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■ 【短編小説仕立て】 薮原祭り(2)
10年前、初めて行った薮原祭りの日、あの日も私とフゥーリィーは陰惨な大喧嘩をした。 当時12歳だった息子が出掛けにモタつき、息子を怒鳴りつけたフゥーリィーの言い方のあまりの酷さに、私が庇って抗議した事から、とんでもない大喧嘩になったのだ・・・・・・。 息子は自分のせいだと傷付き、「僕、行かない方がいいんでしょ・・・」と車の中で泣いていた。 ソレを見て余計にイラ付いたフゥーリィーは、今回のようにわめき散らしながら乱暴な運転をしたのだ。 車の座席で私と息子は、やりきれない悲しみと恐怖心と怒りでうち震えていた。
それでも車が着いてからは、私も息子も何事もなかったかのように心を切り替え、実家の皆に悟られぬよう、精一杯ふつうに振舞った。 あの日の光景が、私の心にヒリヒリ痛む苦い思い出として、いつまでもトラウマになっている。
フゥーリィーは一度切れ出すと、原因がどうであれ手に負えなくなる。自分が明らかに間違っていると解っていてもだ。いや、自分に非がある時にこそ尚更、どんどん怒りの土壺に自分を追い込んで行く癖がある。結局のところ、最終的には彼の怒りの矛先は、引くに引けなくなっている自分自身に向いているのではないだろうか・・・・・・。
私も息子が居た頃は、息子に八つ当たりされるのを恐れ、随分と言いたい事も遠慮していたが、本来は物凄く負けん気の強い女である。自分が間違っていないと確信したら、決して引かないタイプだ。そして私も底意地の悪い嫌な人間なのだ。 辛らつに辛口に、容赦なく噛み付き攻め込んで行くので、口下手な相手にとって見れば最も許しがたいタイプなのだろう・・・・・・。
しかし噛み付けば噛み付くほど止めどなくエスカレートして行くので、暴力沙汰になるのを防ぐ為、最終的には私が理不尽な思いをかみ殺しながらも、黙り込むしか術が無い。しかし、黙り込めば黙り込んだで、今度は返事をするまで執拗に怒鳴り散らしてくる。もうこうなると単なる虐めに過ぎない・・・・・・。(苦笑) 向こうが凶暴になれば狂暴になるほど、私は冷めて冷酷になって行く。それが又、向こうの癇に障るのだろう・・・・・・。
何故にこの人は、自分の里へ帰ると言うのに、毎回こんな嫌な思いをさせるのだろうか・・・・・・。私たちの故郷へ帰るわけでは無いじゃないか・・・・・・。もしも私だったら、もっと相手が自分の実家に楽しく来易いように、相手にひときわ気を使うだろう・・・・・・。 折角楽しみにしていたのに、もう、こんな心理状態ではとてもじゃないが行けるわけが無い・・・。 「車を停めて! 此処で降りるわ。 皆には突然貧血を起こしたとでも、何とでも言っておいてちょうだい」私は吐き捨てるように言った。 「まだ言ってやがる! イツまでもそんなこと言ってると、本当にこのままどこかに突っ込むぞ!!」 再びフゥーリィーはグィンとスピードを上げる。 【もう勝手にすれば良い・・・・・・突っ込むなら突っ込めば良い・・・・・・】 私は実に、もう、どうでも良かった・・・・・・。 【こんな事で死ねるなら、かえって滑稽で面白いじゃない! お金の辛さや全ての困難から開放されるなら、願うところだわ!!】そんな気分だった。
薮原祭りの時に限って、何故いつもこんな喧嘩になるのだろう・・・・・・。
以前、霊能力のある人に、フゥーリィーの祖先である守護霊が、12単衣を着たような気位の高い人だそうで前世で夫を溺愛していたみたいだ。その人が私に嫉妬していると聞かされた事があるのだが、もしかしたらその霊が、私が祭りに行く事を拒絶しているのかもしれない・・・・・・。私は乱暴に蛇行する車に揺られながら、放心状態の中、そんな事をボンヤリと考えていた・・・・・・。
(次回に続く)
2004年07月14日(水)
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