こころの大地に種をまこう 春名尚子の言霊日記

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2000年12月03日(日) 私、いま幸せ。そうかー幸せってこういうことだったんだ!



 いやはや、まいった。

 なにが参ったかというと、ついでにいえばタイトルの幸せがなにかというと、とてつもない本に出会ってしまったんです。


 金曜日に大きな本屋にいった。ふっと目に付いたその表紙を見たとたん「あ、これ私が探してる本だ」という気がして、手に取ってタイトルを見た。

  衝撃が身体中を走った。

 私がずっと読みたくて読みたくて、探していた<それ>だった。

 790ページもあって3000円もする。めちゃくちゃ分厚い重い本、しかも上下巻。


  スティーブン・キング ザ・スタンド
 舞台はアメリカ、致死率99%という超悪性のインフルエンザ、スーパーフルーの大流行によって、世界は突然終末の時を迎えた。ごほんという咳と鼻をすする音。普通の風邪と変わらない症状だが、そのウイルスは確実に身体を蝕み、あっという間に死にいたらしめる。米軍がつくりだした最強の細菌兵器によって、ほんの少し前まで地球を蝕んでいた物質文明は、その担い手を失って滅びようとしていた。
  しかし、なかにはウイルスに犯されることなく、生き残ったものもいた。生者を求めて旅をつづける人々は、ふたつの不思議な夢を見た。それはネブラスカのトウモロコシ畑でギターを引く黒人の老女の夢と、邪悪な黒い顔のない闇の男の夢だった。夢の不思議な力に導かれ、人々は光に導かれるようにして老女のもとをめざし歩き続けた。世界征服を狙う闇の男のもとへも、生き残った人々が続々と集まりつつあった。
  「光」と「闇」、「善」と「悪」の戦いの行方は……?


 何年か前、偶然に見た「スティーブンキングのスタンド」海外の連続ドラマ(全4回)に強烈にひきつけられて、二回目から最後まで毎日見た。
 あらすじは上の通りだが、さすがキングという描写で、滅びゆく人類と善と悪の攻防とアメリカの大自然の美しさの対比がすばらしくて、何年たっても忘れられない。

 それから本屋に行く度に、探し続けていたけれどなぜか原作に出会うことができなかった。

 欲しい本はネットでのブックサービスを利用して購入しているので、本気で探せば、すぐに見つけることはできたんだろうけれど、きっとこの瞬間を私は待っていたんだろう。

 今回出版されたのは、1990年に発表されたザ・スタンド完全版の邦訳だ。1978年にアメリカで発表した際、15万字!削らされたものを復刻したものだという。

 当然今まで日本で出版されていたのも、その初期版の邦訳ものだったわけだ。探し続けているにも関わらず、ずーーっと出会えなかったからこそ、今回完全版と初対面できたわけである。

 欲しくて欲しくて、でも今読めないのはわかってるのに、絶対に今必要な気がして、悩んだ上に買ってしまった。


 米軍が創り出した新型ウイルスで世界中が死に絶えたあと、生き残った人々がどうしていくのかというストーリー。フィクションだということがわかっていながら、現実世界と交差して読んでしまう。


 実際に存在するエボラウイルスやマールブルクのことが、発覚する前の作品なのに、まるで世界がエボラウイルスに犯されたような描写である。

<エボラ = 致死率が50〜90パーセント、予防ワクチンや有効な抗ウイルス剤のないことからバイオセイフテイレベル4に分類されている、つまり治療法がないフィロウイルス。自然界での歴史や宿主が不明で発病の機構も良く分かっていない、もっとも不可解なウイルスである。>



 第二の天使が鉢を海の上に傾けると、海は死者の血のようになった

 エボラウイルスとマールブルグについてのノンフィクションを描いたホット・ゾーンの冒頭で、作者リチャード・プレストンは黙示録を引用している

 が、スタンドのウイルスもエボラも、まさに聖書で預言された終末の世界だ。

 私は、エイズもエボラもどこかの研究室でつくられた病気だと思っているので、スタンドのなかのウイルスも、人事ではなく感じてしまう。


 ほんとうに恐ろしいのは、ウイルスよりも人の狂気だ。

 99年キングは交通事故にあい、右足の骨および股関節に複雑骨折を負い、右肺が潰れ、頭皮も切れるという 重傷を負った。

 ミザリーを地でいってる?、権力によって消されるのか?と話題になった。ちなみにキングに車をぶつけた人物は、謎の死を遂げている。

 彼の作品が核心を尽きすぎているから、誰かからすると邪魔なんじゃないかって。

 そんな事件もあって、今この作品が世に出されることの意味深さを感じる。


 しかしやっと出会うことのできたこの本のおかげで、家に持ちかえっていた仕事も、週末に更新しようとしていたこのサイトも放り投げて、ひたすら文字の世界に没頭させられてしまった。


 ちなみに下巻の発売は12月14日だというのに、5日の時点で上巻を読み終えてしまった。そろそろ禁断症状が出てくるだろう。あと10日も持ちこたえられるのか、キングによって創り出されたスタンドというウイルスに犯された、私の精神は・・・。


 で、全然関係ないけれど、スタンドの中の出演者のセリフが、妙に突き刺さってしまったので、ここに書いておく。


    心の痛みは、ひとが生まれ変わるための理由にはなる。

    しかし、世界中の痛みを全部合わせても、事実はかえられないんだ。


                      キング ザ・スタンド P148


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