ジョージ北峰の日記
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2007年08月29日(水) オーロラの伝説ー続き

「人間はあなた方が創造された製品だったんですね!」と私。
「いや、生命全体が我々の製品なのです」「各種生命相互間に方向付けられた作用によって人間も含めた進化が進むように設計されていたのです。この方向付けは、所謂料理の匙加減程度のつもりだったのだが、しかしドクターのように我々と同様5次元の世界を認識できる生命体が出現してくるとは想像外のことだった」と博士。
「しかし私は、あなた方の作られた飛行物体UFOを見たこともないのです」と反問すると、博士は笑みを浮かべながら「新しい次元を認識する能力を引き出すには、やはりそれなりの訓練が必要なのだ」「ドクターはその訓練の方法を知らなかっただけなのだよ」――――
「ところで、博士は今後人間社会をどうするつもりなのですか?」
「少しづつ現人類を新人類に入れ替える必要があると考えている」
「新人類とはラムダ国とかオメガ国の住人達のことですか?」
「その通り」
「で、私はどうすれば良いのでしょう?」
「貴方はパトラのことが好きなようだが?」突然の博士の直截的な質問に、私は頬を赤らめながら「いや好きと言えば王女様に対して失礼になるでしょう」「しかし色々な意味で人間として信じ難い能力を備えた方だと---尊敬してはいますが---」
「でも---正直に言えば私はパトラを言葉では表現できないほど、心から愛しています」と、少し口籠りながら告白すると、博士は優しい笑みを浮かべながら「だったら素直にパトラが好きだと言えばいいのだよ」
「しかしパトラはラムダ国の王女様でしょう?」
「左葉。しかしパトラに変わる次世代の王女を我々は既に用意しているのだ」
「えっ!次世代の王女を?」
「それでは、今必死に戦っているパトラが可哀想じゃないですか」と、博士は淡々と
「パトラの王女としての役割は、今回の戦争で終わるんだよ」と言い切った。
私はもう何を言われても、驚かないつもりだったが、人間をまるで品物のように扱おうとする博士の態度に少なからず抵抗を感じた。
私は「地球上の人類にも問題があるかも知れませんが、博士のしていることは、もっと問題があるように私には思えますが」すると博士は少し困惑した表情を浮かべながらが「ドクター、今まで教えていなかったが、パトラは私の娘なんだ」
「!」
「正直に話そう、パトラがこれまで随分がんばって働いてくれたことはよく分かっている。だからこそ、この戦争が終わればパトラをラムダ国から解放してやりたいんだ。そして次は人間社会の変革のために力を尽くしてもらいたいんだ」博士の目には、冷静さの中にも科学者というより父親の眼差しが戻っていた。そして続けて「パトラは人間社会に戻るに当たって、彼女を助けてくれるパートナーを探しに出かけていたのだよ。そしてあの国際学会であなたに出会ったと言う訳だ」と静かにそして私の気持ちを確認するように話した。
パトラは婚約者探しにあの国際学会へ来ていたのか。しかし如何して私のような平凡な人間に白羽の矢を立てたのだろう?学者としても傑出している訳でもなく、スポーツマンとしても素人に毛の生えた程度、それに風采も飛びぬけて魅力的な訳でもない---私が考えていると、博士は私の心を見透かす様に「ドクターは自分で、自分のことが良く分かっていないようだね。私から見ればドクターは5次元を認識する能力、人間の醜い欲望を自制する能力、並外れた理性とリーダーシップを取れる能力---いずれの能力もパトラを助けて新しい国づくりするにふさわしい人間なのだよ」
暫く間をおいて「パトラは全てを知った上でドクターをパートナーにすると、自分で決めたんだ」
私は博士の話が信じられなかった。
あの美しい、勇敢で、聡明な王女パトラが私をパートナーに選んだなんて、あまりの突然の話に---本当だろうか? 私は俄かには信じられなかった。「嘘でしょう!」 私は叫んでいた。
博士はそれには答えず「君達に、新しい国を作ってあげよう」
私は即座に「どのよう手段で?」と尋ねると、博士は「天空に栄えたマチュピッツ遺跡のことを知っているだろう?」「ええ」と私、と博士は「あのように人間社会から隔絶したところに国をつくるのだよ、それは我々には簡単なことなのだ」と確信するように語った。そして暫くの沈黙が訪れた。

このとき私は日本の神話のことを連想していた。「古事記」に語られる日本国創生の章で語られている下りのことを---神話と思っていた「天照大神」の話は本当のことだったのかも知れない。そしてパトラが「天照大神」とすれば「私は?――いったい何なのだ」夢見心地に空(くう)を睨んでいる時、
慌ただしく銀色に輝く甲冑に身を包んだパトラが、ベンと一緒に部屋に入ってきた。
 彼女の姿は、それこそ息を呑むように凛々しく(りりしく)、美しく輝いていた。鎧の合間から露出する、筋肉質だが、ふくよかな腕、すらりと伸びた脚が、博士の話を聞いた後ということもあって、私には一層官能的に見えた。


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