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ざぁざぁと降る雨の音が聞こえないようにと亜久津の耳を塞ぎ、千石は目を強く閉じると彼の首元に顔を埋めた。 しばらくして声を出そうとした亜久津に、千石は小さく「黙って」と耳元で囁いた。 「すきだよ」 耳元で、唇が触れるぐらい近くで。 指の隙間から聞こえるようにそう囁いて、千石は亜久津の頬にくちづけをした。 亜久津は何も言わず、なにもしない。ただ千石に押し倒され、されるがままにしている。 「俺はこんなにお前が好きなのに、お前は俺を好きになってすらくれないんだね」 亜久津の穏やかな心音が、雨の音にまざって聞こえた。 亜久津は、何も言わない。返事もしない。 ただ目を閉じて、息をしている。呼吸して、横たわっている。 何もかも受け入れるようで、亜久津は何もかも拒絶する。 「……ねぇ、お前が愛してくれたら、俺はお前を愛さないから、だから、俺を愛してよ、亜久津。」 千石にだって、そんな事を言うのはわがままだとはわかっていた。 「……傷つけたりしないから、俺は……お前を愛さないから、だから、亜久津」 けれども、もう、今は全部壊れてしまったから。 けれども千石には傷を癒したりはできないから。 「俺はお前に愛されても、お前の前からいなくなったりしないから」 だからせめて、彼が安心して愛せる人間を、もう一度作ってやろうと思った。 嘘をつくから。 嘘とつくとしてもかまわないから。 せめて。 亜久津には誰かを愛する事を覚えていて欲しいと思った。 -- わけわかんない…。
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