ジョージ北峰の日記
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2006年04月04日(火) |
オーロラの伝質ーー続き |
それからアレクは私を司令室に案内してくれました。それほど大きな部屋ではありませんでした。そう、シネマコンプレックスの比較的小さな会場を連想していただければよいかと思います。 中央の壁には大型のスクリーンが設置され、戦闘の模様がまるで映画でも見ているかのようにまざまざと映しだされていました。左側には周辺の海底の地形と見方の戦士の配置図、右側には敵の軍勢の規模・戦士の動きが模式的に描かれた作戦用のスクリーンが設置されていました。味方の戦士から送られてくるメッセージは刻々と伝言板に書き込まれる。それを基に参謀達が、敵の動きや配置も参考にしながら、味方の戦士たちのとるべき行動、作戦を司令部に送る。司令官はその内容を逐一オペレーター伝えて現場の戦士に命令を伝える。 この部屋から戦闘を見ていると、ゲームを見ているような錯覚に陥りましたが、画面に映し出されている状況は現実に起こっている戦闘でした。 正面の画面からは、これまで私が見たこともない光景が次々と繰り広げられていました。戦士たちは敵も味方も大型のサメ(のように見えた)の背中に乗り、サメを操りながら(あやつりながら)戦っている。それはまるで飛行機による空戦を見ているような光景でもありました。 攻めてくる敵の隊列と、味方の隊列が一瞬バリカンのように重なり合ったかと思うと、数人の戦士たちが振り落とされる。と、一瞬のうちに敵、味方の戦士の槍や水中銃の餌食になる。 戦闘の状況を現実に見て、私は、初めて全身が熱くなり、感情の昂(たかぶり)ぶりを覚えたのでした。 水中での戦いはサメの能力に負うところが大のようで、お互いぶつかり合った瞬間、大きな衝撃を受けた方の戦士が振り落とされることが多いようでした。無論それだけの要因で勝負が決まる訳ではなく、戦士のサメを操る技量にも大きく依存しているようでした。 見ていると、正面から衝突するかの様に接近し、直前に体を左右にかわし、瞬間背後に回り敵を攻撃する。 水中では長い刀を振り回すことが出来ないので、槍の攻撃が中心になる。だから、敵に後ろに回られると命取りになる。しかし、腰の短剣を抜いて防御することも可能なようでした。 さて戦の方ですが、味方の戦果が逐一伝言板に報告されてくる。この戦は味方の勝利に終わりそうだと誰もが予測し始めた時でした。 オペレーターの一人が右のスクリーンを指さしながら「敵の別の一団が突進してくる」と叫んだのです。その叫び声が消えない間に、敵の姿はもう正面のスクリーン一杯に映し出されていました。それを見た瞬間、部屋にいた者は参謀、司令官も含め皆が凍りつくような衝撃を受けたのでした。 なんとまるで鯨のような大型のサメの一団が味方の防御網を簡単に破って突進してくる様子が映し出されたのです。 味方の戦士たちも勇敢に立ち向かって行きますが、ひとたまりもなく弾(はじき)き飛ばされる。そして弾き出された味方の戦士たちは、待ち伏せている敵の槍の餌食となって沈んで行く。 「このままでは味方の全滅だ!」 それは平家物語の“屋島の合戦”を想起させる凄まじい光景でした。 先程見た、まだあどけない少女の様な戦士達のことを思い浮かべると、光景のあまりの凄惨さに、居ても立ってもいられない怒りと焦りを感じるのでした。私の心は動転していました。 「早急に援軍を!」と思うのですが、しかしそれでも相手の突進を防ぎきれる保障は全くなかったのです。本当にどうすればよいのか?戦争を知らない私にはよい考えが何も浮かばないのでした。
物語や映画ではなく、こんなにも激しい本物の戦闘を、目の当たりにすると、衝撃的でしたが—まだ私は若かったのでしょうか?それとも少女たちの勇敢な行動に触発されたのでしょうか、現実に面と向かって、不思議なことに“死”という恐怖心は何処かに吹っ飛び、むしろ闘争心が“入道雲のようにむくむく湧き上がって来る”のでした。 一方戦士たちは相変わらず恐れ知らずで、仲間が倒れても、倒れても次々攻撃を仕掛けて行くのです。私は出撃していった少女達を思い起こすと、こんな残酷なシーンを見続けることはとても耐えられそうにありませんでした。 しかしアレクは意外にも落ち着いていました。 参謀たちは、戦況を分析していましたが、しばらくして司令官に作戦の変更するよう告げました。 フリーな格闘戦は不利と読んだのでしょうか? 作戦が戦士達に伝わったのか、これまで攻撃していた味方の一団が、海底に向かって垂直にもぐり始めたのです。するとつられるように敵の怪物ザメ(モンスターザメ)も彼等を追っかけ始めたのです。その時、サイドから味方の戦士達が一斉に側面攻撃を開始したのです。この作戦は一時的に有効に作用したようでした。
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