母のタイムスリップ日記
DiaryINDEXpastwill


2004年05月25日(火) 何を言いたいの?


 施設に着くと母は居室で泣いていた。
顔を合わせても「おかちゃん」と泣いている。
誰に言うともなく…(といっても居室には私しかいないが、私にと言う訳でもなくて)「おかちゃんがいなくなった」「おかちゃん 何処に行ったの?」と繰り返すだけだ。
外の景色を眺めて 車や人を見つけては 届く筈もない声で「ここにいて」「ここにいて」と声をかけていた。

洗面台に 洗いかけと思われる入れ歯が置いてあった。
きっと職員が歯磨きを見守っていたのだろうけれど、他に用が出来て別の場所に移動したのだろう。
母だけを見ている訳でないから しかたないのだろうな。
母に歯ブラシを渡し磨いてもらい 入れ歯を磨いた。

肩をそっと抱くと鼻水をたらして「あ〜ん」と泣きだす。
ティッシュを手渡して鼻をかんでもらい 外出の支度をして外に出た。
外に出たら だんだん静かになって行った。

家で昼食を摂る。いつも通りの食欲である。
食後 今日も摘便した。その後入浴。
今日は ひんやりとしているので「お湯が熱い」と騒ぐ事を見越して 先に服を着たまま洗髪した。その後ズボン、パンツを脱いでもらって 下半身浴
それから上着を脱いで全身を湯に浸かって貰った。
一度「熱い」と感じてしまうと 不穏に成りそうだったので面倒を避けたかったのだ。
結果は 大成功。
入浴時、母の話が理解できなかった。
湯船に浸かっている時の事だ。
腕を擦りながら「この 柔らかな かみ の中にもうひとつの柔らかな かみ…」と言ったのだ。
何の事かさっぱり判らないので かみ が何なのかを探った。
お湯を掬い上げて「かみ?」と聞くと「うん かみ」と言う。
判ったような判らないような気分だったので「これは お湯」と言ってみた。それでも「かみ」と言う。
同じ事を繰り返していると「これは お湯」に変わった。
そして「立ちたい」と言った。
幾度も「上がる?」と聞いたが首を横に振るばかりだったのに…。
「上がる=立つ」だろうなと思い 介助して浴槽から上がってもらった。
身体を拭こうとしたら また「かみぃ〜」と言い出した。
「おしっこ?」と聞くと「鼻が…」と言う。
ようやく謎が解けた。
身体が温まって 鼻水が出てきたのだろう。だから 鼻をかみたかったのだろう…。以前なら「鼻が出てきた…」と言っただろうに…。
急ぎ鼻をかんでもらい 解決した。

母の不安気な表情は 時間の経過と共に消え 冗談を交えるほどとなった。
おやつを食べてもらいながら「私 ○○ちゃんと○○○さんの娘だよね」と話しかけた。「エッ」と言う表情をしたので「折角 産んで育てたのに忘れてしまったら損するょ。他にも息子が2人いるよねぇ〜」と言うとコクリと頷き暫くじーっと考え込んでいた。
「どうしたの?」と聞くと「嬉しい」と言った。

朝の不安気な様子は 「一人きり」という寂しさからだったのだろうか?
母の記憶は 以前にもまして細切れ状態となり 思い出そうとしても何も浮かんで来ない。結婚した記憶も子供を産み育てた記憶も…。
おそらく母親と二人きりの事しか浮かばないのだろう。
「娘よ」と言う言葉に瞬間 かすかな記憶が戻って安心したのだろう。

記憶は 加速するように消えていっている…。


はな |MAILHomePage

My追加