ぼくはけしてとりちがえたりしないよ、 と ドラゴン・キッドは云った。 ぼくは全てを透きとおす眼をもっている。 そのまえに世界はすみれ色だ。 水滴は飽和物、 月は紙粘土で出来ている。 電車は夜明け、 天使は五本足、 ポストはチョコレートのかたまりだ。 地面は育ちすぎた胎児が支えている、 猫は物質化された時間だけど 色によって役割がちがう、 たとえば三毛はひだまりというふうに。 隕石はぼくも見たことがない、 けれどもロケットは突きぬける、 なかでも月ロケットは記憶まで。 鳥はホメロス叙事詩を謳っている、 歩きかたはさざなみ、 お皿は永久凍土、 舗装道路は物語のはじまりへと続いている。 標識は細かい縦線の集合体、 信号は砂嵐のなかの一点、 灯台は細い旗と、一人の人間。 雨は幻のように降る、 温度は下がりつづける。 きみは静かな溜まり色をしている。 ぼくはその色がとても好きだ。 僕は、君を美しいと思うのに 本当の色はちがうのだね。 いつからか触れなくなった、 とっくに気づいているよ。 ぼくの名前にはスカイが含まれている。 触れなくても思いだして。 握りかえす。 ぼくはいるよ。 ぼくはいるよ。
うみ + home
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