久しぶりに部活に亜久津が出ていた日曜日。 彼の異質な雰囲気に、部員達はナイショバナシのようにこそこそと隠れて何事かを囁き、早めに部活を切り上げていった。部長の南までが、千石に鍵を押し付けて帰ってしまった。 日はまだ高いというのいん、コートには、亜久津と千石しかいなくなった。 一足先に部室に入って行った亜久津を、木陰でその姿を見ていた千石は追った。 「おっつーあっくんv……さてところで問題です。俺に足りないものってなーんだ?」 「…………てめぇに足りねぇのは常識だろ」 亜久津は嫌そうに顔を顰め、扉を閉めかけたが、千石の腕力がそれを阻止した。 「えー!!…ていうか閉めないでよドア、俺も着替えんだからさー」 「…じゃあ外で着替えろ」 「やだやだやーだー!視姦されちゃうよ!」 「されねぇよ!」 「なんでよーこの清純君はこれでも人気なのよー?生写真一枚500円なんだよ?」 やっぱ俺ってかっこいーからさーvと、首をかしげるついでに、組んだ両手を頬にあてるようにして笑う千石に、亜久津は冷たい視線を送った。そしてすぐに、鉄製のドアを閉めた。連続動作で鍵も閉めた。 「は、馬鹿らしい」 「あッ!閉めないでってば!ちょ!開けてよ!何鍵なんてしめてんの?!」 「うるせぇよ、少しは黙れ」 「むー……あ、で、さっきの続きなんだけどー…ヒントはねー……俺が、愛の狩人って事かな?どうよ?わかった?」 「知らん、ていうかお前煩すぎ」 「えーえーえーかまってよー寂しいよーあっくーーん!!」 「あっくん言うな!」 「じゃあ仁君」 「却下」 制服を着込み、溜め息混じりに亜久津が扉をあけると、鈍い音と共に千石の悲鳴が聴こえた。 「ッ痛!」 外で、痛そうに額を手のひらで覆い、頭を抱えるようにしゃがみ込んだ千石の頭を、亜久津は軽く蹴る。 「ばぁか」 「〜〜っあっくんのばかー!」 「てめぇよりは馬鹿じゃねぇ」 つきあってられない、と言いたげな視線を千石に向け、歩き出そうとしたが、すぐにズボンの袖を捕まれてしかたなしに亜久津は立ち止まった。 「あッまってよー一緒に帰ろうよーー!」 「………一分以内なら待ってやる」 「わかった!ほんとにまっててよ?!」 千石はそう言うと慌てて部室に走り込んだ。部室に、派手な音が響いたりしはじめたのを聞いて、亜久津は顳かみを抑え、コート脇のベンチに座った。 「………あと十秒……」 首をコキリと鳴らして、半ば呟くようにそう言った途端、勢い良く部室の扉が開き、千石が学ランを着込みながら走ってきた。 「わーまってまってまってーー!」 「チッ……間に合ったか」 「なーにそれ、嫌みたいじゃん」 「嫌だからな」 「あっくんのう・そ・つ・きー」 「はぁ?」 「嫌だったら待たないでしょ、フツーは。 はい、行こっか」 「つくづくマイペースだなテメェは」 「そうでもないよ、あ!」 「何だ」 「……答えわかった?さっきの。」 「……知らねぇよ」 「………ほんとに?」 「ほんとに」 「……じゃあ教えてあげる」 「教えてくれなくて結構だ」 千石はクスリと笑い、呆れ顔の亜久津の首にしがみついた。 「……真面目に聞いてよ?」 「別に言わなくて良いっつってんだよ」 「…………あのね、」 そして千石は亜久津の耳に、触れるぐらい唇を寄せて、ゆっくりと、感情込めて囁いた。 ――俺には君が、足りないんです。 暫く、亜久津の表情が固まり、動作も止まった。 徐々に赤くなり、表情を動かし始めた亜久津を見て、千石はクスクスと笑う。 「アイジョウ、も、もっと欲しいけどね」 「……………ッ!知らん!」 亜久津は忌々しげな表情で、離れろ、と千石に尻餅をつかせて歩き出したが、すぐに千石に呼び止められた。 千石はニヤリと笑みを浮かべ、煙草とライターを握った右手をひらひらとふった。 「忘れ物!……この煙草とライター、亜久津のでしょ?」 「……いつの間に……ったく手癖の悪い……」 仕方なく戻ってくる亜久津に、千石は左手を差し出し、起こせと要求した。 「まぁ、愛故になせる技ってやつヨ?」 「馬鹿ばっか言ってんな、さっさと返せ」 「はは、一緒に電車に乗ったら返してあげるよ」 そして亜久津によってぐいと引っ張られた手を、握り返す。 ――俺にとって欠けているのは、空の色でなく、君である。 -- はい。続き書き終ったのはうっかり23:30です。ヒィ! 君が足りない、ってのを書きたかっただけ…… もー何がなんやら……。
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