ジョージ北峰の日記
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2010年04月12日(月) オーロラの伝説ー人類滅亡のレクイエム

 私達は海岸線に漸く辿り着こうとしていました。その間、私が戦闘に直接関わることはありませんでした。やがて安堵の気持ちが広がり始めた時でした。
前方の茂みで3人の敵戦士が一人の見方戦士を攻撃していました。見方の戦士は手負いを受けていました。
状況を見てサスケもコジロウも果敢に三人の兵士に飛び掛っていったのです。
2頭に気付いた敵戦士も直ちに反撃する、2頭はすばやい動きで相手の攻撃をかわしながら、機を見て足首、手首を攻撃する。
サスケもコジロウも動きはまるでパトラの動きに似ているように思えるのでした。
手負いの味方戦士は私達を見ると、気が緩んだのか倒れたのです。
私も直ちに参戦しました。負傷兵が危ないと思ったからです。  
 しかしなかなか手強い相手でした。何度となく倒すチャンスはあるのですが、どうしても止めの一撃が下せませんでした。
恐らく人の命を奪うことが怖かったからに違いありません。急所を無意識に外してしまうのです。一方コジロウは相手の剣を取り上げ、組み伏せていました。続いてサスケのほうも相手を組み伏せたのです。
 コジロウもサスケも私の戦いぶりにジリジリしていたかもしれません。やっとの思いで相手の剣を奪った時、海岸の方から駆けつけて来る味方の戦士に気付きました。彼等はベンと部下の戦士達でした。私に気付くとベンは一目散で駆け寄って来ました。
 私がラムダ国の海岸で初めて敵戦士に襲撃された時、助けてくれたのはベンでした。私が“ほ!”としたことは言うまでもありません。
ベンと彼の部下達は3人の敵戦士を瞬く間に倒しました。ベンは老博士から私が戦場に向かったと聞いて探しにきたらしいのです。
私は全身から力が抜けていくのを感じました。私は戦士としてはやはり失格だったのです。気持ちの上では高揚していたのですが、やはり平和な国からきた人間でした。本当の戦(いくさ)を知らなかったのです。
とその時でした。コジロウが私の方向へ向かって突然ジャンプしたのです。“あ!”何が起ったのか分からず、無意識に身を屈(かがめた)瞬間でした。
“ドサ!”と地響きを立ててコジロウが地上に落ちたのです。
“と!” 何処から飛んできたのか一本の槍が彼の体を貫いていました。
私に危険を感じたコジロウが咄嗟に自分の身を投げ出したのです。
“あ!”---瞬間私は驚き、全身が凍りついていました。それは想像もしなかった光景だったからです。
戦場で知り合い、やっと心が通い、私が全幅の信頼を寄せていたコジロウが倒れていたのです。
私にはどうしても信じられない光景でした。
  何かを訴えたかったのでしょうか?
懸命に立ち上がろうとするコジロウ!
事態が呑み込めた私は「コジロウ!」と、彼のもとへ駆け寄ろうとしました。
が、ベンが私を制止しました。

厳しい戦場と分かっていたはずなのに---私の油断で---又しても仲間のコジロウを失ったのです。
そのことが、悔やんでも悔やみきれない出来事として私の心の奥深くに傷跡として残るのでした。
コジロウのけな気な忠誠心に私は心打たれたのです。
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この国では、どのような傷を負った戦士も、戦士であるかぎり戦う義務がありました。自力で立ち上がれない戦士に手を貸す人はありませんでした。

しばらくして、ベンがパトラの決闘場へ急ぐよう指示しましたが、コジロウが死んだことで私の心は動揺していました。
「もし、パトラが決闘で倒れた場合も、誰も助けないのだろうか?パトラが死ぬようなことがあれば、自分も戦って死ぬほうが、よほど楽---」と思えるのでした。
一方サスケは何事もなかったようにカラスと一緒に前方を淡々と進んで行くのでした。
“これから始まる予断を許さない女王同士の戦いを、単に観客として眺めていることが出来るだろうか?” 私は自問していました。 
女王同士の戦いは、生死を決する決戦、想像以上に厳しい。
ましてパトラが戦おうとしているのです。何もしないで、そんな状況を見続けることが私には耐えられそうにありませんでした。

