「亜久津、帰ろっか」 すっかり聞き慣れてしまった声に、内心溜め息をつきながら亜久津は振り返る。特徴的なオレンジ色の頭をした声の主は、へらへらとした笑顔を浮かべていた。 ……千石。 彼は亜久津にとって、どうにも苦手、というよりもペースをくずされてしまうやりづらい相手であり、自分から関わりたいとは思えなかった。しかしことあるごとに千石と顔をあわせる事が多く、必然的に関わってしまう事は多かった。 「……うぜェ」 「そんな事言わないでって。帰るのなら、一緒に帰りましょー?」 そう笑顔で言う千石の問いかけは、問いかけと言うよりも、むしろ念を押すような意味合いをもっている。特に亜久津に対して。 「……勝手にしろ」 亜久津はいつも溜め息をついて、千石の問いかけにイエスと答なければならなくなるのだ。 「えっへへー?俺もう部活ないし、今日から毎日帰れんねー」 これで亜久津が帰りがけに喧嘩する事も減るかなぁ、と呟きながら、千石は亜久津の隣へと駆け寄った。 「は、うぜぇし。…毎日なんか帰らねぇよ」 「えーなんで?どうせ暇でしょ?一緒に帰る相手もいないし?」 「誰も頼んでねぇ」 「一人で帰るのなんかつまんないよー」 「お前がいるよりマシだ」 亜久津がそう言うと、千石はオーバーリアクションをとる。 「ひっど!キヨたん泣いちゃう!」 「ひどくねぇよ。つかキモい」 ちらりと亜久津は呆れた視線を送ったが、千石は思い出したように少し先にある本屋を指差した。 「あ、そうだ亜久津、本屋寄ってくんない?」 「人の話聞けコラ!」 本屋で千石が何やら雑誌を買っている間、亜久津は暇を持て余して適当に雑誌の頁を捲る。それにも飽き始めた頃、千石が買い物を終えてやってきた。 「何みてんの?」 「わかんねぇ」 「なにそれ、帰ろ」 「ん」 正直、亜久津は繁華街を千石と歩くのは好きでは無い。 喧嘩を売られる事は少なくなるが、如何せん千石に振り回されて色々な店を散々回り、帰宅時間が大幅に遅れる。いや、本当は帰宅時間は遅くなろうが構わないのだが、千石と連れ立って歩くととにかく目立つ。自分一人でも目立つというのはわかっているが、隣にオレンジ頭の千石がいればさらに目立つ。極め付けに千石はとにかくうるさい。 「お好み焼き食べに行こう。」 「一人で行け」 道ばたで、突然思いついたように提案する千石に、亜久津は即答で同行を拒否する。途端に酷く残念そうな顔をして、千石はだだをこねはじめた。 「えー!一人じゃつまんないよ!一緒に行こーって!」 「嫌だ」 しかし亜久津はそのまま千石を置いて駅へと向かおうとしたので、千石も慌てて後を追った。 「ついて来んじゃねぇよ」 「えー!お好み焼き食べに行かないなら亜久津の家行く!」 その言葉に思わず亜久津が足を止めて振り返る。千石は半ばジャンプするように亜久津に追い付く。 「は?!ついてくんなバカ!てか離せ!」 「イ・ヤ・で・すーっだ」 千石はぎゅ、と亜久津の左腕に自分の右腕を絡め、無理矢理腕を組んだ。その力は見かけによらず強く、離れようと必至で亜久津は千石のオレンジ頭をぐいぐいと押して遠ざけようとするが、腕の力は一向に緩まる気配を見せない。 千石は千石で必至で亜久津の腕を離すまいとしながらも、引きずるように亜久津を引っ張って駅へと足を進める。 「……千石……もうわかったから離せ…」 「逃げない?」 「……逃げても追っかけてくんだろーが」 「うん、まぁそうなんだけどね」 はぁ、と亜久津が溜め息をつくと、千石は腕の力を緩め、へらっ、と笑った。 「俺、亜久津の事が好きだからどこまでもついてくよ?」 何度目か知れぬ千石のその言葉を聞き、亜久津は溜め息をついた。 「……ばからしい」 -- 没原稿。 気に入らない部分は全て没にしようと思ったら全部没になって、私の数日は一体…!と思い、微妙な部分だけのせてみた。 やばいな……うんざりしてきたよ…どうすんだよ自分……(笑)
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