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■ (日記) 登校拒否ならぬ、登店拒否
去年のとある珍事件がきっかけで大きなショックを受け、その直後から体調や気力を崩し、無気力状態が長く続いていた。 きっかけはともあれ、人間が深く沈み込む要因や原因の根本は、自分自身の甘さや弱さや無力さを身に染みて感じた時の自己嫌悪によるものだと思う。
一日に起こる細かな全ての事柄が、いかにアタシに生きる気力をなくさせるかをもくろんで用意されているような気にもなり、何をする気力も無くなり、一杯一杯の精神状態にも拘らず、店を開けなければ明日からもう生きられない・・・と極限に至り、気持ちを奮い立たせて店に行けば誰も来ず、それに絶えられなくなり休めば必ず人が来る・・・と言う負のスパイラルにどっぷりと浸かり、店に行く少し前になると心と体が拒否反応を起こすのだ。
震えが来たり吐き気がしたり、酷い時にはただただ涙が出てくる。 そんな思いまでして行っても、その気配を感じ取り、お客が楽しい訳が無いと感じ、時間ギリギリで店に行く事が出来なくなる。 そうすると、夫や二匹の猫達と共に他愛の無い時間を過ごし、このまま干乾びて行った方がマシだと言う気持ちになってしまうのだ・・・・・・。
そんなブラックホールからそろそろ抜け出せそうな気がして来た。
昨日も親友二人にランチをご馳走になり、話をし、いつものように慰められ励まされ、その場では頑張らなきゃ・・・と思うのだが、やはり家に帰り夫の顔を見ると、このまま店に行きたくない・・・と感じてしまっていた。
でもこの拒否地獄から早く抜け出して、何かに打勝たなければアタシはぐうたら神の思う壺だと思い、ダメ元で店に行ったのだ。 案の定、11時まで誰も来ず、やっと来たかと思った一人の常連は、まだ今日はこれから仕事なのでと、先週の忘れ物を取りに来ただけで帰っていった。
「やっぱり来なきゃ良かったなぁ・・・・・・。ぐうたら神は本当にアタシを殺したいんだわ・・・」と独り言を言い、看板を消そうと思った時、一人の珍客が入って来た。 作業服を着た酔っ払いで、鼻息も荒く、体が前後に揺れている。 もちろん初めて見る客である。 実はこの手のお客はアタシの最も苦手とする客のはずなのだ・・・・・・。 別に外見等で判断するつもりは無いが、この手のお客がフリーで入ってくると、一応警戒心を持つのは仕方ない訳で・・・・・・。
「アンタがママさんかい! 外に語り処って書いてあるけど、ここはどんな店だいね・・・」 彼は尚も身体を揺らしながら、アタシに聞いた。
アタシは咄嗟に「もうソロソロ仕舞おうと思ってたところで・・・」と言おうかどうしようか迷った。 でも、客がゼロで売り上げが無かった訳だし、せめて電気代の元くらい取らなければと思い、例え柄の悪い客で何か有ってももう貧乏より怖いもんなど有るものか!!と開き直っても居たので「まぁまぁ、そんな所に突っ立っていないでどうぞお座りください」と明るく迎え入れたのだ。
お絞りを出しながら「語り所って言うのは、お客同士で語り合うも良し、アタシ相手に語り合うも良し、そんな意味合いで付けただけなので、たいした意味は無いんですけれどね・・・」と愛想笑いをしながら答えた。
珍客はアタシの顔を数秒眺め「んじゃ仕方ない・・・、入って来た以上、一杯だけ飲んでくか・・・」とカウンター席に座った。
見るところアタシより少し年上だろう・・・。作業服の胸ポケットには○△クレーンと言う刺繍が入っている。
「松本の方ですか?」と聞くと諏訪からの客だと言い、月に何度か松本に仕事に来ているそうだ。 いつもは日帰りで来るそうなのだが、たまに会員になっている常宿のホテルに泊りがけで飲むそうだ。 クレーン会社の相当上の地位に居る人だそうだ。 なので、後々の話の中での事だが、アタシの旦那の会社の事も詳しかった。
