|
|
■■■
■■
■ 【ショート小説】火曜日の客
今日は、せっかくの日曜日だって言うのに、6時に目が覚めてしまった。 いや、正確に言うと、6時に起こされた。 原因はミュウー(愛猫)だ。 最近ミュウーは、電話を掛ける事を覚えた。(爆) 「プルルルルル・・・・・プルルルル・・・・・・(ガチャッ!)お掛けになった電話番号は、現在使われていません。番号をお確かめになって・・・・・・」 手ぶらフォンのスピーカーから、そんな声が聞こえて来る。
私は主人が、主人は私が、どこかへ電話を掛けたのだと思い、お互いに「こんな早くからどこに電話してるんだよ〜」と、異口同音で呟いたのだ。 「俺がするわけ無いだろう・・・・・・」「私じゃないわよ」 そう・・・・・・、原因はミュウーである。
前はファンヒーターを付ける事を覚えてしまい、蒼くなった事が有る。(爆) どこかから帰ってくると、付けた覚えの無いファンヒーターが付いているのだ。 それも、ミュウーの仕業である。 まさか・・・、寒さでつけようと思って付けた訳ではないのだろうが、アイツなら遣りかねない・・・・・・( ・_・)ジッ 最初は、偶然、飛び乗った拍子にに付いてしまったんだろうけど、アイツは、飼主に似ず、頭がすこぶる良い。 2度目3度目は、偶然とは言い切れない。 どうやら、味を占めたらしい。 そんな訳で、我が家の電話や、ファンヒーターには、それなりのガードをはめ込むことにしたのだが、真に、使い勝手が不便になった。
さて・・・、今日の作品は、限りなく実話に基づいた、架空の話、第2段。(爆) 『火曜日の客』を、お送りします。(ショートショート) チョイト長目ですが、読んでください。
『火曜日の客』
「うわっ! 凄い雨だよ、ママ。どうりで暇なわけだわ・・・・・・」 余りの暇さに、外を覗きに行ったアルバイトの江美が、ドア越しに、そう、ぼやく。 店内には、一人の客もいない。 私は、壁に掛けられた時計に目をやると、 「もう十二時半か・・・・・・、江美、今日はもうダメそうだから、店閉めるか。明日、仕事有るんでしょう?」と、溜息混じりに言った。 「本業は、午後の2時からだし、全然大丈夫。それにまだ誰か、来そうな気がするんだ」 江美のそういった予感は、結構当るのだ。 私はクスリと笑うと、カラオケのリモコンを操作した。 「それじゃぁ、景気付けに歌でも練習するか」 「賛成―」
―私がこの『淋しがり屋』と言うパブを経営してから、もう一二年になる。 モノトーンに統一された、収容人数三十人程の、一寸洒落たパブだ。店内にはピアノが置いてあり、偶に、ライブなどのイベントも織り込んだこの店は、低料金で遊べるアットホームな店だった。 何時もなら、若い常連客達でかなりの賑わいを見せているのだが、さすがに火曜日の、この大雨とあって、十一時頃に二組の客が帰った後は、途絶えたまま、人っ子一人、入ってこない― 江美と交互にカラオケで遊んでいると、店のドアが開いた。私は思わず、江美の顔をまじまじと見据えた。 「ホ・ラ・ね? 私の感、今日も冴えてるっしょ?」 小声で呟き、江美はウインクをした。 『いらっしゃいませ!』 ずぶ濡れになりながら入ってきたのは、常連客の、聡だった。 私と江美は慌ててマイクを離すと、カウンターの中に回り込み、接客の準備に取り掛かった。 「ゴメンネ? あんまり暇なんで、今、江美と歌の練習してた所なの。それにしても、こんな土砂降りの中、わざわざ来てくれるなんて、さすが聡君だわ。さ、これで服を拭いて」 聡は、笑いながらおしぼりを受け取ると、「隆も、今にくるからさ、きっと・・・・・・」と言い、頭から滴り落ちる雨の雫を拭った。 「あれ? 隆君だけ? 幸一君、今日は来ないのぉ?」江美が、チョッピリ淋しそうに、そう聞いた。 「残念でした〜。幸一は、ヨッパだもんで、さっき、一件目の店を出た後で、送ったよ」 聡は、江美の心を探るように言った。 「なぁ〜んだ・・・・・・、ショック!」江美は、あからさまに落胆した様子だった。 聡(さとし)、隆(たかし)、幸一の三人組みは、いつも一緒に来る仲良しトリオの常連客で、その仲の良さには定評があった。 三人は同じ製薬会社の同期で、成人を迎えた直後から、この店を利用してくれている。何時も必ず三人一緒で、週、1〜2度は来ている。この店の常連客の中でも、最も来店成績ばつぐんの客だった。その中の幸一に、江美は皆に公認で、恋をしているのだ。 「さぁ、ママも、江美ちゃんも、一緒に飲もうよ、それとも恵美ちゃんは、幸一が居なきゃ、ダメかい?」 「ま、ね・・・! 聡君じゃ、チョット役不足だけど、仕方ないから付き合うか」 恵美の憎まれ口に、聡は口をへの字に曲げ、 『ママ〜。ココは女の子の教育がなってないよ〜」 と、苦笑した。
