睦月の戯言御伽草子〜雪の一片〜 Copyright (C) 2002-2015 Milk Mutuki. All rights reserved
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翌朝、珍しく主人が僕の部屋へ来た。 「おはようございます。よくねむれましたか?」 「おはよ〜・・・一応」 「そうですか、お願いがあるので着替えたら茶室にきてくれませんか?」 「うん」 それだけ言うと主人は部屋を出て行った。 宿は昨日までとうってかわって静かだった。いつもはどこかで働いている花の声や使用人をしかる番頭の声が聞こえている時間なのに、とても静かだった。 まわりが何もかも古ぼけてしまったような感じだった。
「実はみなに休暇をだしました」 「休暇?昨日までいた客は?」 「丁度お泊りのお客様も途切れる時期ですから、私一人でなんとかなります。」 「で、僕は手伝えばいいの?」「いえ、いろいろ、みなの様子を見てきたいただきたいのです。」「???」
主人が言うには、みんなの里は三叉路の向こうなのだそうだ。それぞれが家族のところへ戻っているので僕に様子を見てきてほしいというのだ。それなら休暇など出さなければいいのに…
「六地蔵がお供につきますから。」とも言っていた。 「は? 石は歩けないだろう?」といった瞬間、あ、ここなら歩くかもな。とつい笑ってしまった。何しろ僕はここへ来たのは六地蔵に運ばれてきたのだから。
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