ジョージ北峰の日記
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2機の戦闘機は、猛烈なスピードでこちらへ接近して来ましたが、私達の方角を振り向きもしないまま眼前を通り過ぎて行きました。私は一瞬冷汗をかきました。 しかしパトラが言う通り、彼等は私達の存在に気付いていないようでした。すれ違いざま、チラッと見たパイロットの横顔はとても緊張していまいた。
パトラは「私達は異次元に存在しているので、彼等は気付かないのです。」 「分かりやすく、説明してくれませんか?」私がベッドから起き上がりながら尋ねますと、「現在、彼等と私達との間には異次元の膜があるのです」とパトラ。 「膜は見えないのですか?」さらに尋ねますと 「あなた方は時間軸を認識することが出来ても見ることが出来ないのと同様、彼等にはエネルギー軸は見えないのです」 私がパトラとオメガ国の女王との対決時に不思議な星空の動きを見ましたが---と言いますと、パトラは「そんな経験があったのですか?」続けて「あなたも見た通りラムダ国もオメガ国もエネルギー軸に囲まれた5次元の世界に存在しているので、普通の人には見えないのです。しかしあの日あなたが見たのはエネルギー軸の膜で囲まれたオメガ国だったのでしょう」と、「それはあなたがラムダ国に住むことが出来る能力を獲得した証明でもあるのです」と、言うのでした。 私はなお寝ぼけていましたが、パトラの話を聞いているうちに、何故か全身にエネルギーが回復してくる兆しを実感するのでした。私はふとパトラを抱きしめたくなりました。 しかし、「ところで私は今一体何処に居るのですか?女王室ではないのですか?いつの間に宇宙に飛び出したのです?」と、何気ない風にパトラの手を握り締めますと、私の気持ちが伝わったのか、パトラは笑いながら「あなたが就寝前に尋ねてきた部屋は、このUFOの一部だったのです。あなたが寝ている間に飛び立っただけなのです」と、浅く手を握り返しながら答えるのでした。 私にはキツネにつままれたような気分で、呆気にとられた顔でもしたのでしょうか?それとも寝ぼけ眼(まなこ)が、よほど可笑しかったのでしょうか、パトラは声をたてて笑い「コーヒーを飲みますか」と召使に朝食の準備を命令するのでした。
それで---私のめらめら燃え上がる欲望の炎がそがれてしまいました。
私が急いで身繕いを済ましますと、パトラは私を軽く抱きしめ、それから別室へ案内してくれたのです。 その部屋はやはり大きな窓のあるダイニング・ルームで軽食が準備されていました。 窓からは地上の明かりが宝石のように輝いている様が見えるのでした。 そして!--先程、目前を通り過ぎていった戦闘機がダイブしながら地上攻撃を開始するのが見えたのです! 地上で花火の様な閃光が突然あがりました。一瞬美しく見えましたが「あれ!戦争?」、私が呟きますと、パトラは頷きながら「今地球上では戦争が頻発しているようです。地球では、今、何が悪で、何が正義か分からなくなっているようですね」「その上、此処から見ても分かる通り都会の灯りは、文明国では著しく一部へ偏っているでしょう」 「それは便利だからでしょう?それが何か問題ですか?」と、コーヒーを飲みながら尋ねますと、パトラは「それが大いに問題なのです」と、確信的な口調で答えるのでした。 「人でも動物でも、地上に片寄りなく分布している間は安定なコミュニティーが出来るのですが---富も権力も同だと思うのですが、いずれかが一極に集中すると、エネルギーの分布が不均等になり、そんなコミュニティーは破綻しやすくなるのです。これまでも、このことは歴史的に証明されてきたのではないですか?民主主義などは、その為に(政治権力の人々への分散化)考え出された政治原理でしょう? 人口の分布についてもやはり同じことが言えるのです。一極に集中すると、人工密度のエネルギーが異常に高まりコミュニティーは不安定となり爆発するのです。狭い空間に熱した分子を閉じ込めるのと同じです」 パトラの例え話は単純で少し可笑しい印象を受けましたが、しかし分かりやすく私は驚きました。パトラがこんなことを考えていたとは、本当に夢にも思いませんでした---。これまではどちらかと言えば彼女は軍人とばかり考えてきましたから---。 しかし彼女の何気ない会話の中に私自身納得する部分が多々あることに気付いたのです。 丁度私がラムダ国に来る前、地球が混沌と乱れつつある状況にあって、如何すればよいのかと、私自身いろいろ考えてはいたのです。しかし何の解決方法も得られなかったのです。 そして私一人が考えても何も出来ないと、ただただ研究生活にのめり込んでいったのです。 その当時の気持ちを、パトラは、今思い出させてくれたのです。しかもその悩みに対する答えを! 人が垂れ流す夥(おびただ)しい量の廃棄物、際限なく続く地球破壊、その原因は外でもない、恐らく人が作り出す不均衡な富の配分とそれに群がる片寄った人工の集中化にあるのだと! この片寄った人口の集中化こそが、地球破滅の根本的原因だったのではないか、と!
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