彼女とは二ヶ月の付き合いだった。 別れる事を宣言しようと決めたのは、その日の最後に喫茶店で桃のタルトを食べたときだった。 向かい側で美味しそうにそれを頬張る彼女を観ながら、そのタルトを亜久津が食べたらどう称すかと考えていた。 彼女は素直に甘いだの美味しいだのと言っているが、亜久津ならあからさまに美味しそうには食べないだろう。 生地は微妙だの桃にしては甘すぎるだのと言葉少なに言うのだろうか。ああ、もしかすれば指先に付いたソースを舐めとりながら。 女性が多い店の中で、少し顔をしかめながら。そう、それでいてまずいだなんて事は一言も言わずに。 つまり、もうその時には頭の中では向かい側に座っているのは彼女じゃなかった。 「…………あのさ、俺もう君のこと好きじゃないみたいなんだよね」 そんな風にごめんねと謝って、殴られて、時には殴り返して、罵られながら終わりを迎える。 女の子との関係は、我ながら悪化の一途を辿っていると思った。 それでも結局その後すぐに亜久津の家に行った。 亜久津の家についたのはもう夕食時も過ぎた頃だった。 もちろん突然な訪問に亜久津はひどく面食らっていたし、優紀ちゃんだってそうだった。それでも有無を言わさず優紀ちゃんは招き入れてくれたし、食事は済ませたのかなんて事まで気にかけてくれた。 さすがにそんなに気にかけられると俺も悪い気がしたけれど、甘えるだけ甘える事にした。けれどそうして甘える反面、損得勘定は癖というには体に染み付きすぎているように思った。止める事もできないが、それだけは気がつき始めていた。 親に外泊すると連絡するとすぐに、亜久津の部屋に行った。 優紀ちゃんに差し出されたお菓子を持って、部屋に入ると、亜久津はいつものようにベッドに寝転んでいた。 「入るよー」 第一声は当然のごとく無視。 小さく肩を竦めながら、後ろ手に扉を閉めた。 「今夜泊まるね」 「!」 泊まると言った瞬間、微かに震えた肩を見逃せるわけもなかった。 けれど俺はそれを目の端に捉えながらも部屋の隅に追いやられたガラステーブルをゆっくり部屋の中央まで引き寄せた。いつもならそれを笑うけれど、そんな気は起きなかった。 机の食べたほうが礼儀的にも、後始末を考えるにしても良いだろうと思った。亜久津は案外綺麗好きだ。少なくとも部屋に埃が積もっていた覚えはない。 「ごめんね。でー、これは今晩のおやつだって。相変わらず美味しそうなおやつ食ってんのな、お前」 -- 何かに感化されて書いた、みたいな感じがする。 なんに感化されたか覚えてないけど。
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