あきれるほど遠くに
心なんか言葉にならなくていい。

2008年05月29日(木) 沈んでいくひと






そういえばあのひとが死んだのは5月だったのだ、と

数秒の空白の後に僕は気付く


あれは昂揚した日曜の夜
一本の電話で微塵に砕かれる夜

水曜だった、と聞いた そういえば

今から何度も何度も忘れるだろうその日のこと。
思い返すたびに軋むように痛むだろうその日のこと。



まだ語らない
よく眠って、忘れてしまえ、と思った夜の暗さ碧さを憶えている。
あのひとは光で、熱で、砂嵐のように茫漠としたこの世界の中にごく稀少な僕のいのちで







ここに井戸を抱えている
底も見えない深い井戸だ。
時折その井戸の中に僕は沈む。
とぷりと、息をひそめて見上げる水面はみどりいろに円い。

この井戸のどこかにあのひとの熱がある

その記憶は僕に秘かに甘い。
ここに井戸を抱えている。

底は見えない。
もう沈んでいくひとの姿は見えない








↑風もなく、水面がわずかに揺らぐ

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周防 真 [MAIL] [HOMEPAGE]

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