ジョージ北峰の日記
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2010年03月29日(月) オーロラの伝説ー人類滅亡のレクイエム

、博士は今後人間社会をどうするつもりなのですか?」
「徐々に現人類を新人類に入れ替える必要があると考えている」
「新人類とはラムダ国とかオメガ国の住人達のことですか?」
「左様」
「で、私はどうすれば良いのでしょう?」
「貴方はパトラのことが好きなようだが?」博士の突然の質問に、私は熱くなりながら「いや好きと言えば女王に対して失礼でしょう」---「しかし色々な意味で人間を超えた能力を備えた方だと尊敬してはいますが---」---
「でも---正直に言えば私はパトラが好きです」と、少し口籠りながら告白しますと、博士は優しい笑みを浮かべながら「だったら素直にパトラが好きだと言えばいいのだよ」
「しかしパトラはラムダ国の女王様でしょう?」
「左様。しかしパトラに変わる次世代の女王を我々は既に用意しているのだ」
「えっ!次世代の女王?」
「それでは今必死になって戦っているパトラが可哀想ではないですか」と、しかし博士は淡々と「パトラの女王としての役割は、今回の戦争で終わるのだよ」と言い切ったのです。
私は何を言われても、驚かないつもりでしたが、人間をまるで実験動物のように扱う博士の態度に抵抗を感じるのでした。
私は「人類にも問題があるかも知れませんが、博士のなさっていることにも、さらに問題があるように思いますが」すると博士は少し困惑した表情を浮かべながらが「ドクター、今まで言わなかったが、パトラには私の遺伝子が入っているのだ---つまり私の娘なのだよ」
「!」
「正直に話そう、パトラがこれまで女王
として随分がんばって働いてくれたことはよく分かっている。だからこそ、この戦争が終わればパトラをラムダ国から解放してやりたいのだ。そして次は人間社会の変革のために力を尽くしてもらいたい」博士の目には、冷静さの中にも父親の眼差しが戻っていました。そして続けて「パトラは人間社会に復帰するるに当たって、彼女を助けてくれるパートナーを探していたのだよ。そしてあの国際学会でパトラはドクターに出会ったと言う訳だ」と静かに私の気持ちを確認するように話すのでした。
“パトラは婚約者探しにあの国際学会へ来ていたのか。しかし如何して私のような平凡な人間に白羽の矢を立てたのだろう?学者として傑出している訳でもなくスポーツマンとしても素人に毛が生えた程度、それに風采も女王にふさわしいほど魅力的でもない”---と、私が考えていますと博士は私の心を見透かす様に「ドクターは自分で、自分のことが良く分かっていないようだね。私から見ればドクターは5次元を認識する能力、人間の醜い欲望を抑制できる強い意志と理性、それに誰からも愛されリーダーシップを執(と)る能力---パトラを助けて地球で新しい国づくりするにふさわしい行動力を持つ人間なのだよ」
暫く間をおいて「パトラは全てを知った上でドクターを自分のパートナーと決めたのだ」私は博士の話が信じられませんでした。あの美しい、勇敢で、聡明なパトラが私をパートナーに選ぶとは!あまりの突然の話で、「本当だろうか!」 私は思わず呟いて(つぶやいて)いるのでした。
博士はそれには答えず「君に、新しい国を作ってあげよう」
私は「え!どのような手段で?」と尋ねますと、博士は「天空に栄えたマチュピッツ遺跡のことを知っているだろう?」「ええ」と私。
博士は「あのように人間社会から隔絶したところに国をつくるのだよ、それは我々には難しいことではないのだ」と断定的に話すのでした。そして暫く沈黙が訪れました。

老博士の話から分かったことは、つまり此れまで謎とされてきた地球上の遺跡は、 “異次元の世界”の存在を考えることで理解可能になると言うこと---でした。

とすると---日本の古事記---つまり日本国創生の下りは---神話ではなかったのか?あの「天照大神」の話が本当だったとしたら。
