ジョージ北峰の日記
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2010年04月26日(月) オーロラの伝説ー人類滅亡のレクイエム


  私がふと目を覚ましますと、私はベッドで横になっていました。そして傍にパトラが座っているのでした。「此処は何処ですか?皆はどうしたのですか?」と私が寝ぼけ眼で起き上がりますと、すでに身支度を済ませていたパトラは、それには答えず「目が覚めましたか?」とそして「窓の外を見てください」と言うのです。
  眠い目をこすりながら窓の外を見て驚きました。其処には珊瑚礁はなく、真暗闇に果てしなく続く星空が広がっていたのです。そして、雲の切れ間から宝石の様に輝く懐かしい地球の街灯りが見え始めたのです。
  さらに、驚いたことがありました。パトラが指を差す方向を見ますと、なんと戦闘機らしい影が追尾しているのです。「あれは?」私が叫びますと、パトラは「恐らく何処かの国から発進した戦闘機が我々のUFOを調査しているのでしょう」 
  「相手は攻撃しないのですか?」と尋ねますと「大丈夫です、相手はこちらに気付いてはいるようですが、見えてないと思います。センサーで我々の機体を捕らえている可能性はありますが---」
  私はとんでもない状況下に目覚めたようでした。しかし2機の戦闘機は、猛烈なスピードでこちらへ接近して来ましたが、此方の方向を振り向きもしないまま眼前を通り過ぎて行きました。私は一瞬冷汗をかきました。
しかしパトラが言う通り、彼等は私達の存在に気付いていないようでした。すれ違う瞬間、チラッと見えたパイロットの横顔はとても緊張していました。

 パトラは「私達は異次元に存在しているので、彼等は気付かないのです。」
「分かりやすく、説明してくれませんか?」尋ねますと、「現在、彼等と私達との間には異次元の膜があるのです」とパトラ。
「膜は見えないのですか?」さらに尋ねますと
「あなた方は時間軸を認識することが出来ても見ることが出来ないのと同様、彼等にはエネルギー軸は見えないのです」
  私がパトラとオメガ国の女王との対決時に不思議な星空の動きを見ましたが---と言いますと、パトラは「そんな経験があったのですね」続けて「あなたも見た通りラムダ国もオメガ国もエネルギー軸に囲まれた5次元の世界に存在しているので、普通の人には見えないのです。しかしあの日あなたが見たのは5次元の膜だったのでしょう」と、「それはあなたがラムダ国に住むことが出来る能力を獲得した証明でもあるのです」と言うのでした。
 私はなお寝ぼけていましたが、パトラの話を聞いているうちに、全身にエネルギーが回復してくる兆しを感じるのでした。
しかし、「ところで私は今一体何処に居るのですか?女王室ではないのですか?いつの間に宇宙に飛び出したのです?」と、何気ない風を装いながらパトラの手を握り締めますと、私の気持ち(下心)が伝わったのか、パトラは笑いながら「あなたが就寝前に訪ねてきた部屋は、このUFOの一部だったのです。あなたが寝ている間に飛び立っただけなのです」と、答えるのでした。 私が呆気にとられた顔でもしたのでしょうか?それとも寝ぼけ眼(まなこ)が、よほど可笑しかったのでしょうか、パトラは声をたてて笑い「コーヒーを飲みますか」と召使に朝食の準備を命令するのでした。
それで---私のめらめら燃える欲望の炎がそがれてしまいました。
私が急いで身繕いを済ましますと、パトラは別室へ案内してくれたのです。
そこは広い窓が広がるダイニング・ルームで軽食が準備されていました。何時の間にか、窓は地上の緑と海の青がとても美しい昼間の景色に変わっていました。時間がとても早く経過していくのです。そして! 先程、目前を通り過ぎていった戦闘機がダイブしながら地上攻撃を開始するのが見えました!
  地上で突然花火の様な閃光があがりました。一瞬美しく見えましたが「あれ!戦争?」、私が呟きますと、パトラは頷きながら「今、戦争が頻発しているようです。地球では、今、何が善で、何が悪か分からなくなっているようですね。その上、此処から見ても分かる通り都会は、文明国に著しく偏って見られるでしょう」
 「便利だからでしょう?それが問題ですか?」
私がコーヒーを飲みながら尋ねますと、パトラは「それが大いに問題なのです」と、確信的な口調で答えるのでした。
 「人でも動物でも、地域に片寄りなく分布している間は、コミュニティーは安定なのです。富も権力も同じことですが、それが一極に集中しすぎると、エネルギー分布が不均等になり、コミュニティーは破綻しやすくなるのです。権力も同じ原理で民主主義は、政治権力を分散化する為に考え出された原理でしょう?
