睦月の戯言御伽草子〜雪の一片〜 Copyright (C) 2002-2015 Milk Mutuki. All rights reserved
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茶室に行くと昨日まで思っていたような不安はなくなった。 いつものようにお湯の沸く音と庭に降る雪の音だけだけれどなんだか安心できる、そんな感じだった。 「ご気分はどうですか?」 「うん、まあまあ」 「そうですか」 「うん」 いつもより短い会話だったけれどそんなことを気にする風もなく主人はお茶の用意をする。 「ごめん今日はお茶いらないよ」 「そうですか?落ち着くと思いますが・・食事のほうがいいようですね」といつものように笑いお膳をだしお重を広げだした。 「御節・・・?」 「そうですよ。あなたは毎年こういうお正月だったようなので」 「?」 「いえいえ、さ、お食べなさい。年越しそばはご用意できませんでしたが、お雑煮も用意できますよ。板長に頼んだら喜んで作ってくれましたからおいしいですよ。おうちの味とは違うでしょうけど」 「うちのあじ・・・?」 なんだか今日の主人は変だ、僕のうちって・・こんなもの食べたろうか? 年越しそば?雑煮・・・? というか、僕のうちって何処だろう? 「さ、お食べなさい。」 小皿に取り分けられた料理の鮮やかさ・・・主人の心地いい声 なんだか何かを思い出させる。なんだろうなんだったろう・・・?
部屋に戻って眠るまでずっと考えつづけ、料理の味などかんじなかった・・・
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