「乾杯〜」 聡のキープボトルを、三人で飲み始めた所に、隆が入ってきた。 「いらっしゃ〜い。聡君がお待ちかねよ」 隆は聡の隣に座ると、何時になく愛しむように、店内を見回している。 「この店に通いだして、もう十年か・・・・・・、あっという間だったな・・・・・・」 隆の独り言に江美が水割りを差し出しながら、 「十年前か・・・、私、まだ十三歳だった」 ペロリと舌を出しながら呟いた。 「ママは幾つだったっけ? あの頃」 聡が私にそう聞いた。 「あの頃は、まだ三十になり立てで、女盛りもいいとこよ。結構イケテタわよね?恵美なんて目じゃなかったわ!」 辛らつな会話が飛び交い、歯に衣を着せぬ気軽さも、この店の親しみやすいところでもあった。 「さー、皆で乾杯の、し直しだ!」 聡の一声で、皆は再びグラスを合わせた。 この夜の話題は、今まで起こった、この店での数々のエピソードに終始した。 3人が、初めてこの店に来た時、どんな店か解らずに、少しビクビクしながら、初めてこの店のドアを開いた日の事― 忙しい日には、買い物や、カウンターの中の仕事まで手伝わされた時の事― 三人で江美に惚れこみ、密かに江美の心を奪うのは誰か・・・と、賭けをしていた事― 結局、江美のハートを射止めたのは、幸一で、その晩、聡と隆は、ひどく酔っ払い、半ばヤケクソで、泣きながらカラオケをがなっていた事。 無銭飲食の小父さんを、三人で追いかけて捕まえてくれた日の事―しかし、説教をしてる内、何だかその小父さんが哀れになってしまい、酒や食事まで出してしまった私の事を、暫くの間、皆「夜行性の聖母マリア」等と変てこりんなニックネームで呼んでいた― 皆で行った、花見や、遊園地、その時の想い出話やエピソード等、話は尽きなかった。 「俺達にとって、この店は、故郷みたいなもんだからなぁー」 聡がしんみりと、そう言った。 「うれしい事、言ってくれるじゃない?」 私は、ほろ酔いのせいもあり、少し涙ぐんで、そう答えた。 「今日は、江美にもママにも、俺達が一番好きだった歌を、一曲づつ歌ってもらいたくてこの雨の中、わざわざ来たってわけさ」 隆がそう言った。 「ハイハイ。そんなのお安い御用だわ、心を最大限に込めて、歌わせてもらうわよ。で・・・、何が良い?」 「俺は・・・、江美ちゃんには、ディアー・マイ-フレンドで、ママにはマイファニーバレンタインがいいや」 聡のリクエストが決まり、私と江美は、順番に、そのリクエスト曲を歌った。 「じゃぁ・・・俺は、江美には中森明菜の、水に挿した花で・・・、ママには、ヘレンメリルの、帰ってくれたら嬉しいわ、がいいなぁ」 私はジャズ系、江美は、ポップス系の歌が得意である。聡も隆も、目をつむって、真剣に耳を傾けていた。 「ありがとう・・・・・・、今日はとっても楽しかったよ。それじゃ俺達、ソロソロ行くね。あっ、そうそう、これ幸一から江美にって・・・」 隆が、江美に小さな箱を手渡した。 「もしかしたら、婚約指輪かもよ〜?」 私は、恵美をからかった。 「わ〜、何だろう・・・・・・? ドキドキだわ」 二人は微笑んで目配せをすると席を立った。 「えーっ、本当にもう帰っちゃうの? どうせなら最後まで居ればいいじゃん。まだ二時十分だよ? あっ、そうそう・・・、そう言えば二時十四分って、霊界の扉が開く時間なんだって。知ってた? 今帰ったら、二人とも幽霊に襲われちゃうかもよ?」 江美がそう呟いたと同時に、私の体の中を、ヒヤリとした何かが、確実に通り抜けた。 「や、止めてよ江美・・・・・・、私が怖がりだって事知ってるでしょう?」 私がそう江美をたしなめると、聡と隆は、あははと笑いながら、ドアを開けた。 「明日もまた来てね?」 私が、ジョークで、そう声をかけると、聡と隆は、振り向いて、淋しげに笑った。 翌朝、私は携帯の着信音で目を覚ました。 時計に目をやると、まだ朝の六時だった。 携帯電話には幸一の名前が表示されている。 「一体、こんなに早くどうしたっていうのよ・・・・・・、私、ついさっき寝たとこよ?」 私は欠伸をかみ殺しながら、そうぼやいた。 「ママ・・・、今、大学病院からなんだけど・・・、昨夜、隆と聡が、俺のせいで死んだんだ・・・。 俺、どうしたら良いんだよ・・・・・・」 悪い冗談にも程があると、私は少々ムッとした。 「こんな時間に電話をよこして、何てバカな冗談言ってるの! 二人なら昨夜ちゃんと飲みに来たわよ」 幸一の声は涙で震えていた。 「嘘だ! 昨夜、俺、一件目の店で泥酔しちゃって・・・、でも、何が何でも『淋しがり屋』に行くって聞かない俺の車のキーを、聡が『危ないから!』ってむりやり奪い取って、俺を先に家まで送り届けてくれたんだ。でも、どうしても江美に渡したいものがあるって言い張る俺の代わりに、二人が届けてくれる事になって・・・・・・。その途中、雨で車がスリップして、対向車のダンプと激突して・・・・・・」 「だ・か・ら! 昨夜、ちゃんと二人で飲みに来たって言ってるでしょう? プレゼントも江美がちゃんと受け取ったわよ・・・・・・」 「ママ・・・、二人が来たのって、何時ごろ?」 幸一の声は、明らかに震えを増していた。 「十二時半を少し回った頃だけど・・・・・・」 「その頃なんだよ、二人が事故を起こしたのは! 二人とも即死だったんだ・・・・・・」 絶句する私の手から携帯電話が滑り落ちた。
2002年05月12日(日)
|
|
|