ジョージ北峰の日記
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2007年10月01日(月) オーロラの伝説ー続き

 XX
 少し話が横道にそれていましたが、話を元に戻しましょう。いよいよオメガ国とラムダ国の戦争が始まろうとしていました。パトラは私に「戦争に参加することは許しません」と再度命令を出しました。しかし私が納得する訳がありません。「パトラやベンの傍でラムダ国の為に是非戦いたい」と強く懇願するように話すと、ベンは「その気持ちは、大変ありがたい。が、あなたには戦後に果たしてもらう役割が沢山残っている」と、老博士の方へ振り返りながら落ち着いた口調で同意を求めました。老博士も、やはり落ち着いた口調で「その通り、ドクターはこの場に残って戦争の状況をしっかり頭に入れておいてほしい」
「今回の戦争は、あなたが想像できる範囲をこえている」と彼、「しかし今回の戦争で負けてしまえば、私はどうなるのですか?---私は皆と同じ運命を共有したいのです」と私。
「仮に戦争でラムダ国が負けるようなことがあっても、ドクターの役割がなくなるわけではありません」と彼。「ドクター!私の命令を聞けないのですか?」パトラは少し苛立った口調で私の目を見つめる。私が一瞬口をつぐむと、彼女は少し笑みを浮かべ「心配しなくても、私達は負けません」と、たしなめるように話した。この時、ふとこれまでのパトラの超人的な働きを思い出していた。陸上での剣捌き、水中での活躍、この美しい王女の何処にそんなエネルギーがあるのか何度も驚いたことがあった。
確かにパトラが戦争に負けたことがなかった。
私は彼女の命令に服従するしかなかった。
ベンとパトラは、私に決して戦争に参加してはいけないと念を押すと、老博士に一礼して部屋を出て行った。部屋を去る直前、彼女は私の方へ振りむいた。一瞬彼女の目から、「きらっ」と光が放たれたような気がした。その光は潤んでいるようでとても印象的だった。愛に満ちた光のように思えた。
私は日頃から信じたこともない神に彼女の武運を祈りたくなった。

 博士が私に「戦場の様子を見よう」と語るや否や、部屋のスクリーンに戦場の様子が映し出された。
 島の中央に本部のある山(H山)が位置し、海岸線から本部に至るまでに500メートル級の丘陵のような山X,Y,Zが砦のように取り囲むに並ぶ様が見てとれた。
それぞれの丘陵には、京都の大文字焼きの様な灯りの線が幾重にも山全体を渦巻きのように取り囲む様が見えた。新月ということも遭って、風に揺れる黒い木々の合間に燃える火が地獄の火の様にも見えたがまた大都会の夜景の様にも見えた。怖くもあり、美しくもある灯り(あかり)だった。
 暫くして、私は驚いたのだが、昔日本で侍たちが戦争する時に良く使った、ほら貝が海岸の方向から聞こえてきた。「と!」海岸線の火の灯りが激しく揺れ動きはじめるのが確認できた。私の緊張を察知したのか、老博士は「いよいよ開戦だ」恐ろしいほど落ち着いて様子で、博士は囁いた。
見方の軍は赤い光、敵方は青い光だ。
見ていると海のほうから青い光が続々と上陸してくる。赤い光が彼らを取り囲もうとしているが、あちこちで赤い光の前線が乱れ、青い光の流れが見る見るうちに怒涛の様に流れ込んできた。敵兵士の数が海岸線では上回っているようだ。
 それにしても何処から彼らは上陸してくるのだろうか?--- と、老博士が遠くの海面を見るように指示した。
「あっ!」円盤状の飛行物体が海面すれすれに飛んで来る。「アレだよ、アレが地球人たちの言っているUFOだ。君にも見えるかい?」
私は興奮しながら「勿論です!」夢中で叫んでいた。「よろしい君も、もう立派なラムダ国人だ。アレから敵兵が上陸してきているのだ」
しかし、今私の気持ちは、それどころではなかった。
「見方は大丈夫でしょうか?」
青い光の一団がすでにX山の麓に達しようとしていた。「ここからは敵も苦労すると思う。山の頂上へ向かう道は細くて、切り立っている一人ずつしか登れないから」。
博士の言葉と裏腹に、どうしたことか、青い光が瞬く間に頂上へ攻め上っていくではないか。私はいても立ってもいられない気持ちになっていた。
とY山の山頂から、飛行機のような大型の鳥がまるでカラスの群れの様に集団を成して、飛び出し青い光の敵軍に突進していくのが見えた。X山の中腹まで来ていた敵の進攻が鈍り始めた。大カラスたちが敵兵に襲い掛かっているようであった。
老博士は私のほうを振り向くと「君の残してくれた大型動物作成に関する研究成果が彼らだよ」
「え!」私は言葉に詰まった。
「カラスは鷲や、鷹と違って集団で敵を襲う、そして想像以上に獰猛で、賢い鳥なのだ」「彼らは飢えてくると、どんな敵に対しても恐れずに戦いを挑む。負ける怖さを知らないのだ」
「私たちは其処に目をつけたのだ」
「しかし敵味方の区別は出来るのでしょうか?」
「彼らは犬、いや馬にも劣らない知性を持っている。見方を襲うことは決してないように訓練されている」 「問題は体が大きい分、餌の消費が大きすぎる、しかし戦士の一人と考えれば問題はない」
「カラスがドクターの代わりに活躍してくれているのだよ」
「だから私は参戦しなくても良いのですか?」
老博士は、私の質問が余りに単純なのが可笑しかったのか苦笑いをして何も答えなかった。
 戦局はは混沌とし始めていた。戦場では赤い光が勢いを盛り返そうとしていた。今や、私はパトラのことで胸が一杯になり破裂せんばかりに高鳴っていた。


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