ゆれるゆれる
てんのー



 殺してはじめて、殺すなということがわかる

午前中、山の向こうのV町にある園地HでEM散布。
振り向いたとたんに、全身にEMシャワーを浴びてしまう。

お昼に、速達を出そうと郵便局へ行ったら、その日の便は20分前に出たばかりだった。
小雨だと思って傘を差さずに自転車をこいでいったら、けっこう濡れてしまった。

今ひとつぱっとしない日のようだった。

昼から地元の中学生が8人、銀輪部隊で襲撃して来た。
大学生みたいな担任の先生もついている。

「こんど、地域でお仕事をされている方々にお世話になって、貴重な職業体験をさせてもらうことにしました」

中学生Aが露骨なNHK番組的棒読みで趣旨を説明する。

「みなさんには、摘果という作業をやってもらいます」
おっさんは説明を終えると、作業時間とか持ってくるものとかについて、中学生の意向を聞きながらまとめていった。
こういうときオトナというのはすぐに担任に話を振りたがるものだけれど、おっさんはあくまで中学生たち自身の決定にまかせていたのでちょっと嬉しかった。

ま、担任のセンセ少し頼りなさそうだったんだけど。

実際に家の近くの園地でちょっと作業をやって見せ、
「こんなふうにカミキリムシというのがいます。これはみかんの木の根元に卵を産みつけ、かえった幼虫は木を食い破って外に出てきます。この大きな穴がそうですけど、これがなんヶ所にもなると、木が全部枯れてしまうんです。だからこの虫を見つけたら、こうやって」

おっさんは虫の首と胴体をねじってちょん切り、
「殺してください。かわいそうですけど、かわいそうかわいそうでは農家は生きて行けません」

中学生はいかにも中学生らしく「おおー」「すっげー」と騒いでいた。



晩酌。「二階堂」に、家の前で摘んできたレモンを絞って飲んでいるとき、おっさんが言うには、今の子供はああやって虫を殺すとかいうことに慣れてない。ああやって命を扱っていくうちに、殺すとはどういうことかというのを体で覚えるもんだ。子供は残酷なもので、わしもカエルに息を吹き込んでパンパンにして破裂させたり、ヘビみつけたら必ず石をぶつけて殺したりしとった。そのうちに、だんだんそういうことをせんようになる、やっちゃいかんことやなぁいうのが、たぶんなんとなく分かってくるんよね、と。

世界は意外に単純なもので、カエルの代わりに同級生が首ちょん切られたり幼稚園児が放り投げられたりしているだけなのかもしれない。

俺がガキの頃はシマヘビを捕まえて縄跳びをしたり、コオロギやらバッタを集めて触覚を全部むしってみたり、防空壕でゲジゲジを火あぶりにしたりしたが、今では人間どころかゴキブリ一匹殺すのがやっとである。

やっちゃいけんというより、命は怖い、と思うようになったんだと思う。
両親が医療関係の仕事だったから、よけいにそう思ったのかもしれない。
だから俺は「医療関係の仕事だけはいやだ」と主張し、看護師の母親はとてもかなしそうな顔をした。

2004年06月24日(木)
初日 最新 目次 MAIL HOME


My追加