ジョージ北峰の日記
DiaryINDEXpastwill


2005年04月03日(日) オーロラの伝説ー続き

 IV
  ジョージ北峰の日記DiaryINDEX|past|will 2005年04月24日(日) オーロラの伝説ー続き
 「 私には、あなたの要請に即座に答えることは出来ませんが、私のボスの許可を得てください。ボスを紹介してあげましょう。」と言うと、一瞬彼女は、戸惑った表情を浮かべ、小声で「いえ、私の国ではあなたを、出来ればこの研究所には秘密のままお呼びしたいのです」と、少し間をおいて(何時知ったのか不思議だったが)「あなたは明日から旅行されるのでしょう?」と意味ありげに囁(ささや)いた。 その時、私は少し「変だな」と感じはしましたが、しかし特に違和感がある会話とも受け取れませんでした。 会場に目を転じると、パーティーはさらに盛り上がって、周囲の動きは一段と騒がしくなっていました。気がつくと楽団はタンゴを演奏していました。多くの参加者達がリズムをとりながら、思い思いにダンスを興じていました。 彼女は「踊りましょう。」と言うと、有無を言わさず私を会場の中央に引き出しました。私は学生の頃、ダンスや日本舞踊などの身のこなしに興味を持っていましたので、少しはダンスの心得もありました。すぐに踊りの輪の中に溶け込めましたが、彼女は想像以上にすぐれた踊り手で、プロフェッショナルなダンサーとさえ思えるほどでした。ドレスの割れ目から、豊満な肉体を想像させる太腿が時折覗き、それこそドキッとさせる程のお色気の発散に、踊っている私も正直圧倒されました。が、周囲の人々も、驚いたように踊るのを止(や)め、私達に注目し始めました。音楽が終わると、一斉にアンコールの拍手が、其処、此処で沸き起こる、すると、今度は一転して静かなメロディー“真珠採り”が演奏されました。 シャンデリアの明かりが消され、会場全体が暗くなったかと思うと、私達2人は赤や青のスポットライトに浮き出されていました。しかし、彼女のひるむことのない、全身から溢れ出るような迫真(鬼気迫る)の踊り、妖艶ともいえる色気、それに今にも吸い込まれそうな切なく、情熱的な眼差(まなざ)しに、私はもう夢中で、彼女の動きに合わせるどころか、周囲のことを忘れ、我も忘れ、何時の間にか彼女をしっかり抱きしめていました。 音楽が終わると、その時の会場の粋なはからいに、嵐のような拍手が湧(わき)起こりました。 私は久しぶりに興奮していました。しかし彼女の目にうっすら涙が光っているのも見逃しませんでした。 私達が席に戻ると、ボスが背の高い、品の良い白髪の研究者と談笑しながらやって来て「君にあんな才能があるとは知らなかった。紹介しょう。」と彼の方を振り向くと「世界的に有名になったウイルスを発見したT博士だ、われわれのグループのエースだ。」と言い、私を見てウインクしました。そして彼女の方を一瞥すると挨拶もしないで、小声で「この国では女性に気をつけろよ。」と囁くように言いました。その雰囲気は、レディー・ファーストの国としては少しなじまないように思えましたが、構わず私は「明日から1週間、カナダにオーロラを見に行きますのでよろしくお願いします」言うと、彼は機嫌よく「そんな短期間でなく、もう少しゆっくり休暇をとってもいいんだよ」と答えました。 それからボスは私達2人を残して立ち去って行きました。 2005年04月03日(日) オーロラの伝説ー続き
 IV ワシントンのLホテルで開催された、国際ウイルス学会で私達のグループが発表した“動物を肥大化させる”奇妙なウイルス発見に関するニュースは世界の学者の注目を集めるところとなりました。 最近、北極圏に棲んでいる、または棲んでいた人々の男性に、偶然にしては不自然なくらい高頻度に精巣癌の発生することが話題になっていたのです。 今回、私達がその癌の発生に、あるウイルス(NP-12)が関与していると特定したこと、さらにそのウイルスの分離に成功したことに注目が集まったのですが、私達の実験でさらに注目されたのは、そのウイルスに感染した二十日ネズミの子孫に巨大二十日ネズミ(猫に匹敵する大きさ)が誕生したことでした。 つまり今回の研究で科学者が確認した注目すべき点は、二十日ネズミを使った実験でNP-12ウイルスが精巣癌を効率に発生させる、つまり男性の胚細胞を標的にすることでしたが、それ以上に彼等が興味を示したのは、感染ネズミを親として生まれた子孫に巨大ネズミが発生したことでした。この点に、出席者の議論が沸騰しましたが、実験の意味するところは不明で、さらに詳細な研究が必要だと言う結論で一致しました。 私が研究発表の中で、巨大二十日ネズミが猫を怖がらず、逆に猫が逃げ出す模様を動画で挿(はさん)だところ、出席者は大笑いで、何処からともなく大きな拍手が湧き起ったほどでした。 学会の最終日には、ホテルでパーティーが催されました。中央には多数のテーブルが用意され、周囲には趣向を凝らした料理がビュッフェ形式で準備されていました。会場は学会の地味な雰囲気とは一変して、女性はそれぞれお国自慢の衣装、目を見張るような赤、青、緑の派手なドレス、又色とりどりの派手なタキシード姿の男性出席者などで熱気に溢れていました。会場の一隅にステージが設けられ、やはり黒いタキシードで改まった印象の演奏家達が世界で知られた名曲をメドレーで演奏していました。一方参加者の中には、静かにテーブルで旧交を温めている人もあれば、大声で笑っている人、知っている音楽が演奏されると、屈託なくダンスに興ずる人達がいました。 私は人付き合いが苦手でしたので、端に位置するテーブルに腰掛け、美味しいお酒を飲みながら、途切れ途切れに、ぼんやり昼間起こった(ショッキングな)議論の内容を振り返っていました。 まさかあのウイルスが、地球上の生態系を破壊し自然界に大混乱を引き起こす可能性があるとは!--夢にも考えていませんでした。飲んでいたものの、そのことの意味する重大さに少なからず興奮していました。 その時突然、背後に人の気配を感じました。 何気なく振り返ると、小麦色の肌、長い黒髪、面長な顔立ちの女性と視線が合いました。彼女は魅惑的な笑みを口元に浮かべながらゆっくり近づいて来ると、 “ご機嫌はいかがですか?”と英語で話しかけてきました。最初は、エキゾチックな風貌で東洋人?と思いましたが—-しかしよく見直すと、彼女はまるで某国のスパイ映画のヒロイン役に出てくる女優のようでもありました。ただ目はガーネットのように赤みを帯びた褐色で、全身から溢れでる雰囲気からは動物的な印象を受けました。その上黒いドレスを着ていましたが、それがとても良く似合っていてあたかも精悍な黒豹の様にも見えました。 いやひょっとすると世界の3大美女と言われたクレオパトラもこんな女性ではないかと想像させる程の美形でもありました。 彼女は私の研究に大変興味があると、そして彼女も某国の科学者で生物の進化と遺伝子の働きについて研究していると言って、さらに何気ない口調で「出来れば、私たちのグループに協力して欲しい。」と言うのでした。 ジョージ北峰|MAIL


ジョージ北峰 |MAIL