睦月の戯言御伽草子〜雪の一片〜 Copyright (C) 2002-2015 Milk Mutuki. All rights reserved
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そういえばここで名前で呼ばれたことがない 名前を忘れたことになっているらしい・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
実際思い出そうとしても思い出せない。かといって無理に思い出そうという気にもならない。名前がなくてもなんとなくここでは過ごせた。やはり旅籠という環境のせいだろうか?そういえば僕はここに来る前はどこにいたんだろう? 何のためにここで長く逗留してるんだろう?
いわゆる湯治客?それにしてはどこが悪いのか・・・ でも、誰もが言うのは「空から降ってきた」
僕は突然降ってきたのだ。しかも空から雪とともに・・・
降ってくるものなのか?落ちてきたのではなく?
人間なのに?
ああ、そうやって考えると僕が今いる世界はいろんなことがおかしい どこがおかしいか?わからない。その前にこの世界の前って? ここに来る前って?
考えれば考えるほど疑問は増えるけれどもそれを深く考えようとは思わない。 わからないときは主人に聞けば答えをくれる。疑問に答えがなくてもここの時間過ぎていくし答えは必要のない生活だし・・・
ひとまず、いろいろ考えても仕方がない。ここの主人が自分の代わりにみんなの家での様子を見てきてほしいというのだからそれだけのためだし、いつもこの旅籠の周りしか見てないし三叉路の先も気になる。行ってみるだけ行ってみよう。
「荷物は少ないほうがいいですよ。食べるものはお持ちにならなくてかまいません。寒暖の差がありますから防寒着は必要ですね・・」 六地蔵の末っ子は手馴れた様子で僕の荷物を包んでいく。
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