 決闘場が近づくにつれ私の心臓は早鐘のように打ち始めました。握り締めた手がじっとり汗ばんでくるのです。“やはり、老博士が言っていたように戦場に来るべきではなかったのか?” 後悔の念が大きくなるのでした。
 決闘場は海辺に設けられていました。それは平坦な広場ではありませんでした。大きな岩、周囲には、つる植物が絡む背の高い熱帯特有の木々が聳(そびえ)え、砂浜には波がゆったり打ち寄せていました。
 海側には夥しい数のUFOが幽霊の様に浮かび、陸地側にはラムダ国の戦士が整然と集結、双方が海側と陸地側に対峙していました。
 オメガ国戦士の青い光がUFOの揺れるたびにまるで蛍の光の様に上下左右に揺れている。一方、陸地側ではラムダ国戦士の赤い光がまるで灯篭流しの様に緩やかに蠢く(うごめく)様(さま)は、平家物語の壇ノ浦の決戦を想起させるのでした。
その情景が私の心を一層不安にするのでした。

 悠久を暗示するかのように星が暗黒の空に輝いていました。
風が陸から海の方向へ間断なく吹き、波の音と木々のざわめきが渾然一体となって騒がしく、嵐の決闘を予感させるのでした。
ベンは私を軍の本部へ案内してくれました。本部は木を組み合わせただけの俄か作りの小屋でした。既に陸戦、海戦の将校達が集結していました。少し離れた所で情報員がラムダ国の本部と絶えず交信しているようでした。
 
 私が本部へ到着して間もなく、2機のUFOが海面に着水、甲冑で身をかためた二人の女王が海岸に降り立ちました。一人は背に、一人は腰に剣をつけていました。他に武器は着けていませんでした。
“剣の戦い!それならパトラに勝つチャンスがある!”
私は少し安堵しました。彼女の剣の実力はすでに知っていたからです。それに、この国ではまだ知られていない秘剣“ツバメ返し”も伝えていたからです。
 どちらがパトラか兜鎧の色で判断出来ますが、姿・形はほとんど同じで二人の区別はつきません。
 さらに驚いたのは、双眼鏡を覗いた時でした。体・格好ばかりでなく、なんと二人は顔貌(かおかたち)までクローン人間のようにそっくりだったのです。
 老博士が言っていたのはこのことか?
次世代のパトラが準備されていると!----とすれば、これまで私が尊敬してきたパトラは倒されるのだろうか?さらに不安がよぎるのでした。
その場合パトラが私と地球に戻って新しい国を造ると言う博士の計画は頓挫するのだろうか?
 本当のところ生物さえ設計・作製してしまう博士の考えることは、私には理解できませんでした。

決闘場では周囲の将軍や将校達は意外に落ち着いていました。遠くのほうからほら貝が聞こえてきました。
と! 二人はまるで忍者の様に飛び離れました。いよいよ始まったのです!
パトラは海岸側に、相手は内陸側の岩の上に位置しました。
二人の間はずいぶん離れているようですが、彼らの動きからすれば、私が判断する限り、充分に戦える間合いでした。
二人の兜の下から覗く髪が風に揺れているのが分かりました。まるで武蔵と小次郎の決闘シーンのようでした。
それは幻想的なシルエットでした。 
一方、二人の鼓動を暗示するかのように鎧から発する赤、青の光が不気味に点滅する。
 パトラの鼓動が音となり私の耳元へ届いてくるようで、やりきれない気持ちがつのるのでした。

