マキュキュのからくり日記
マキュキュ


 【限りなく実話に近い架空の物語】悪夢の昼下がり (後編)


                   
こういう場合、皆どうするのだろう。
まさかテレフォンサービスの人生相談に訴えるわけにも行かないし、警察に掛ける訳にも、保健所に掛ける訳にも行かない。
 明美は本来、動物気狂いだ。どんな動物でも大好きなのだ。例えネズミだろうが蛇(動物?)だろうが、噛んだりしないという確約が在れば、平気で触れる。
但し生きていればの話だ。
死んだもの、或いは死に掛けているものは、まったく駄目なのである。とてつもなく恐怖なのだ。哀れさと気持ち悪さの中に痛さを想像してしまう。勿論触る事も、見る事さえ出来ない。さっき瞬間的に見てしまった時は、ヒクヒクと、まだ確かに動いていたのである。そう言う残虐なシーンは、テレビの動物物でもしっかりと目を閉じる。

 キムが雄叫びをあげながら、ムキになってガリガリとドアに爪を立てる。
「ダメよ! ダメ! 死んでも入れないわよ! 何でそんなもん連れてくんのよ! 馬鹿猫! 私があんたに何をしたって言うのよ、頼むからどこかに連れて行ってよ! あー膀胱が破裂しそう・・・」明美は半狂乱になり、今度は大声で泣いた。

 もう、こうなったら最後の手段。明美は叱られるのを覚悟で、往復一時間以上は掛かる所に所在する浩介の会社に電話を掛けた。
しかし、あいにく浩介は、配達に出ており留守だった。

戻り次第、連絡をするようにと、涙声で伝言を伝える明美に『どうかしましたか?』と電話の相手が心配げに言う。
「い、いえ・・・べ、別に大した事ではないですけれど、一寸聞きたい事が在りまして・・・」と仕方なく電話を切った。

 何かをしていないと落ち着かないので、寝室に置いて在るパソコンに向かい、体を揺すりながらも、保母の友人に依頼されていた、ボランティアで書いているオリジナル童話の続きを打ち始めた。
 極限状態の中、小一時間ほどして、やっと浩介から、緊張気味の声で電話が入った。
 きっとさっき電話を取り次いだ人が、ただならぬ様子だったと伝えたのだろう。
「どうした?」という声に、半ば放心状態で「助けて・・・・・・」と、明美。
よほどの事態だと思ったに違いない。浩介の声が叫びに変わる。
「だからどうした!」

「ネ、ネズミがキムを・・・ち、違う・・・。キムにネズミを・・・ちょ、一寸待って・・・」と、しどろもどろになりながらも、やっとの思いで明美は事態を説明した。
「このクソ忙しい時に・・・アホ!」そこで空しく電話は切れた。
(・・・・・・!)
(いや、きっと浩介は来てくれる)明美はそう固く信じて、ずっと待ち続けた。
 気分を落ち着けるために立て続けにタバコを二本吸った。
 ドアの向こうでは相変わらず、キムがドアを開けようとヤケクソで、もがいている。

 何も考えまいとキーボードを無心に打ちながら、待つこと約三十分。
ようやく玄関で物音がした。しかし玄関の開く音がしない。
ピンポーン、ピンポーンと苛立たしくもチャイムばかりが鳴っている。浩介ではないようだ。きっと郵便か集金に違いない。かなりしつこく鳴っている。

(うっせーな! 出たくても出られねーんだよ、この馬鹿タレメ!)明美は立ち上がることすら出来なそうなのだ。よしんば立ち上がって二階の窓から声を掛けたところで、下に行くにはそのドアを開けるしかないのだ。
こうなりゃ居留守を使うしかない。明美は二階に居るにもかかわらず、何故か息まで殺し、手元のリモコンでテレビの音も消した。

惨めだった。(何で私がこんな目に・・・・・・)

 ふと究極に貧乏だった頃を思い出し、思わず苦笑する。
(昔、よく在ったっけ、こんな事が・・・・・・ウフフ、浩介と二人でシーッ・・・なんてやっちゃってさ、あの頃は貧乏でも愛が在ったよなー)

あー、それどころじゃない! 早く助けててくれなきゃモ、モ、モレルーッ。
 明美は思わずあたりを見渡す。しかしオマルの代わりになりそうな容器は、何一つ無い。

あーもうダメだ・・・・・・。限界・・・・・・。

そう諦め掛けた時、玄関の開く音がした。
(た、助かった・・・・・・)明美の口から、安堵の溜息が漏れる。
 浩介はぶつくさ文句を言いながら、階段を上がって来ると、ドア越しに「早く開けろ!」と怒鳴っている。
明美は恐る恐るドアを開けると浩介に抱きついた。
浩介はにべも無く、そんな明美を押しのけて「忙しいんだから!」と言うと、ティッシュをわし掴みにし、その無残な物体を、いとも簡単に掴んだではないか。

「おやっ? オイ、明美、来て見? 珍しい・・・・・・。これモグラだぞ?ホレ、」浩介はティッシュで掴んだソレを、ドアを開き、明美に挿し出した。

「ギヤーッ! 止めてーっ!」

 そして叫んだ途端、それまでの緊張感が一気に緩み、妙に生温かい物が、放心状態の明美の両足の間を、とめどなく滴り落ちた。

                          [完]

  (シツコイようですが、これは、間違いなく、架空のドラマです)(*^_^*)


2002年04月14日(日)

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