ジョージ北峰の日記
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2006年03月01日(水) オーロラの伝説ー続き

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 “戦争”と聞いて、すでに予感していたこととは言え、全身に緊張が走りました。
しかし、それは本当の意味での緊迫感とは少し違っていました。
この国の人々、殊に研究所の同僚には、戦争に対する緊迫感が全くなかったからです。私も戦争体験がなく、戦争に関しては軍人の体験談や映画などによる観念的な知識しかありませんでした。その上“海中戦”がどんな戦いなのか、これまで聞いたことも、見たこともなく、想像さえ出来ませんでした。
潜水艦や軍艦などによる戦争場面も思い浮かべてみましたが、この国は地下国家でしたから--。少なくともこの国の海域に軍艦が走る姿を見たことがありませんでした。勿論地上で戦車や、軍隊が実際に行軍する姿はなかったのです。
 ラムダ国の海岸はあくまで静かで、白い砂浜が幾重にも重なる砂漠、海岸近傍には珊瑚礁が豊かで明るい青緑色、遠くは濃紺に輝く海が続いているだけでした。穏やかな白い波がはるか彼方から次第に高さを増しながら寄せてくると砂浜を優しく愛撫するように洗う。それは熱帯にあるハワイやバリ島の海岸を見ているような印象を受けたのでした。
 本音を言えば「こんな静かな海で一体どんな戦争が繰り広げられているのか?」と好奇心がありました。が、しかし一方少し恐怖心があると言うのも事実でした。
 アレクは、エレベーターで二十階ほど地下にあるドーム場の広場に案内してくれました。
 其処では、研究室で暮らしていた私には、想像もつかないほど、多くの人々が、右へ左へと目まぐるしく、しかも整然と一つの流れになって動いていました。少し離れて見ると、例えが悪いかもしれませんがアリの戦場を見ているような印象受けました。
この国へ来てからこんなに多くの人々が慌しく活動している様を見たのは初めてでした。しかし「この国は確かに戦争状態にある!」という実感が(私にも)ひしひしと伝わって来るのでした。
 長方形型のドームの両側には潜水艇が停泊するためのドックがあり、小型の潜水艇が、縦列で数隻停泊していました。そして数名ずつ戦士が乗り込むと、潜水艇は直ちにチューブ状のトンネルに向かって運河を移動していく、すると次の潜水艇がドックに入ってくる。そしてまたトンネルを通って出撃して行く。絶え間なくこんな光景が続いていました。一方反対側のトンネルでは、出撃していた潜水艇が帰還してくる。そして時に怪我した戦士達が運ばれてくると、救護班の戦士達が応急処置をして、エレベーターで直ちに病室に運ぶ。一方整備班戦士達は直ちに潜水艇の点検に入る。広場には多数の戦士達が出撃を控えて待機していましたが、彼らの働きを潤滑に進めるため、多数の人々が出撃戦士の準備を手助け、新しい武器を運び、又使えなくなった武器を搬出したりするなど、とても効率的に忙しく働いていました。
よく見ると働いている人々は、補給戦士、救護戦士、整備戦士に役割分担されているようでした。そして戦場に出て行く戦士は、出撃前というのに緊張する様子もなく整然と隊列を組んで静かに待機していました。
 皆さん、その時私が何を見て驚いたか?と言いますと--戦いに出撃していく戦士達がみな女性だと知った時でした。
 さすがに私も絶句してしまいました。私の常識として、女性が戦場に出撃することは(よほどの例外を除けば)とても許さることには思えなかったのです。
 私的(わたくしてき)には、恐らく(医者の立場から考えて)人類にとって女には“戦”以上に重要な役割、つまり“種の保存”と言う生物学的役割があるのでは? と思っていたからでした。
この国では一体なんの為に“戦争”に女性が出撃するのか?−−−−私には理解できませんでした。

 それはともかく、この国の女性戦士は、皆オリンピック選手のように、広い肩幅に厚い胸、筋肉質な腕や太腿、いかにも逞しい体格をしていました。ただ、ヘルメットを装着している彼女達の横顔を見た時、私は再度驚きました。
 あの逞しい体型とは裏腹に、彼女達の顔に、まだあどけない天真爛漫な子供の面影を見たのです。私は一瞬「なんという酷い(むごい)こと?あんな娘達に戦争なんてむちゃな話ですよ!」と、私は咄嗟にアレクに叫んでいました。
 しかし、彼女達には、戦場へ“今”出撃するという躊躇い(ためらい)や恐怖心があるようには思えませんでした。


ジョージ北峰 |MAIL