そしてパトラが「天照大神」とすれば「私は?――いったい誰なのだ?」ドーム越しに夜空を眺めていますと、慌ただしく銀色に輝く甲冑に身を包んだパトラとベンが部屋に入ってきました。
パトラの鎧の合間から見える、筋肉質な腕、すらりとサラブレットのように伸びた脚が、息を呑むほど凛々しく(りりしく)輝いて見えました。博士の話を聞いた後だったこともあって、今から生死を賭けて出陣しょうとしているパトラに言葉では言い尽くないほどの愛しさ(いとしさ)を感じるのでした。
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 少し話が横道にそれていましたが、話を元に戻しましょう。いよいよオメガ国とラムダ国の決戦が始まろうとしていました。パトラは私に「戦争に参加することは許しません」と再度命令しました。しかし私が納得する訳がありません。「私もラムダ国の為に戦いたい」と強く主張しましたが、ベンは「気持ちは、ありがたい。が、あなたには戦後に果たす役割が残っている」と、老博士の方へ振り返りながら落ち着いた口調で同意を求めました。老博士も、同じ口調で「その通り、ドクターはこの場に残って戦争の状況をしっかり見守ってほしい」
「今回の戦争は、ドクターが想像できる範囲を超えている」と彼。「しかし今回の戦争でラムダ国が負けてしまえば、私はどうなるのでしょう?---私は皆と同じ運命を共有したいのです」と私。
「戦争でラムダ国が負けるようなことがあっても、ドクターの役割がなくなるわけではない」と老博士。
「ドクター!私の命令を聞けないのですか?」パトラが少し苛立った口調で私を見つめる。私が一瞬口をつぐみますと、彼女は少し笑みを浮かべ「心配しないで。私は負けません」と、一転して優しいが力強い口調で言うのでした。
私は、これまでのパトラの超人的な働きを思い出していました。陸上での剣捌き、水中での活躍、この美しい女王に何処にそんな力があるのかと、何度も驚いたことがありました。確かにパトラは戦に負けたことがありませんでした。
私は彼女の命令に服従するしかありませんでした。
ベンとパトラは、私に決して戦争に参加してはいけないと言い残し、老博士に一礼して部屋を出て行きました。部屋を去る直前、彼女は振り向きました。一瞬彼女の目が「きらっ」と光った気がしました。その光が私の心奥深くに突き刺さるのでした。
 博士が私に「戦場の様子を見よう」と語るや否や、部屋のスクリーンに戦場の様子が映し出されていました。
 本部(H山)が中央に位置し、海岸線から本部に至るまでに300メートル級の丘陵(X,Y,Z)が砦のように取り囲む様子が見えました。
それぞれの丘陵には、京都の大文字焼きのような灯りが幾重にも渦巻状に並ぶ様が見えました。新月ということもあって、風に揺れる黒い木々の合間に燃えさかるような火が地獄の火の様に見えましたが、大都会の夜景の様でもありました。怖くもあり、美しくもある灯(あか)りに見えるのでした。
 暫くして、ほら貝が海岸の方角から聞こえてきました。「すると!」海岸線の火の灯りが激しく揺れ動き始めるのが確認されました。私の緊張を察知したのか、老博士は「いよいよ開戦だ」と落ち着いた声で囁きました。
見方の軍は赤く光る火、敵方は青い火です。
海のほうから青い光が続々と上陸して来る。赤い光が彼らを取り囲もうとしているが、あちこちで赤い光の前線が崩れ、青い光の流れが瞬く間に怒涛の様に流れ込んでくる。海岸線では敵兵士の数が上回っているようでした。
それにしても何処から敵は上陸してくるのだろう?--- と、老博士が遠くの海面を見るように指示しました。
「あっ!」円盤状の飛行物体が海面すれすれに飛んで来るのです。「アレだよ、アレが地球人たちの言っているUFOだ。ドクターにも見えるかい?」
私は興奮しながら「ハイ!」と夢中で叫んでいました。「よろしい君も、もう立派なラムダ国人だ。UFOから敵兵が上陸してきているのだ」