芋焼酎の水割りを注文され、アタシにも飲めというので同じものを一杯貰い、乾杯をしてカウンターの内外で飲み始める。 (あぁぁ・・・、飲んじゃったよ・・・。運転して帰りたいから折角今まで飲まずに我慢してたのになぁ・・・) とアタシは心で呟き、代行代の事が頭にチラ付いた。 (ま、良いか・・・・・・。行って来いなら飲まなきゃ損損) ・・・ってなもんである。
その珍客は、如何にも職人らしく、時に露骨なシモネタや下世話な話も飛び出すのだが、でも、顔付きが悪い人間では無さそうで、野村監督と加山雄三を足して2で割ったような顔をしている。 ちょっとヤンチャでダダッコなんだろうが、何かの魅力を含んだ人間だと言う事が窺い知れ、多少の警戒心はあったものの(管轄内だわ・・・)と再び心で思い、媚びる訳でもなく、機嫌取りをする訳でもなく、アタシは普通にフレンドリーに接する事にした。
話している内に先方もアタシに興味を持ち始めたらしく、「アンタは中々面白いママさんだねぇ・・・」と言い、どんどん飲みなさいと酒を進めてくれた。
その内「ここは歌える店か?」と言うので「カラオケ有りますよ〜。アタシもこう言っちゃナンですが、歌はプロ並みです」と言ったら、「んじゃ、歌おう歌おう!!」と言う事になり、カラオケタイムまっしぐら。
彼が先に歌ったのだが、皆様、彼は何を歌ったと思います? それが外見から見て想像を遥かに絶する歌でした。
な、な、なんと、彼はカルメンマキの「時には母のない子のように」を歌ったんですねぇ・・・・・・。 しかもコレが上手で上手で、大変味の有るイヤミの無い歌い方なんですよ・・・。
(やっぱ、アタシの見る目は正しかった・・・) またまた、心の中で思い、アタシは徐々に楽しくなってきた。
「ママも歌ってよ」と言うのでカーペンターズのイエスタデー ワン スモアを歌ったら、「やっぱ、俺の感が当たってたわ・・・。ママの歌は染みるね・・・。やっぱ、この店に入って良かったんだなぁ・・・」と言ってくれ、それからはもう、60年代70年代の懐かしい歌と会話に明け暮れた。
結局彼は酔っ払いなので自分の分は1杯に留まり、アタシに5杯の焼酎を飲ませ、カラオケを二人で15曲も歌い、代行代のチップまで置いてってくれた。
彼はアタシの想像通り25年生まれだそうで、アタシより5つ年上だった。 彼の知人にはゴスペルを歌っている歌仲間も居るそうで、アタシが大好きだったシンセサイザー奏者の喜太郎も友人だそうだ。
「変な店とママに引っかかっちゃったけど、ここは面白い店だなぁ・・・・・。覚えてたら又来るわ・・・」そう言って彼はフラ付きながら帰って行った・・・。 今朝は6時から仕事だそうだが大丈夫だったかなぁ・・・・・・。
昨日の珍客が、又アタシに店をやる楽しさと勇気と自信を持たせてくれたような気がした。 アタシはまだまだ客を楽しませる事が出来るのだと言う・・・・・・。 だってほんの一杯引っ掛けて行くつもりだったフリー客に8000円も使わせられたんだもの・・・。それも「安い!!」とまで言わせて・・・・・・。 2000円のチップまでこんな婆さん置いてってくれて・・・・・・。
又彼と飲んだり歌ったりしたいよなぁ・・・・・・。 今度は一軒目の店として来てくれると言ってたが、ハテ・・・、彼は覚えているだろうか・・・・・・。 そこが心配だ。
まぁ、もしかしたらぐうたら神が送り込んできた、あっち側の人間なのかもしれないから、幻の珍客だったのかもなぁ・・・・・・。
あっち側の人間とこっち側の人間に付いては、長くなるので又の機会に日記で書こうと思う。
2010年01月15日(金)
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