オレオレ
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「もしもし?」
と電話に出ると、いきなり
「あ、オレオレ」
と言われました。 聞いた瞬間、あまりにも無礼な言い方に嫌悪感を覚えました。 私の知り合いに、電話で名前を名乗らないような子は居ませんでした。 毎日会って声を聞いて分かるような子でさえ、名前を名乗るのが常識でした。
「誰?」
思い切り、不機嫌な声で聞き返しました。
「オレだよ。」
誰?と聞いても、相変わらず相手は「オレ」で分からせようとします。
「ごめん、誰?」
まるで、「オレ」で分からない私が悪いかのような押し付け的な言い方にムっとしながらも、もう一度聞き返しました。
「オレだよオレ」
その瞬間、私は「もしかして・・M君?」と思いました。 思ったけれど、M君とは一度しか会ってないし、声だって一週間前に一度聞いただけです。 それだけの関係の人間に、「オレ」の一言で自分を分からせようとする事に無償に腹が立ちました。 イライラする気持ちを隠そうともせず、私はわざと再度聞き返しました。
「ホントに分からないんだけど・・・誰?」
「オレだって。M」
ここまで聞き返しても「オレ」を言い続けては居たものの、やっとMだと名乗ってくれました。 まさかとは思っていましたが、相手が本当にM君だと分かり、隣には父が居る事もあり、余計にイライラしました。
「ああ、こんばんわ。どうしたんですか?」
素っ気ない感じで私が聞き返すと、
「いや、どうって。お前、電話してこないからさ」
M君にいきなり「お前」と呼ばれました。 そういう喋りが彼の特徴で、少々乱暴なだけだったのかもしれません。 でも、「お前」と呼ばれてますます嫌悪感が募りました。 それに、普段から家で女友達とも電話などしない私にとって、知り合って間もないM君に頻繁に電話しなければならないという理由が分かりませんでした。 一週間前に話したばかりなのに、責められる筋合いは無い。 そう思いました。
「え?でも、この間、話したよね?」
思わず口をついて出た言葉は、もう敬語では無くなっていました。 自分でも思いのほか、強い口調で言ってしまったことに驚きました。 M君は、それに対し
「それって、一週間も前じゃん?」
と言いました。 彼にとっては一週間は「も」であり、私にとっては「しか」だという感覚の違いでした。 咄嗟に、 「だから何よ?」 そんな言葉が頭の中を過ぎりました。 でも、まさかそんな言い方が出来る訳も無く。 そこで、ふと「なんで家の番号知ってるんだろう?」という疑問がやっと湧いてきました。 そもそも、教えても居ないから、電話の相手がすぐにM君だと分からなかったのです。
「っていうか、どうして番号知ってるの?」
頭の中では当然Y美が教える以外に無いと分かっては居ても、電話をされるのが嫌だったことを暗に伝えたくてわざと聞きました。 それに、私はすぐ側にいる父の存在が気になって仕方がありませんでした。 父に、妙な勘繰りをされるのが嫌で、「私はこの人に電話番号なんて教えてない」といのを、聞いてるか聞いて無いかも分からぬ父に伝えたかったのです。
「知ってるの?って・・Y美からじゃん?」
当然の答えが返ってきました。
「え?お前、電話番号教えたく無かったわけ?」
M君の口調が少し強くなりました。 正直に言えば、教えたくなかったので教えませんでした。 かけてこられたら困るから、私からは教えなかったのです。 だからと言って、教えてしまったY美を怒るわけにもいかず、M君にそれを言うわけにもいかないと思った私は、やんわりと、今は話せないという事を伝えたくて
「いや、私、家からは電話できないし。それにこの時間だと父が寝てるし、私ももう寝る時間だから」
と言いました。 するとM君は、
「こんな早くに?」
と聞き返してきました。 私が寝る時間だというのは半分嘘でした。でも、22時過ぎには眠っていたのも事実です。
「うん。うち、早いんだ。それに今もお父さん、側で寝てるし」
私は「だから電話を切りたい」という続きの言葉を飲み込みました。 そこまで言わなくても、いい加減気付くだろう。 そう思っていました。なのに・・・
「ふーん。やっぱ、御嬢様なんだな」
と詰まらなそうな半笑いのような声でM君は言い出しました。 M君は、部屋に電話があるからいつでもかけてと、Y美に言われていました。 「自由な家に住んでるアンタには、わかんねーよ」 そう言いたい気持ちでした。 もう、返す言葉が見付からず無言で居ると
「今週末さ〜、こっち来れない?」
と唐突に言われました。
「ごめん。バイト休めないんだ」
電話を切ろうとしないM君に対し、イライラするのを抑えながら答えました。 すると、
「ぁ〜んだよぉ、じゃぁ、いつなら休めるんだよ?」
と強い口調で言われました。 その言い方に、「なに勘違いしてるんだろこの人?彼氏気取りな訳?」と腹が立ち、
「今月はもう、シフトが決まってるから無理」
と、自分でも驚くほどつっけんどに答えてしまいました。 M君は、さすがに私の言い方に何かを感じ、カチンときたでしょう。
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