しかし今私の気持ちは、それどころでは、ありませんでした。
「見方は大丈夫でしょうか?」青い光の一団がすでにX山の麓に達しようとしていたのです。「ここからは敵も苦労すると思う。山の頂上へ向かう道は細くて、切り立っている一人ずつしか登れない」。
しかし博士の言葉と裏腹に、どうしたことか、青い光が瞬く間に頂上へ攻め上っていくではありませんか。私は矢も楯もいられない気持ちになりました。
と、Y山の山頂から飛行機のような大型の鳥がまるでカラスの群れの様に集団を成し、飛び出し青い光の敵軍に突進していくのが見えたのです。するとX山の中腹まで来ていた敵の進攻が瞬く間に鈍り始めました。大カラスたちが敵兵に襲い掛かっているようでした。老博士は私のほうを振り向くと「君の残してくれた大型動物作成に関する研究成果だよ」
「え!」私は言葉に詰まりました。
「カラスは鷲や、鷹と違って集団で敵を襲う、そして想像以上に獰猛で、賢い鳥なのだ」 
「彼らは飢えてくると、どんな敵に対しても恐れずに戦いを挑む。負ける怖さを知らない。私たちは其処に目をつけたのだ」
「しかし敵味方の区別は出来るのでしょうか?」
「彼らは犬、いや馬にも劣らない知性を持っている。味方を襲うことは決してないよう訓練されている。問題は体が大きい分、餌の消費が多すぎる、しかし戦士の一人と考えれば問題はない」
「カラスがドクターの代わりに活躍してくれているのだよ」
「だから私は参戦しなくても良いのですか?」
老博士は、私の質問があまりに単純すぎて可笑しかったのか、声をたてて笑うのでした。
 戦局は混沌とし始めていました。戦場では赤い光が勢いを盛り返そうとしていました。私はパトラのことが心配で、胸が張り裂けそうでした。

 X山、Y山に位置する赤の集団が徐々に青の集団を目がけて移動していく。戦況が刻々と移り変わっていく。画面で見ていますと事態は事務的に進んでいるように見えますが、戦場ではかなり激しい戦いが繰り広げられていました。
 生か死かの何れしかない戦場を見ていると、平常なら恐怖心か嫌悪感をもよおすでしょう。しかし当時私は若かったのでしょうか、戦にも参加せず、安全なところでじっと眺めている自分がとても悔しく情けなく思えるのでした。現場を知らない無謀さもあったのかも知れません。パトラの為なら、生死を問わない気持ちの方がずっと強かったのです。
「私にも参戦させてください」と再度言いますと「戦場をもう少しズームアップしてみよう」と老博士は言うのです。すると画面に甲冑で身を固めた、戦士達が槍、刀や盾で戦う姿が画面上に飛び込んできました。戦いに敗れもがき苦しんでいる戦士には目もくれないで、戦闘能力のある戦士達が次の敵に突進していく。
 一人の戦士が数人の戦士に取り囲まれて戦っている。一人の戦士が倒れると“アッ”という間に数人の敵の餌食になる。しかし彼等は倒れても、倒されてもすぐ立ち上がり渾身の戦いを続けていました。
こんな凄まじい場景は、確かに私の想像の域をはるかに超えていました。勿論映画で見る場面とは訳が違っていました。
「こんな状況でも、ドクターは戦場に行くかね」私の気持ちを確かめるように老博士が尋ねました。咄嗟に「勿論です!パトラの為に!」と、勇んで答えていました。その時私はパトラを助けたい気持ちが恐怖心よりもはるかに勝っていたのです。
「ラムダ国のためじゃないのかね?」彼は少し笑みを浮かべながら言いました。
「いえ、パトラのために戦うことが国の為になると信じています?」すると、老博士は「その通り」と言う素振りを示しながら小さく頷くのでした。
ところで、この国の戦争について、もう少し話さなければなりません。