  人口の集中も同じことで、狭い空間に熱した分子を閉じ込めるのと同じことなのです」パトラが地球のあり方についてこれ程考えていたとは、夢にも思いませんでした---。
  しかし彼女の何気ない会話の中に納得出来る部分が多々ありました。
 丁度私がラムダ国に来る前、地球が混沌していて、私自身「何故だろう?」と随分考えてはいたのです。
その悩みに対する答えを!パトラが今話したのです。
  際限もなく続く地球破壊と混沌とした世界情勢、その原因は外でもない、片寄った人口と権力の一極集中化にあるのだと!
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   私達がUFOから降り立った地点は四方八方見渡す限り延々と続く雪原で、風が強く吹き上げる度に粉雪が荒々しく舞い上がっていました。
幾重にも高低差のある大波が荒れ狂う白い大海原のようでした。5次元から3次元の世界へ復帰した瞬間から厳しい寒気に見舞われることになったのです。無論寒さ対策は十分してきたのですが、それでもその凍えつくような寒さは、初体験の私には堪(こた)えました。
  女王パトラは、随分手馴れた様子でUFOの乗務員と一緒になって簡易建築物を設営したのです。
設営が終わるとUFOと乗務員は私達を残して忽然と消えて行きました。
パトラに促されて、小屋に入りました。外は吹き荒(すさ)ぶ雪原、しかし内部は暖かく、広い間取りの一室で、テーブルやベッド、ソファーなどの調度品が調和よく揃えてあり高級ホテルの一室のように見えるのでした。  
「あなたは一度オーロラを見たいと言っていましたね」と、緊張が緩んだのか、パトラは防寒服を脱ぎながら笑顔を見せるのでした。 私も少し緊張の糸がほぐれて「確かに---しかし随分昔の事だったように思えます。あれから今迄、本当に私には想像もつかない体験の連続でしたから---すっかり忘れかけていました」と答えますと---パトラは「お酒かコーヒーでも入れましょうか?」優しい声で囁きました。
  私はこれまでアルコールを飲む度に意識が朦朧としたことに懲りていましたから「熱いコーヒーが良いと思う」と苦笑しますと、パトラは私の言う意味が理解できたのか「そうね、あなたが目を覚ます度に、驚かせてきましたから---。でも、これから私もあなたと一緒に暮らすのですから---」と言いかけましたが
「いや、パトラは私にとっては憧れの女王のままで---」と話しますと、彼女は片方の手で私の唇を押さえ「いいえ、もうラムダ国のことは忘れましょう。地球人にラムダ国のことが知れたら、私達の関係は、その瞬間から消滅しますから」コーヒーカップを渡しながら真剣な顔になって囁くのでした。「そうだった」私は地球に戻る時、パトラの父が語った言葉を思い出しました。
  私は気持ちを切り替える必要があったのです。
私はコーヒーを飲みながら、ソファーに深く腰をおろしますと、彼女も私の傍に座り、悪戯っぽい表情で私の顔を覗きこみながら「あなたは、私のことをどう思っているのです?好きですか?--あなたの本当の気持ちをこれまで聞く暇がなかったから---今教えてください!」と、少し詰問的な口調で言うのです。
  これまで女王パトラが見せたことがない女らしい一面を感じさせたのでした。そう言えば彼女は、ほんのここ2、3日の間に、ふくよかな女性の肉感が漂い始めていました。
  頬から顎の滑らかな輪郭、ストレートな緑の髪、長い睫、美しい口元、均整のとれた肢体、見れば見るほど、彼女はクレオパトラにそっくりになってきたのです。
「私が女王を愛していることは分かりきったことでしょう?---初めて会った時から、片時としてあなたのことを忘れたことはありません。言葉では言い尽くせないほど愛しています」続けて、「しかし私は、あなたに何一つ役立つことが出来なかった。だから少し引け目さえ感じていたのです」と言いました。
自分の本当の気持ちを言葉で表現することがとても困難でした。
 私は無意識に彼女の髪をなでていました。
不意をつかれて少し驚いた風でしたが、気持ちが通じたのか彼女は優しい表情を浮かべ目を閉じたのです。私は、一瞬迷いましたが--- 恐る恐る唇を重ねますと、彼女は舌を絡ませてきたのです。ふっくら厚い、暖かく軟らかい感触でした。彼女の鼓動が胸に感じられ全身が熱くなるのでした。
  「私は死ぬまで、パトラが平和で静かな暮らしができるように努力するつもりだよ」と話しますと、パトラの目が少し潤んだように思えるのでした。  
「私からもプレゼントがあります、防寒服を着て外に出ましょうか?」少し意味ありげな表情で、パトラはコートを羽織ると私を外へ誘いました。
外へ出た瞬間「あっ!」私は絶句しました。
なんと、暗黒の夜空一杯に、赤、白、緑、紫の幕が織り成す大自然のショウが始まっていたのです。
少年時代から恋焦がれてきたあのオーロラ!
