うつろな眼で 彼女はスミレ科生物の生態について暗唱する 僕はその隣で耳をふさぎ ブドウ科生物の進化の過程を暗記している +++++ 翼は何度でも生えてくる だからわたしは何度も切りおとす、 いつかかたわの翼が生えてきて 進化の瞬間をこの目にしよう、 +++++ 黒い犬、 暗号のように。 ナクナ の切れめがわからずに クナクナクナ、と くりかえす +++++ リップクリィム、 あなたとわたし、 両側から塗る方法、 うすももいろに透けて見えるよ。 海の側へ行こう。 くちびる、きさきさに荒らして 一刻も早く、 使い切ろうよ、 早く、 出会おうよ、 わたしたち、 +++++ 戦いは終わった。 スミレは立ちあがろうと体を震わせるが、 じきに力つきる。 やがてヨーグルト・レーズンの匂いが街を覆っていく。 「あなただけはプルーンの香りを忘れないでね」 と言い残して、スミレは死んだ。
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