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2004年07月30日(金) |
「雅子さまは『適応障害』 病名公表、自身で決意 」説明が中途半端です。 |
◆記事:雅子さまは「適応障害」 病名公表、自身で決意 (共同通信)
宮内庁の林田英樹東宮大夫は30日の定例記者会見で、長期静養中の皇太子妃雅子さま(40)の病名について「適応障害」と初めて公表した。関係者によると、雅子さま自身が医師らと相談した上で病名公表を決意したという。発表前に天皇、皇后両陛下にも経緯を報告した。
「適応障害」の原因について、林田氏は医師団の見解として「皇太子妃という特別な立場、懐妊や流産をめぐる問題、公私の区別をつけにくい多忙な生活に伴うストレスがあった」と説明。その結果、不安や抑うつ気分が現れたとしている。
現在の治療は、日々の生活環境をストレスのないものにすることと精神療法が中心だが、少量の薬物療法も併用しているという。
林田氏は「病状は改善傾向にあるが、不安を中心とした症状は依然ある」と現状を説明、当面は「公務復帰を具体的に検討するより、まずは心のエネルギーを高めるような私的活動を優先していただく」としている。[ 2004年7月30日17時27分 ]
◆コメント:「適応障害とは何か?」を説明しなければ結局、未知のままではないか。
引用した記事を読んで、一見して奇妙に感じる。雅子さまが「適応障害」という病気であることは、わかった。
その原因として、「皇太子妃という特別な立場、懐妊や流産をめぐる問題、公私の区別をつけにくい多忙な生活に伴うストレスがあった」ことも、分かった。不自然ではない。
現在行われいる治療法として、ストレスの無い(ということはあり得ないと思うが)環境を作ることと精神療法が中心であること。精神療法ってのは、要するにカウンセリング。医師との面談です。これも分かった。
しかし、そもそも「適応障害」とは如何なる病気で、そのように診断した根拠は何か、ということが、全く説明されていない。これでは、結局、ある「未知」が別の「未知」に形を変えただけのことである。世の中、こういう説明が実に多く、聞いた方も分かった気分になるが、この例でいえば、「適応障害とはなにか?」を説明できなければ、理解したとはいえないのである。
精神科の病気の診断と治療の指針として、世界的に使われている基準が二つある。
一つは、アメリカ精神医学会がまとめた、「精神疾患の診断・統計マニュアル第4版」(Diagnotic and Statistical Manual of Mental Disorders version4略してDSM-4という)である。 もう一つはWHO(World Health Organization=世界保健機構)が作った、「国際疾病分類」(International Classification of Diseases 10 略してICD10)である。
◆どちらの基準でいっているのだ?
DSM-4とICD-10はどちらも使われていて、重なる部分も多いが、如何せん、疾病の分類や診断基準が少しずつ違う。だから、真理を明らかにして、世間の余計な憶測を排除しようという目的で、今回の病名公開を決めたのであれば、より、医学的に厳密に説明するべきである。
手元の資料で私が調べた所に寄ると、DSM-4を元に「適応障害」を説明した人は次のように書いている。
症状:適応障害は主な症状によって、次のように細かく分けられています。
1. 抑うつ気分をともなう適応障害 :重くゆううつな気分に加えて、涙もろさや絶望館がある。
2. 不安をともなう適応障害 :神経質、心配、過敏などが見られる。
3. 不安と抑うつ気分が入り混じった適応障害
4. 行動障害をともなう適応障害
たとえば怠学、破壊、無謀運転などの行動障害をともなう 診断基準 一見、強い不安や恐怖にさいなまれる「不安障害」やゆううつな気分に苦しめられる「感情障害」などに似ているようですが、そういった従来からある診断分類には当てはまりません。
言い換えれば、不安障害や感情障害のような症状があり、そのために日常に支障をきたしていない物を適応障害と呼ぶということが出来ます。
もっともよく見られているのは「抑うつ気分をともなう適応障害」です。多くはうつ病でもなければ気分変調性障害でもないレベルのうつ気分があり、原因は明らかにストレスであるとういとき、こう診断されます。
雅子様が公務を執行出来ないほどの状態であることを考えると、上の説明の中の「不安障害や感情障害のような症状があり、そのために日常に支障をきたしていない物を適応障害と呼ぶということが出来ます。」というくだりは、明らかに当てはまらない。
ということは、医師団が云う「適応障害」はICD-10の分類に従っているのであろうか。
本当は、素人がこんな本を勝手に読んで分かった気になってはいけないのかもしれないが、私は医学生が教科書として使う「標準精神医学」(医学書院)という本を持っているので、これで調べた。この本はどちらかというとICD-10を基準にしているからである。 この本によると、「適応障害」とは、
- 成因:ストレスフルな状況に順応する時期に発生する苦悩状態であり、ストレス因がなければそうした状況は発生しなかったとかんがえられるもの。
- 症状:多彩であると同時に、それらのうちのどの症状も、それだけではより特異的な診断を確定するほど顕著でも重篤でもない。「抑うつ気分・不安・心配」などの精神症状が中心である。
- 経過と予後:「生活の変化」から1ヶ月以内に発生し、症状の持続は通常6ヶ月以内である。ただし、「遷延性抑うつ反応」の場合だけは、2年以内の持続が認められる。
- 治療:抑うつ気分や不安に対しては、その程度によって抗うつ薬や抗不安薬を投与する。精神療法を駆使してストレス耐性を改善する努力がなされることも必要である。ストレス因を早期に除去するための環境調整も患者の安全にとって必要である。
- DSM-4との違い:DSM-4では、症状発現の時期がストレス因の開始から3ヶ月以内とされている。また症状は、ストレス因子の終結後、6ヶ月以上持続することはない、と規定されている。
このように見ていると、本日の発表は、ICD-10の診断基準に近いように思われるが、これは素人の知ったかぶりに過ぎない。とにかく、繰り返すが、病名を発表するのであれば、中途半端は、良くない。 病気になったことは、雅子さまの恥でも、罪でも無いのだ。
2003年07月30日(水) 「之を知るを之を知ると為し、知らざるを知らずと為す。是れ知るなり。」 国会の議事録を見るとなかなか面白い。