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■ (日記) 空白の10日間&書評【蹴りたい背中】
サテ・・・・・・、この暗澹たる気分の10日間、一体私は何をしていたかと言うと、松本周辺は桜が満開だったと言うのにカラッケツなので花見にも行けず、松本城や川原などで花見に盛り上がる群集達を羨ましげに横目で見下げながら、そんな憂鬱な日々を少しでも有意義にやり過ごしたく、3冊の本を読み、せめてオフラインでもいいから文章を書いていようと、1作の童話と1作のエッセイを書き上げ、文芸公募に応募したりしていた。 一縷の望みを託し、「少しでも賞金ください」と声に出し、拝みながら投函した。
そして、読んだ本の内2冊は、芥川賞受賞作【蹴りたい背中】と【蛇にピアス】である。 もちろん新書など、この所買ったことが無いし買えない。 ・・・と言うか、正直言って、買ってまでは読みたいとも思わなかったのだが・・・とても興味はあった。ww
わが愛しのネット仲間【バツ】が余りの私の貧困さに同情し、ウイルスソフトをプレゼントしてくれると言われたのだが、バツは本好きらしく、以前新書を買って読み終わった物を送ってくれた事があるので、もしかしたらもう読んだかなぁ〜なんて期待し、もし持っているなら借りようかと思い聞いて見たら、ナントわざわざ買って送ってくれたのだ。 【催促がましい事を言ってしまったと深く反省しております(滝汗)】
当然バツはまだ読んでないと思われるので、私は普段本を読む時、面白い表現や、絶妙に心にタッチした文節などに、赤鉛筆で波線を描くクセが有るのだが、その衝動をグッと堪え、ページめくりに指唾を付ける事もグッと堪え、ひたすら汚さぬように気を配りながら綺麗に読み終え、新品同様のまま、お礼の手紙と共に先日バツに送り返してあげた所だ。
その読書感想文を今日は書くことにしよう。 取りあえず今日は、綿矢りさ著書の【蹴りたい背中】から・・・・・・。
世間の評判は賛否両論になっているようだが、正直言って私はストーリー性の良し悪しはともかく、主人公の気持ちを大変面白く、表現力の巧みさに感心させられながら読ませてもらった。 ストーリー展開も登場人物も小枠で、間口は狭い作品なのだが、それだけに主人公の心理描写や、それぞれのパーソナリティーがよく描かれていると思う。
主人公の【ハツ】は陸上部に所属する、何処か冷めた感情を持つ高校一年生。 背中を蹴られる同級生の【にな川】は、狂人じみたアイドルオタク。 二人ともクラスの余り者同士。
人と馴染む事を鼻白み、拒絶しながらもどこか寂しく不毛なハツは、独りを徹底的に受け入れているにな川に、友情とも軽蔑とも恋とも違う、何処かもどかしげで、DVにも似た少し歪んだ興味を示して行く。
ハツには【絹代】という中学時代からの親友が居るが、高校に入ると絹代はハツの存在に気遣いながらも、グループ付き合いにはまり込んで行く。 立場上、絹代はハツをグループに引き入れようとするのだが、ソレが本心からではないと見抜いているハツ。【グループ付き合いなんて煩わしい】と、ハツは溶け込もうとはしない。 グループとハツの間で揺れ動き、どっち付かずでいる絹代に薄く失望しながらも、そんな絹代を排除し切れないハツ。
そんな中、にな川が熱狂している2流アイドルである【オリチャン】に以前ハツが偶然にも出遭った経験談から、ハツとにな川との間に奇妙な交流が始まって行く・・・・・・。 そんな出だしで始まって行くストーリーなのだが・・・・・・。
主人公ハツの大人びた虚無感と、まだ幼さが見え隠れする心の動揺。 何処かでは人と交わってはいたいのだけれど、煩わしさとくだらなさに、もう一歩を踏み出そうとしない排他的な感情などの微妙な表現がとても繊細に描かれている。
結果は、恋に発展するでもなく、かと言って、ありきたりの苛めに発展するわけでもなく、これと言ってストーリー的に大きな山場があるわけでもなく、ドラマチックでもなく、物語の終末は何事も起こらず終わっている。 正直言って今ひとつ何処か物足りなさを感じる作品である事も否めない。
でも、主人公の気持ちや思いが中学の頃の私そのものだったよなぁ・・・、と言う、強い共感を覚え、ソレを19歳と言う若さで見事に、上手に、又、実に正直に書き表せている事に、私はえらく感心させられた。
