相) |
◆世界一のオーケストラ、ベルリンフィルの第一コンサートマスターを21年務めている人がいる。
クラシック音楽は、どうしても一般大衆に人気がない、地味な世界である。日本は西洋音楽を輸入してから130年ぐらいしか経っていないから、一般には、なじみが薄い。
しかし、2000年の歴史がある西洋音楽の楽器の演奏や、作曲を、たった100年余りで、非常に高いレベルまで習得してしまった日本人は、やはり優秀だと思う。
西洋人は、「東洋人に俺たちの芸術が分かってたまるか」という思いが意識の根底にある。ピアニストの中村紘子さんが自著の中で引用してにわかに有名になった、20世紀最高のピアニストのひとり、ホロビッツの言葉、
「ピアニストには3種類しかいない。ユダヤ人か、ホモか、下手くそだ」
という表現などが、彼らの意識を端的に物語っている。
しかし、そんな彼らを「うーん」と唸らせてしまった、すごい才能を持った日本人が何人もいる。
器楽奏者には、大きく分けてソリストと、オーケストラの奏者がいる。ソリストはそもそも需要がすくないから、西洋人ですら、並大抵の才能では、なれない。
だが、ヨーロッパの一流オーケストラの厳しいオーディションに受かって、入団することも、気の遠くなるほど、大変なことなのだ。
オーディションをして、2人が同じ程度の音楽性と技術の持ち主だとする。一人は西洋人。もう一人は東洋人だったとする。彼らは迷うことなく、前者を採用するであろう。従って、ヨーロッパのオーケストラに在籍している日本人は、西洋人よりも、西洋音楽を高度に理解して、表現する能力が認められた人たちであって、並の人々ではない。
◆シュミット元首相の言葉の重さ。
表題に引用したのは、昔の西ドイツ(冷戦時代の話ですね)の首相、ヘルムート・シュミット氏の言葉である。随分前に、ニューズウィークのインタビューの中で述べていた。
シュミット氏は政治家でありながら、音楽に造詣が深く、それは、小泉首相どころではない。自身もピアノを弾く。しかも、玄人はだしである。
「ドイツグラモフォン」という、クラシックレコードの老舗があり、ここからレコード(当時はまだCDはなかったのだ)を出してもらえるということは、一流音楽家と認められたも同然なのだが、なんと、シュミット氏はこのグラモフォンでレコーディングしたことがあるのだ。
完全なソロではないけれどね。バッハの4台のピアノの為のコンチェルトという曲で、他の3人のプロのピアニストに混じって弾いているのだが、しかし、玄人ははだしとはこのことだ、といいたくなるほど、上手い。
だから、彼は、日本人がドイツのオーケストラに採用された、ということの意味の重さを日本人よりも分かっていた。
シュミット氏の言葉は、正確には、
「ヨーロッパのオーケストラに在籍している日本人音楽家は、どんな日本人政治家・外交官・実業家よりも、ヨーロッパ人の日本人に対するイメージを高めるのに、貢献している」
というものだ。
それまで、欧米人は、「日本人なんて、物を作って売るのが上手いだけの、黄色い、目が細い、背の低い、教養がない、貧相な奴ら」だったのに、日本人演奏家の音楽を聴いて、それが間違いだったことに気が付いたのだ。
日本人演奏家のこの功績を、日本国民は理解しなければいけない、とシュミット元首相は力説してくれていて、私は感動した。
◆コンサートマスターというポジションの厳しさ
古くはフルトヴェングラー、その次がカラヤンが音楽監督を務めた、ベルリンフィルハーモニーというドイツのオーケストラがある。
ここに入る人は、全員、ソリストとしても通用するほどの腕前と音楽性の持ち主である。
オーケストラのバイオリンの一番前、つまり指揮者に近い位置の客席側に座っている人をコンサートマスターという。 この席に座ると云うことは、世界のオーケストラ・プレイヤーの頂点に立った、と言っても過言ではない。
一般の聴衆は、オーケストラの各奏者は、指揮者の指揮棒を見て、演奏していると思うだろう。指揮者が棒を振り下ろした瞬間が、音を出す瞬間だと思うだろう。
そうではない。正確には、コンサートマスターが音を出す瞬間に、合わせなければならないのだ。
オーケストラ全員がいつも見ているのは、コンサートマスターなのである。ちょっと見ていると分からないが、コンサートマスターは、自ら演奏しながら、オーケストラの他のメンバーに、音を出す瞬間をちょっとした動きで伝えている。だから、コンサートマスターは自分のパート(第1バイオリン)の譜面を完璧に演奏するだけでは、仕事をしていることには成らない。指揮者と同じぐらい、オーケストラ全体の楽譜を読んで、勉強しているのである。
そして、コンサートマスターになるためには、それまで、ベルリンフィルで何年も演奏していたとしても、また別のオーディションを受けなければならないのだ。そこで、他のメンバーの投票が行われ、一定数以上の賛成が得られなければならない。
ところが、それで、終わりではない。これは、コンサートマスターとしてのテスト期間の始まりに過ぎないのだ。楽員の投票で、一応コンサートマスターの席に座るが、その後2年間は試用期間なのである。2年間ものあいだ、オーケストラの全員から、「あいつは、ベルリンフィルのコンサートマスターとしてふさわしいか」観察される。
2年後に再度協議、投票が行われ、そこで問題が無ければ初めて、正式の「第1コンサートマスター」の肩書きがつく。
安永徹さんという、日本人ヴァイオリニストは、この過酷な課題を見事クリアした人である。1983年だから、もう、21年もベルリンフィルの第1コンサートマスターなのだ。
◆目もくらむほどの栄誉
大リーグでイチローが成し遂げた事も、偉業である。それは、確かに、認める。
しかし、私は、安永さんがベルリンフィルの第1コンサートマスターに就任した、というニュースを聞いた時、今度のイチローの快挙を讃えている野球ファンたちの10倍ぐらい、興奮していた。街を歩いていても、全く知らない人に、一人一人、「日本人がベルリンフィルのコンサートマスターになったぞ!」と話して伝えたい衝動に駆られた。まさに、目もくらむほどの名誉。快挙。日本の誇りなのである。
2年前の今日、小柴東大名誉教授がノーベル物理学賞を受賞する、と発表された。
安永徹さんが21年間にわたって、ベルリンフィルの第1コンサートマスターを務めているという事実は、ノーベル賞に匹敵するぐらいの偉業だ、と私は思っている。しかし、99%の日本人は、そんなことは知らない。
だから、今日は、少しでも多くの人に知って欲しくて、この稿を起こした。
2003年10月08日(水) <損賠訴訟>割れた食器の破片で目に障害 販売会社に賠償命令 ←何でも人のせいにする傾向が顕著になりつつある。
2002年10月08日(火) 小柴名誉教授、万歳!