決闘場にはUFOも含めて多くの戦士達が集結していましたが、彼等は静かで、ただ海岸から打ち寄せる波や強い風にゆれる林の音だけがまるで動物の唸り声のように響いているのです。
つい先程まで気付かなかった、虫の鳴く声が、日本の秋の夜を思い起こさせるように、静けさを破って聞こえてきました。
2人の女王は、寸分の油断も許されない緊迫した戦いの只中に対峙していました。
互いに相手の動きを読むために必死の思いをめぐらしているのでしょう。
二人の力が均衡しているなら、ほんの少し相手の心の読み違えも命取りになります。つまり格闘家は、無意識のうちに相手の動きをいくつかのパターンに分け、それぞれのパターンに対処するべく思いをめぐらしているのです。その読みが少しでも狂うと、命とりになるのです。
しかし予想が外れた場合でも、自分の本能が命ずるがるままに臨機応変に対応しなければなりません。格闘家にとって、この本能の属する袋の中身こそが大切で、その中身が豊富であればあるほど、戦いが有利になるのです。有能な格闘家はこの部分を磨くためにたゆまぬ努力をしているのです。
戦いに於けるパトラの本能的行動は、これまで私が見てきた限りでは非の打ち所がありませんでした。
ふと巌流島で、武蔵が小次郎のツバメ返しを破った瞬間を私は思い出していました。小次郎の心の焦りを見透かした武蔵は“ツバメ返し”が無理に繰り出される瞬間を見抜いていました。小次郎が“ツバメ返し”が決まったと思った瞬間、並外れた運動神経で剣をかわし、武蔵は宙を舞っていたのです。だが小次郎は自分の勝利を確信していました。死に顔には笑みさえ浮かんでいたと伝えられています。

私の心臓は早鐘のように打ちつづけていました。
私はパトラが決して勝負に焦らないことを祈りました。
彼女は砂浜側から相手を見上げる形で構えていました。この形は相手の先制攻撃を誘う作戦なのでしょう。もし相手が上方から攻撃してくればパトラは反撃をと考えているに違いありません---。
 暗闇と言うこともあって、残念ながら私には、彼らの甲冑の赤と青の光しか見えません。2人の考えや動きを想像することは難しい状況でした。
 私は赤いパトラの動きに神経を集中することにしました。
“先に動いてはいけない!相手の動きを見てからだ”
赤い光が少し動いた気がしました。“あ!”と思った瞬間、電光石火の様な速さで青い光が赤い光に重なり合っていました。
刀と刀が激しく弾きあう音と同時に稲妻が2回走りました。
“どちらだ?”緊張のあまり、私は身をのりだしていました。
 2人が飛び離れた瞬間、青い光が砂浜に倒れていました。汗が私の全身に噴出していました。パトラが勝ったのか?
しかし青い光はゆっくりと立ち上がりました。
 まだ勝負はついていなかったのです。
私はこの国の戦士達の並外れた運動神経を何度も見てきました。今の一撃で、相手はパトラの太刀筋(たちすじ)を読んだかもしれません?---私の不安は少し増大しました。
とすると次の攻撃はどちらが先だ?パトラか?
私は次に如何攻撃するか考えましたが、難しくて分かりません。
ただパトラが不用意に攻撃を仕掛けてはいけないとだけは思いました。
相手はどう出るか?私はジリジリしながら見ていました。パトラは今の一撃で相手の力を読み取ったのか、少しずつ間合いをつめ始めました。
私は心の中で“先に動いては駄目!”と
叫び続けていました。相手は少しずつ下がり始めました。やはり、今の戦いでパトラの剣捌きを知ったのでしょう。迂闊(うかつ)には攻撃を仕掛けません。
が、今度はパトラの方から攻撃を仕掛けたのです。
 「あ!」と叫んでいました。
しかし青い光と赤い光が渾然一体となって、まるでサッカーボールが弾かれたような速さで海岸を縦横に駆け回る。私の目では、どちらが優勢なのか動きが速すぎる上、姿が見えないので分からない。
予断が許せない剣戟が連続的に続く。
時折響く鋭い音が恐怖を容赦なく、煽る。
 “あ!”と私は思わず声を出していました。
赤い光が倒れて、青い光が飛び離れたのです。[やられたのか?]
「パトラ!」と私は声にならない声で叫んでいました。 

