ジョージ北峰の日記
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2005年03月16日(水) |
オーロラの伝説ー続き |
さて前置きが少し長くなりましたが、これから話そうとする今世紀始まって以来の、とてつもなく興味深いウイルスを発見したのは、ウイルス感染に関する研究で博士号を取得してから数年後のことでした。 私の学位論文は、人間に感染する動物ウイルス“X”の人における標的細胞(攻撃の対象になる)を病理学的に研究・解明したことでした。(此処で皆様に予備知識として、ウイルス感染について少しお話しておきましょう。ウイルスは人間や動物に感染する時、細菌やカビと違って感染する細胞に特異性があります。たとえば肝炎ウイルスは肝細胞に感染するが、腎細胞に感染することはありません。又狂犬病やポリオウイルスは神経細胞に感染するが肝細胞には感染しません。このようにウイルスの感染には細胞特異性があるのです。又動物間でも牛や鶏に感染する細胞は、本来種の異なった猫や犬、人間には感染しません。ウイルスは感染に際しては、動物種や細胞の種類を選択して感染する特質を持っているのです。 しかし時に動物のウイルスの性質が一端変化して人間に感染するように変異すると、人間にはそれらのウイルスに対して防御能力が獲得されていませんので、そのウイルス感染が爆発的に広がることになります。そのようなウイルスとしてよく知られている種にエイズや最近では鳥インフルエンザウイルスなどがあります。このこと、即ち他動物種にしか感染できなかったウイルスが変異を起こし人間に病気を起こす、と言うことが今大変問題になり始めているのです)しかしこの私の論文が発表されてまもなく、A国の動物ウイルス研究で有名なS研究所から共同研究を依頼する手紙が舞い込みました。 最近話題になるウイルス感染症のほとんどは、本来人間に対して感染性がなかったか、または地域限局型だったのが、今では、家畜の品種も広がり、新しい家畜から人が感染する機会が増え、あるいは又、人々の交流のグローバル化が切っ掛けとなって、本来は狭い範囲に限局する感染症だったのに、新しいウイルスに対して抵抗性の欠如した人間が旅行中に感染、方々に運搬することになって、世界的広がりを示すようになった、新種の病気なのです。私の研究テーマは、これら新しいウイルスの変異に関する研究でありました。 しかし私本来の夢は古生物ウイルスの発見とその機能、変異及び古代生物絶滅に及ぼした影響についての研究でしたが、A国での研究は、私の夢を実現する第一歩になると(大学で研究している時も絶えず)考えていたことなので、異存があるはずもなく、二つ返事で引き受けることにしました。 古生物(恐竜など)は爬虫類だったので、古生物ウイルスの分離培養には当然爬虫類の細胞を使うのが望ましい。しかしそれは現在進行中の研究と両立することが難しいかったので、それも考えた上で鳥の細胞を使うことを始めていました。鳥は爬虫類から進化した最も近縁な生物として知られているからです(皆さんは鳥と蛇の染色体がとてもよく似ていることをご存知でしょうか?)。しかも鶏の卵は現代のウイルス分離研究には欠かすことが出来ない有用な培養器なのです。だから古生物ウイルスの分離には鶏またはある種の鳥の細胞が威力を発揮するに違いないと、密かに考えていたのです。そんな理由もあって、私の研究には、鳥の細胞を使っていました。 しかし勿論A国に招待された理由は古生物ウイルスのことではなく、私が鳥や、豚など色々な動物種から採取し樹立した、培養細胞株を利用した、新しい病原ウイルスの分離培養やワクチン製造に関する研究でありました。
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