 すなわち、戦っているのは人間ばかりではありませんでした。動物達も戦士たちと一緒に戦っていたのです。ラムダ国からは大型のカラスが参戦したことを話しましたが、ズームアップした画面をよく見ると小さなネズミの様な動物が戦場を駆け回っていたのです。老博士によると、彼らはオメガ国が上陸に際して連れてきた大型のラットだったのです。最初味方の守りが総崩れになったのは、彼らのせいでした。戦闘の最中、足元で例えラットとは言え走り回られると気が散って存分に戦えません・ さらに彼らが攻撃を仕掛けてくるとなると、一応防戦しなければなりません。それが戦士の集中力を分散させるのです。そのことで最初敵の攻撃を優勢にし、味方の前線が総崩れになった要因だったのです。しかしそれに対抗して放たれたラムダ国のカラスがネズミ軍団に攻撃をしかけ、彼らが逃げ始めると、ラムダ国の戦士たちも敵戦士との戦いに集中出来るようになったのです。
 動物と人間が渾然一体となったまるで御伽噺(おとぎばなし)の様な戦(いくさ)でした。
それに最初赤や青の火と考えていた灯りは、実は戦士が着用している甲冑から発せられる蛍光のような光でした。それが戦士の動きで火のように見えたのです。それが暗夜でも敵、味方の区別を可能にしていたのです。
私が「相手の鎧を身に着けて敵を欺くことだって可能ではないですか?」と尋ねますと、老博士は「いや、ラムダ国とオメガ国の戦争では、そのようなことはない。彼らは正々堂々と戦うことに誇りにしている戦士達だから。そのような行為をした場合、その戦士は双方から相手にされなくなるだろう」と、彼は断言するのでした。
「この国の科学技術の水準から考えて、さらに効率の良い兵器だって開発可能なのではないのですか?」
老博士は少し間を置いて「ドクターの言っているのは、鉄砲や大砲の様な近代兵器を使っての戦争のことかね?」と語気を強めました。
「そうです」すると彼は首を左右に振りながら「現代の地球人の戦争には哲学がない。大量破壊兵器を使って無差別に人間のみならず多くの生物を虐殺する。このことが地球にとってどんな結果をもたらすか考えたことがあるかね?」と私の顔を見据えるように言いました。
「---」老博士の強い言葉の勢いに押されて、私は答えることが出来ませんでした。
「先にも言ったとおり、人間の遺伝子システムは人間のためにのみ設計されたされたものではないのだ。すべて生態系のシステムの一環として設計されたものなのだ」続けて
「20世紀の戦争による、想像を絶する生態系の無差別破壊は、人間の企業開発が及ぼす気候や生態系への影響だけではないのだよ。もうすでにどれだけ多くの重要な遺伝子が、地球上から消失したか。その意味では最初に火薬やダイナマイト発見したことが間違っていたと言えるだろう。ノーベルはそのことを分かっていたようだが---」一瞬口をつぐむと続けて「その損失は計り知れないものがある」と悔しそうに話すのでした。「ただし戦が悪だと言っているのではないのだよ。どのような形であれ人と人との争い、あるいは生物間の争いは進化論的に正当化されている」と博士。
「消えた遺伝子は、人の未来に何らかの影響を及ぼすのでしょうか?」
博士は少し沈黙していましたが、静かな口調で「勿論だとも、人間も含めて、生物界の遺伝子は相互に交換したり、増えたり、減ったり長い目で見れば、絶えず交流していると言っても過言はないのだ」と言う。「とすると、重要な遺伝子が消失していくと、人間はどうなるのでしょう?将来的には絶滅の方向へ進んでいくと言うことですか?」
「いや生命のシステム全体が崩壊するのだ!だからこそ、今新たに人間を設計し直さなければならないのだ」
「そのような危機感があって、オメガ国やラムダ国の生態系システムの研究・開発に拍車がかかっているのですね!」
「---」
「今はその実験中と言う訳ですね!」
「---」
「それでその実験は成功しつつあるのでしょうか?」
 老博士は、一瞬口をつぐんだ後「良い方向に進みつつあるとだけ言っておこう」少し躊躇う(ためらう)ように言うのでした。さらに「これからラムダ国人やオメガ国人を地球に送り出すに当たって橋渡し出来る人間が必要なのだよ」と私を見つめるのでした。


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