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2004年06月10日(木) |
<小6同級生殺害>救急隊員に「惨事ストレス」 PTSD専門医療機関の必要性 |
◆記事:<小6同級生殺害>救急隊員に「惨事ストレス」
長崎県佐世保市の小6同級生殺害事件で、現場に駆け付けた同市消防局の救急隊員が、凄惨(せいさん)な現場を目撃したことによる「惨事ストレス」とみられる症状を訴え、専門家のケアを受けていることが分かった。亡くなった御手洗怜美(さとみ)さん(12)と同年代の子供がいたことなどが原因とみられる。消防署員の惨事ストレスは、阪神大震災で初めて指摘され、共同研究など取り組みが始まっているが、こうした一般救急でのケースは珍しい。
同市消防局によると、事件があった1日午後0時45分ごろ、現場の市立大久保小から119番通報を受けて中央消防署の救急隊が出動。隊員3人が3階の学習ルームで、怜美さんが倒れているのを見つけたが、既に死亡しているとして、救急搬送は必要ないと判断した。
このうち40歳代のベテラン隊員が事件直後「自分にも被害者と同年代の娘がおり、ショックを受けた。家族との会話ができない」と訴えた。さらに救急搬送しなかったことについて、批判するメールが同署に複数届いたことが引き金になり、自責の念から症状が悪化したとみられる。
消防局では、同隊員に臨床心理士のカウンセリングを受けさせており、別の2人に対するケアも検討している。
「惨事ストレス」は、放置して慢性化すると心的外傷後ストレス障害(PTSD)に進行する可能性がある。消防署員の場合、大災害や火事現場で同僚が亡くなった際などに「惨事ストレス」の症状を起こすことがあるとされる。
95年の阪神大震災では、激震地で救援活動にあたった消防署員約2800人のうち、約3割が震災から1年以上たってもストレスを抱え、約2割がPTSDに悩んでいたことが判明。精神科医や福祉関係者らによるストレス対策のための共同研究などが始まった。
東京消防庁も、グループカウンセリングを導入するなど、各地で取り組みが進んでいる。
◇積極的にケアを
消防隊員のPTSDに詳しい栗田修司・龍谷大社会学部助教授の話
消防隊員が惨事ストレスを受けるという認識は全国に広がりつつあるが、一般救急のケースで、消防局が組織として隊員のケアに乗り出すのは大変珍しい。冷静・迅速な仕事を求められる消防隊員は、その責任感の強さから、診察に行きづらい現実がある。今は「我慢して働くことがいい」という時代ではない。消防局は貴重な訓練を積んだ専門家を守るため、家族などと協力して積極的にケアに乗り出すべきだ。
◆コメント:救急隊員・消防隊員・警察官のPTSDは多いのだ。
今回の少女の犯行現場はかなり凄惨をきわめていたようで、惨事ストレス障害の救急隊員も早く治療しなければ、PTSDに移行することは、明らかで、すでに手当てを受けているとは言え、まことに気の毒である。
悲惨な事件や事故の現場を見て、関わらなければならない消防隊員や警察官、救急隊員などが、PTSDを発症することは、少しも珍しいことではなく、十分理解できる事態である。
それは、全国的に報道された今回のような事件ではなくても、当然起きているのだが、これらの人々は、元来「人を救いたい」という崇高な感情に基づいて職業を選んだので、「救う側がショックで精神状態がおかしくなるようではいけない」と考えてフラッシュバックを我慢しているのではないか、と心配になる。
◆玄倉川で中州から1人ずつ流されていった映像を覚えていませんか?
1999年8月13日から14日にかけて、神奈川県山北町の玄倉川キャンプに来ていた18人が、川の中州でキャンプをしていて、地元の消防団の人々などが、雨が降って増水して危険な状態になりそうだから、引き上げろと注意したのに、云うことを聞かず、翌日、予想が的中して川が増水して、子供を含む18人は中州に取り残された。
狭い場所で、ヘリも使えず、川の流れがあまりにも急なので、消防団員たちも、助けたいのだが、助けようがなく、18人は自業自得とは言え、川岸で何十人もの人々が見守り、テレビカメラまでもが回っている中、1人、また、1人、と、流れに逆らいきれずに、流されていった。これから、確実に死ぬと分かっている犠牲者はもちろん悲惨であるが、それをただ見ている側のストレスも大変なものだった。
そのとき、あるレスキュー隊員が、届かないのは分かっていても、流されてゆく人に思わず、手を差し伸べていたこと。その後、目をつぶって、天を仰いでいた光景が、テレビに映った。現場にいたほかの、関係者も皆同じような精神的ショックを受け、後に、PTSDの治療を受けることになった。
◆だれでも、明日は精神科の世話になるかもしれない。
このように、犯罪、災害、事件、事故に関わることを覚悟している人々ですら、強度のストレスが加われば、精神的平衡を失うのであるから、一般人はなおさらである。事件や事故の被害者になった場合はもちろん、たまたま現場に居合わせたことにより、PTSDになった例は数え切れない。
西鉄バスジャックのバスの運転士さんはついにあの後、バスの運転席に座ることができなくなって、退職してしまった。名古屋の女性通り魔殺人で、殺された女性と一緒に歩いていた女友達は、ショックのあまり、外出できなくなってしまった。ある女優さんは、たまたま、ロケ先で、犯人を追いかけていた刑事が逆に、犯人にメッタ刺しにされて殺されるのを目撃してしまい。何年もの間仕事が出来なくなった。
◆PTSD専門医療機関を作るべきではないでしょうか。
自分は何も悪いことをしていなくても、ものすごい心理的ストレスにより、心に傷を負う可能性は、理論上は(確率的には)万人に等しく存在するのであるから、専門の医療機関を各都道府県に設置することが理想的である。内科や外科にも専門領域があるように、精神科にもそれは、あるのであって、うつ病の専門家が必ずしもPTSDを適切に治療できるとは、限らない。PTSD専門医を大量に短時間に養成するのは不可能だろうが、すぐには出来なくても何もしないのは、良くない。
調べてみたら、アメリカにはNational Center for PTSD (Posttraumatic Stress Disorder )(国立PTSDセンター)という組織があって、病態、治療法の研究、実践に成果を挙げているようだ。
尤もこれは、当たり前で、PTSDというのは、「ベトナム戦争帰還兵症候群」から始まったのだ。
ベトナム戦争から祖国へ戻ってきた兵隊が、戦闘中の恐怖が突如よみがえったり(フラッシュバック)、無気力になったり、アルコール依存、不眠、自殺、とありとあらゆる、精神的問題を抱えることが明らかになった。そして、戦争だけではなく、事故・犯罪・災害の被害者、関係者・目撃者にも応用されたのがPTSDの沿革である。だから、アメリカで研究が一番進んでいるのは当たり前なのである。
日本でもこれだけ、残虐、凄惨な犯罪や事件、そしてDV(Domestic Violence=家庭内暴力)が多発して、それを抑えることが出来ないのだから、せめて被害者の精神的なケアぐらい充実させるべきだろう。
記事の終わりの方で大学の先生が「一般救急のケースで、消防局が組織として隊員のケアに乗り出すのは大変珍しい。」なんて、のんきなことを云っているが、珍しくてはいけないのではないの?
2003年06月10日(火) 「洪庵のたいまつ」