ジョージ北峰の日記
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2005年04月24日(日) オーロラの伝説ー続き

 「 私には、あなたの要請に即座に答えることは出来ませんが、私のボスの許可を得てください。ボスを紹介してあげましょう。」と言うと、一瞬彼女は、戸惑った表情を浮かべ、小声で「いえ、私の国ではあなたを、出来ればこの研究所には秘密のままお呼びしたいのです」と、少し間をおいて(何時知ったのか不思議だったが)「あなたは明日から旅行されるのでしょう?」と意味ありげに囁(ささや)いた。 その時、私は少し「変だな」と感じはしましたが、しかし特に違和感がある会話とも受け取れませんでした。
 会場に目を転じると、パーティーはさらに盛り上がって、周囲の動きは一段と騒がしくなっていました。気がつくと楽団はタンゴを演奏していました。多くの参加者達がリズムをとりながら、思い思いにダンスを興じていました。
 彼女は「踊りましょう。」と言うと、有無を言わさず私を会場の中央に引き出しました。私は学生の頃、ダンスや日本舞踊などの身のこなしに興味を持っていましたので、少しはダンスの心得もありました。すぐに踊りの輪の中に溶け込めましたが、彼女は想像以上にすぐれた踊り手で、プロフェッショナルなダンサーとさえ思えるほどでした。
ドレスの割れ目から、豊満な肉体を想像させる太腿が時折覗き、それこそドキッとさせる程のお色気の発散に、踊っている私も正直圧倒されました。が、周囲の人々も、驚いたように踊るのを止(や)め、私達に注目し始めました。音楽が終わると、一斉にアンコールの拍手が、其処、此処で沸き起こる、すると、今度は一転して静かなメロディー“真珠採り”が演奏されました。
 シャンデリアの明かりが消され、会場全体が暗くなったかと思うと、私達2人は赤や青のスポットライトに浮き出されていました。しかし、彼女のひるむことのない、全身から溢れ出るような迫真(鬼気迫る)の踊り、妖艶ともいえる色気、それに今にも吸い込まれそうな切なく、情熱的な眼差(まなざ)しに、私はもう夢中で、彼女の動きに合わせるどころか、周囲のことを忘れ、我も忘れ、何時の間にか彼女をしっかり抱きしめていました。
 音楽が終わると、その時の会場の粋なはからいに、嵐のような拍手が湧(わ)き起こりました。
 私は久しぶりに興奮していました。しかし彼女の目にうっすら涙が光っているのも見逃しませんでした。
 私達が席に戻ると、ボスが背の高い、品の良い白髪の研究者と談笑しながらやって来て「君にあんな才能があるとは知らなかった。紹介しょう。」と彼の方を振り向くと「世界的に有名になったウイルスを発見したT博士だ、われわれのグループのエースだ。」と言い、私を見てウインクしました。そして彼女の方を一瞥すると挨拶もしないで、小声で「この国では女性に気をつけろよ。」と囁くように言いました。その雰囲気は、レディー・ファーストの国としては少しなじまないように思えましたが、構わず私は「明日から1週間、カナダにオーロラを見に行きますのでよろしくお願いします」言うと、彼は機嫌よく「そんな短期間でなく、もう少しゆっくり休暇をとってもいいんだよ」と答えました。
 それからボスは私達2人を残して立ち去って行きました。


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