荒れ狂う雪原とは対照的に暗黒の空に舞う光の競演は神様からの贈り物のように見えたのです。
  私は夜空の壮大なショウに釘付けにされたまま「パトラ、また負けたよ。本当に有難う」私は思わずパトラを抱き寄せていました。

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ところで、何故この国へ私が来たのか?
 それは、私が病理学者だったことにも関係があるのです。
  私の仕事は、遺伝子組み換え実験の際に動物に起こる様々な形態学的変化について病理学的に研究することでした。実験の過程で動物に色々な奇形が発生することは、すでに経験していました。
  この種の実験、何が原因で、どんな奇形が動物にどのくらいの頻度で起こるのか?という研究は実験病理学者がよくやる研究なのです。
  人類の為に、動物実験することは研究者として至極当たり前のことで後ろ指を指されることはありませんでした。私が分離した遺伝子が動物実験で巨大マウスを発生させた実験は、世界に驚きをもって迎えられましたが、これもある意味で奇形(病気)を誘発する実験だったとも言えるでしょう。
  しかし人間を実験対象にするとなれば、話は別でした。
  ラムダ国では、すでに人工胎盤を使った人間の発生に成功していました。
体外発生が可能になりますと、恐ろしいことに人間を実験対象にしているという意識が薄れ、罪悪感がなくなるのです。ラムダ国で、私は病理学者としてこの実験に携わっていました。実験で発生してくる形態異常の種類、それに関わる染色体・遺伝子異常の分析など、失敗した実験の問題点を探るのです。
  このような実験は巨大ネズミを発生させる際に、私もやっていたことなのです。動物実験だから、問題はないと私は考えていました。
ただこの国では最終的には理想的な人造人間を創りだそうとしていたのです。当時世界で盛んに研究されていた人造臓器の話とよく似た話かも知れません。私は、元々この手の研究には少し薄気味悪さを感じていました。
  しかも、この国で開発された人工胎盤を使えば、発生の過程を目で追いながら、薬物や化学合成物の添加実験をすることが可能になるのです
  この国では、人間だけを対象にしていたのではなく、実験は動植物の世界にまで及んでいました。 ラムダ国では、いずれ地球に起こるかもしれない気象の劇的な変化に対処するべく、地球上の動植物の遺伝子を保護し、さらに過去消えていった有用な遺伝子をも蘇らせることを目的として実験を進めていたのです。ノアの箱舟計画を遺伝子レベルで実施していたと言えるのでしょうか。 
 
この国の研究で、思わぬ発見をしました。このことは少し話しておきましょう。 ラムダ国人の解剖をした際、彼らの松果体が私達に比較すると、異常に発達していることに気付いたのです。
  松果体は人類の進化の過程で少しずつ退化してきたと考えられています。しかしラムダ国人には、その機能が復活していたのです。  
 私はこの松果体の発達こそが彼らの特殊能力、例えば敏捷な動き、闇夜の透視能力、異次元の認識能力等と密接に関係しているのではないかと思ったのです。
  ある日、老博士にこの事を尋ねてみましたが、彼は少し笑みを浮かべるだけで何も答えてくれませんでした。 
  中米に栄えたアステカ人達も、ラムダ国人と同じように松果体が発達していた可能性が高いと伝えられています。とすれば---彼等の文明の謎は---やはり異次元の人間が創造したと考えれば理解出来るのではないか?そう言えば、アステカの言葉もデジタル言語のようでいまだに解読されていません。そのこともラムダ国人と共通しているように思えるのでした。
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北極に降り立ってから、数日して私達はK国のオーロラ観測隊に合流することになりました。彼等は実はラムダ国から派遣された地球観測隊員でした。ラムダ国から派遣された研究員達が地球上の各所で、既に地球に起こりつつある気象変化について観測していました。特にオーロラの観測は太陽の活動状況を把握する上で、特に重要な現象と考えられ、その規模や発生領域、強度などの観測に力を注いでいたのです。
