すこしずつ、わすれられなくなる
夏は、
上から押さえつけるような熱気とぎらぎらした陽射し、 世界が終ってしまうのを惜しむような蝉の声 後頭部から首筋にかけての部分が汗に濡れて気持ち悪い、 そう思いながら濃い色の緑の中を歩く、 歩く、 あるく、
やがて世界は終わるのだ
夏の印象は末法思想に似ている、
ちっともエコじゃない、と思いながらもキンと冷えた部屋の中へ入る一瞬の心地よさだとか 陽射しの下で顔も上げられない眩しさだとか 夕立の叩きつける中に駆け出したいような 灯りを消した部屋の中から稲妻が走るのを眺めていたいような
交錯するそれぞれの思惑とお互いの執着が違う方向で絡み合うことだとか
ひとを見る自分の視線がどうしようもなく発情していることだとか
冷房にふやけた躯に染み入る空の青と 椅子に縫いとめられた責任、のようなもの 自由な日が明日だとすれば明日は晴れるだろうか ?
?
時々不意に もう戻らない夏の断片を白昼夢に見る、 たぶん 間違っていないのは 恐らくそれを忘れられずにいる人がもうひとり いるということ そして生じる罪悪感 もしかしたら なんて 違う形の現在を思い描くことはできない
思えばあの夏に僕は少しずつ変容してしまって
戻らない熱があることを知り
消えない嵐があることを知った
季節は移り年を重ね
僕は今なお嵐の中にいる
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