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 勝負を賭けた試合を一度でも経験した人なら分かると思いますが、例え一分間の戦いと雖も(いえども)想像もつかない速さで神経が磨り減っていきます。
互いの実力は、対戦すればすぐ分かる。力が接近していれば、一瞬の油断が相手の思う壺にはまる。ほんの少しでも実力差を感じた時は、間違いなく自分が敗北する!
まして生死を賭けた戦いでは、無駄な神経をすり減らしてはいけない。
武蔵が言った無念無想とはそのことだと思います。
相手に怖れを感じさせることがあっても、自分が怖れてはいけない、仮に自分が劣っていると直感しても、逃げてはいけない。
 勝つことだけに神経を集中する。
 
互角の女王同士の戦いは私には想像を絶する消耗戦のように思えました。
パトラが倒れてから随分時間が経過したように思いました。しかし相手の女王は動かない。周囲の戦士達も静かにしている
まだパトラが負けた訳ではなさそうだ!
赤と青の光以外に何も見えないので、戦いの状況が私には判断できない。冷たい風が体の中を通り過ぎていく。

私は、ふと子供の頃スズメバチと熊蜂との戦いを思い出しました。
スズメバチも獰猛で決して小さな蜂ではありません。それでも熊蜂に比べると一回り小さかったのです。
 数匹の熊蜂がスズメバチの巣に止まると一斉にスズメバチが襲い掛かる、激しい戦いが始まりました。 熊蜂は押し寄せる相手を瞬く間にぶちきっては次から次へと巣から落としていくのです。まさに取っては投げ千切っては投げという状況でした。
さすがにスズメバチも後退り(あとずさあり)し始め熊蜂の周囲を大きく取り囲みます。すると熊蜂は傍若無人に巣の中央に大きな穴を開け始めたのです。我慢しかねたスズメバチが再び攻撃を仕掛けますと、さらに死骸が塊となって落ちていく。やがて巣の中央に大きな穴が開きました。すると熊蜂は一層激しくなるスズメバチの攻撃を物ともせず、巣穴から蜂の子をぶら下げては悠々と連れ去って行くのでした。昼頃から始まった戦いは夕方頃には終わっていました。そして--勇敢に戦ったスズメバチ達の死骸は地上に無残に転がっていました。死んだ蜂たちの中に混じってひときわ大型の蜂がひっそり死んでいました。当時私はこの蜂こそが女王蜂だろうと思いました。
 ラムダ国とオメガ国の戦(たたかい)も、そして女王同士の戦いも、さながら蜂世界の戦いのように思えたのです。「パトラがスズメバチの女王のように死んだのではないか?」 「パトラが負ければ、ラムダ国の子供は連れ去れてしまうだろうか?」
「ベンやアレクのような戦士たちは一体どうなるのだろう?」
 パトラが倒れた姿を見て、そんな不安がよぎったのです。
一方この時、空が動き始めていました!!
不思議なことに空から星が雪のように降り始めたのです!!
 星が散りばめたように輝いている様を「星が降る」など大袈裟に表現することがありますが、当時私が見た「動く空」は、そんな次元の話ではありませんでした。東西南北に広がる星が本当に中央の線に向かって動き始めたのです。それは流れ星の様ではなく、ゆっくりとした動きで、頭上に星が天の川の様に集まり始めたのです。そして、それが地上に向かってカーテンの様に下りて来たのです。そして下がるにつれて太い筒の様な構造を形成し始めたのです。
2人の女王が命を懸けて戦っている最中(さなか)に!宇宙では壮大なドラマが始まっていたのです。
星の動きは、水中で強い渦巻が起こり水の表面に浮かぶ青い花びらが次々と飲み込まれていくかのように見えるのでした。しかしそれは遥か彼方の空で起こる新しい生命(いのち)の誕生を見ているようにでもありました。壮大な自然界のドラマは一言で表現できないほど荘厳・雄大で「宇宙の創世記を体験しているのではないか?」と思ったほどでした。
 一方海上ではなお蛍の様に青白い光を放つUFOが蜃気楼の様に揺れていました。陸上ではラムダ国の戦士達の発する赤い光が緩やかに移動していました。


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