オーロラの活動が活発化すると、生物界の遺伝子に変異を起こさせる可能性があったからです。
私とパトラは観測隊に合流して、A国に無事に帰ることが出来ました。休暇を取ってから、どれほど時間が経過していたか私には分かりませんでしたが、研究室に戻ってみて驚いたことに、ボスも共同研究者のスタッフも、私の出発前と少しも変わっていませんでした。
自分では数年が経過していたようにさえ思っていたのですが、実際は2週間ほど休暇を取っていただけだったのです。
私がボスに帰国の挨拶に行きますと「オーロラに会えたかね」とにこやかに迎えてくれました。そして研究スタッフが集まって、研究プランを話し合った時も、何事もなく私の帰国の歓迎をしてくれ、 “ほ!”と安堵したのでした。私がパトラと結婚したことを報告しますと、ボスや研究室仲間も、心から祝ってくれました。
それからA国で予定していた研究も終え、私達は日本へ帰国しました。
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私の故郷は離島にありました。海に面した小さな村でしたが、私が研究で成功したことを知って、家族は大変喜んでくれました。ただ、パトラを紹介した時、さすがに驚いた様子でした。
最初のうちは、パトラも言葉が通じず少し戸惑っていましたが、村に慣れようとする姿が人々の好感を呼んだのか、毎日のように人々が訪ねて来るようになりました。
パトラも僅かな期間で流暢な日本語を話すようになり、皆と料理を作ったり、畑に出たり、漁にさえ出たりして村の生活に馴染むようになるのでした。
パトラの明るい性格、物怖じしない堂々とした姿に、人々は何時の間にか「プリンセス」と呼ぶようになっていました。
母は「ほんとに立派な女(ヒト)だね、一体何処で知り合ったのだい?」と尋ねるのでした。
私も本当のことを話したくうずうずしていたのですが、老博士との約束もあり「国際学会で偶然知り合っただけだよ」と答えるしかありませんでした。

日本では、春を迎えようとしていました。異常気候のせいか暖かく、まだ村は冬が覚めやらぬまま、山裾はくすんだ緑色に見えました。しかし樹幹の合間から桜の花が顔を覗かせ、段々畑には菜の花が揺れ始めていました。夜に月が昇る頃には、ふとラムダ国でパトラに助けられた海辺の情景が思い出され懐かしく思うのでした。
帰国してからも、私はラムダ国のことを片時も忘れることは出来ませんでした。特にアレクやベン、パトラの父、老博士がどうしているのかとても気になったのです。
ある日「パトラ、私はもう一度ラムダ国に戻りたい」と話ますと。パトラは落ち着いた様子で、「私もあなたも、本当は今すでにラムダ国に住んでいるのです」
「えっ!」驚きますと、パトラは笑いながら「あなたには、今ラムダ国が見えないのでしょうが、私達はラムダ国に住んでいるのです」
「しかし、今日本の村で働いているでしょう?」私が驚いて聞き返しますと「確かに私達は日本に住んでいます。しかし同時にラムダ国にも済んでいるのです」
「しかし私達はラムダ国を離れたのではなかったのですか?」
パトラは少し考えていましたが---「此処は異次元の世界から見れば、すでに日本から独立した国でもあるのです」パトラは謎のような話をするのでした。
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 これまで、私の奇妙奇天烈な経験を、その時々に浮かんだ感想を加え話してきました。
しかし、今断言できることはラムダ国が地球上の生物界の進化を管理・支配・運営する異次元世界の実験国家だったと言うことです。
昔ノーベル賞学者で分子生物学の権威だったC博士が地球上の生物の遺伝子は宇宙から来たと書いておられたの


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