「人にやってもらいたい事ばかりで、自分は人に何もしてあげていない」と言う主人公の反省心。 絹代がハツに向かって言う「ハツは自分の事ばかりしゃべりまくるでしょう? 人の知らない世界観を・・・・・・。人は相槌を打つしかないじゃない・・・。ハツとは会話が成り立たないじゃない・・・・・」と言うようなニュアンスの忠告。 何事もそつなく、ユーモラスに無難にこなし、人気取りを無意識のように見せかけ意識しているコーチに対する反発感。等・・・。 私自身が感じていた世間に対する白々しさや、人とつるむ事の拒絶感や、自分自身への失望感や反省等、共通部分が実に多い作品だった。
嘘は書けても、知らない事や、身に覚えの無い感情などは書ける物ではないのが文章だ・・・、と、私は思う。 似た者ついでに、主人公の名前が私の本名と同じなのにも驚いた。ww
登場人物の性格が極端ではなく、かと言ってそれぞれが個性的ではあり、ハツはハツらしく、にな川はにな川らしく、絹代は絹代らしく、コーチはコーチらしく、そんな人って実際居るよなぁ〜と言う観点で書かれている。 それぞれの登場人物の心の動きが自然で、作意の無いすがすがしさを覚えた。 これからの作品にも興味が沸いた。 きっと成長して行くにつれ、ドラマ性の深みも増し、彼女独自の世界観を確立させていくんだろうなぁ・・・・・・。
そして、ドラマチックな山場や既存の結末が無いからこそ、世にありていな、悪者は徹底的な悪者、意地悪は徹底的な意地悪、健気な人間は徹底的に健気・・・・・・と言うようなうそ臭い、極端な登場人物の個性の役付けがされてなく、また、主人公にも自意識過剰的な自己愛も奢りも無いのだと思った。 多分著者本人が似通った経験をし、感じたままを素直に描いた作品なんだろう。 なので自然で有りながらも実に新鮮な読み味を味わえたのだ。
突然話は変わるが・・・。山場で思い出したのだが【○丹と○薇】と言う、例の、話題の昼ドラみたいに、チト見ている方が気恥ずかしくなるような余りに現実離れした狂気じみたグチャグチャさ、ドロドロさ、イマドキの時代にこんなのアリかぁ!?と言うむちゃくちゃなストーリー展開に辟易しながらも、一種の怖いもの見たさ、酷いもの見たさ(失礼!)、何処までやるん? 的、物珍らしさで、不本意ながらも後半一週間目辺りから毎回ついつい見入ってしまった私なのだが・・・・・ww。 原作者はまさか、喜劇的観点で作ったのでは無いだろうと思うけど・・・・・・。私は、ありゃぁ〜喜劇だよ・・・、と思う・・・・・。 ドラマに関してはかなり冷めた目で見ているこの私とあろうものが、思わずあの毒々しい不思議なもくろみにまんまと惑わされてしまった鼻持ちなら無いドラマである。ww 原作者はきっと大真面目で書いた作品なのだろう。 なので、もしかしたら原作はあれほど面白くないのかも知れない。 アレは演出家の一種、【毒食らわば皿まで】式たくらみが大成功を収めたドラマだと思う。
ソレとは打って変わって、【蹴りたい背中】をドラマにしたら、一体どんなドラマになるのだろうかと言う興味を持ったのだ。 ストーリー展開の浮き沈みが無いので、主人公の心の内面だけで展開していく物語をドラマ化するのはかなり難しいと思う。 あの主人公の虚無感、寂しさ、残酷さ、飢餓感と言う心理描写を、演出家はどういう風に役者に表現させるのか、どんなセリフで表わさせるのか・・・・・・、是非ソレを見てみたい。 又、演じる方も、結構難しいのではないかと思う。 コレをドラマにしたら、【○丹と○薇】とは反対に原作よりもきっと詰まらないドラマになるかも知れない。 でも、とても見てみたい・・・・・・。 誰か作って〜。ww
【蹴りたい背中】も、【蛇にピアス】も、場面設定が対照的な作品でありながら、何処か似通った所が有る。 イマドキの高校生の殺伐としたやり場の無さや、動じない感情。言い表しがたい飢餓感などが良く描かれている。 両方にえらく共感を覚えてしまった私は、きっとあの年代のまま、心の成長が止まっているのかもしれない。
明日は【蛇にピアス】の感想を書こう。
2004年04月15日(木)
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